早くも東京五輪商戦 64年大会硬貨や切手に脚光
2020年夏季五輪の開催都市が東京に決定した。今回の決定に先駆けて、関連した商戦がすでに水面下で進んでいる。1964(昭和39)年の東京大会に関連し、切手や記念硬貨の売買が一般個人や業者間などで始まった。切手や記念硬貨の収集はブームの退潮が続いていただけに、関係者の期待は大きくなっている。
東京の四ツ谷駅近くで切手やコインの販売を手掛けているケネディ・スタンプ・クラブ(東京・新宿)。矢沢幸一郎社長はこの半年ほど、ある変化を感じていた。地方などで販売会を開くと、よく売れるようになった商品が出てきた。64年に発行された東京五輪の記念硬貨だ。現在1枚2000円の値段が付いている千円銀貨を「1人で一度に10枚ほど購入する人が出てきた」というのだ。去年まではこんなことはなかった。「世界遺産となった富士山が絵柄となっていることもあるが、東京五輪の実現がささやかれていたことは大きかったと思う」(矢沢社長)
オークション取引増える
東京五輪の記念硬貨は、日本初の記念貨幣だ。百円銀貨も同時に発行された。発行枚数は千円銀貨が約1500万枚、百円銀貨は約8000万枚だったようだ。
その後、東京五輪の記念銀貨はプレミア付きの商品として高く取引されることになる。趣味のコイン収集が盛んだった70年代、ケネディ・スタンプ・クラブでは状態のよいものを1万8000円で販売していた。大阪市内のコイン店の経営者は「バブル期には2万5000円が付いた」と振り返る。日本が繁栄に向かっていた当時の象徴として、コイン店で人気の定番商品となった。しかし、バブルの崩壊とともに趣味の収集人口も減少。一般的な保存状態の千円銀貨の店頭価格は1枚2000円まで落ち込んでいた。「プルーフ」と呼ばれる鏡のように光沢のある貨幣でも1万5000円程度にしかならないという。
東京五輪記念の百円銀貨も取引が活発になってきた。ネットでは1枚100円台、コイン店では300円前後と、店頭価格が2000円する千円銀貨より手ごろだ。ネットオークションの価格比較サイトを運営するオークファンによると、100円銀貨の有力ネットオークションでの取引数は12年に1079件。1~9月上旬は11年並みの827件に達し、「最終的には1240件となる見込み」(同社)だ。
ケネディ・スタンプ・クラブでは一部の未使用切手の売れ行きも伸びている。「東京オリンピック募金」切手だ。切手は五輪マークにやり投げ、柔道などの競技20種類のイラストをあしらったデザイン。1枚の額面は5円だが、寄付金として5円が加算されていた。61年から何度か発行された。当時五輪の施設整備などに充てるための募金手段として売られた切手だ。例年なら業者間ではまず売買の対象にならない。このシリーズを含め、今回の招致決定までに東京五輪関係の切手約20シートを1枚2000円で販売した。買い付けたのは通販業者で「東京招致が決まった場合、恐らくセットにして通販の商品として販売するつもりなのだろう」(矢沢社長)。
切手市場は縮小
これらの切手をすでに販売している業者がいる。金券ショップが集まる東京の新橋駅前。切手や金券を販売するウィングカードシステム(東京・港)の中山定則社長は、20種類ある募金切手をそれぞれ切り離し、台紙に貼り付ける作業に忙しい。同社は20枚入りのセット商品を400円前後で販売している。昨年は年間で20セット程度の売り上げだったが、今年は五輪招致への盛り上がりもあり、すでに50セットにのぼる。東京の招致決定で、「さらにこれから50セット売れる」と見込んでいる。
記念切手の市場はすでに縮小している。国内で新しく発行される切手の発行枚数は高水準のままなのに対して、若者を中心とする趣味の収集人口は減った。明治・大正時代に限られた発行枚数の少ない切手だと、アンティーク的な価値もあり、店頭価格が数百万円となるが、50年前に大量に出回った五輪切手にはそれほどもプレミアはつかない。
64年の東京五輪の際に切手を購入した人が亡くなり、「15年ほど前から遺族が売りに来るケースが増えた」(中山社長)。当時は切手の将来の値上がりを見込んで投資目的で購入した人も多かったが、価値の判断がつかない遺族が大量に店に持ち込んでくる。
まだ東京五輪の切手はプレミアが付くだけマシかもしれない。中山社長は72年の札幌冬季五輪や98年の長野冬季五輪に関連する切手については、今後も本格的に店頭で扱う考えはないと話す。五輪ブームはこれから盛り上がりそうだが、プレミアがあまり付かず、五輪切手全体でみれば販売会社の取扱意欲は高まらない。
ただ、今後東京五輪の切手や記念貨幣に限れば、「世間で関心が高まれば買い求めに来る人が増え、値段が上がるかもしれない」(大阪の切手・コイン商)との期待が高まっている。新しく発行されるとみられる20年東京五輪の記念切手や記念コインとともに、64年東京五輪の切手や銀貨を並べてみようと考える人も現れるとみられ、切手・コインの販売店は久々の商機を感じているようだ。(斎宮孝太郎 小山隆司)
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