恋愛は量子論で解決 現代アーティスト スプツニ子!さん
現代アーティストで米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボ助教のスプツニ子!さんは、スラッとした長身のモデルのような女性だ。ともに数学者である日本人と英国人の両親の間に生まれ、飛び級で英インペリアル・カレッジ・ロンドン大に進学。数学と情報工学を専攻したバリバリのリケジョでもある。同世代の女性から圧倒的な支持を集めるスプツニ子!さんに、リケジョの魅力や生き方について聞いた。(聞き手は林英樹)

難題にも「できる」と即答
――最新作では夢をかなえるために奮闘するリケジョを描いている。リケジョとはどんな女性なのか。
「理系を専攻していると、男っぽいと思われがちだが、まったく違う。きちんとメークをしておしゃれも楽しむ。女性は一般的に無理な指示を受けると『できません』と拒否するが、リケジョはあえて『できます』と言ってやってみることが多い」
「私は量子論を私生活にも応用している。恋愛など私生活で良くないことが起きると、『観測されないものは存在しない』と思い込めるので傷つかない。相対性理論で解決できる問題もある」
――リケジョはどう振る舞えばいいのですか。
「絶対に泣き寝入りしてはだめ。女性は色々なことができない方がかわいいという社会的な暗示があるので、あえて『自分はできる』と強く思い込んでほしい」
「女性が少ない環境なら自分しか出せない独自の視点を見つけること。社会が守ってくれないのは逆に社会から自由というふうに考えて、日本にこだわる必要なんてない。身軽に海外に飛び出せばいい」
「最新作を視聴した多くの女性から感動したと言われた。がんばる女性を正面から取り上げる映像が少なかったからだと思う。リケジョは必ず男性社会の壁にぶつかる。侮辱的な対応を受けることも多い。かといって『男性に対峙する』という意識を強く持ちすぎると、相手と同じレベルに落ちてしまう」
独自の視点見つけて
――リケジョで得したことはありますか。
「数学者の両親の教育のおかげで幼い頃から『良い会社に入ってちゃんと結婚をして……』という考えはなかった。学問は金もうけのためではない、新発見は貴いものという意識がある。お金や生活は後から付いてくるもの。自分しかできないものを形にできれば誰かがその対価を払ってくれる」
――なぜ美術系の大学院に進んだのですか。

「理系の学問で大成するのに必要な要素のうち実力は5%程度。残りの95%はその学問に対する愛情が占める。大学入学後に私は他の同級生ほど学問を愛していないと思うようになった。そんな中、フェイスブックやユーチューブが登場。世界が変わるテクノロジーが生み出される最前線に女性が少ないのは危ないことではないかと感じ、アーティストとして橋渡しをすることを決めた」
――将来の夢は何ですか。
「人の発想が変われば世界が変わる。常識や価値観に揺さぶりをかけるような作品を手がけていきたい。あと今回の作品で製作したハイヒール付き月面車を本当に月に持っていきたい。東京五輪のアートディレクターもやりたい。将来の立ち位置は分からないが革新的なものを作るという芯の部分は変わらない」
――若いリケジョに向けたメッセージは。
「1人だけでできることは限られるので、周囲の人の協力が必要になる。そのときに自分が一番自分のことを信用しないと、誰もついてきてくれない。高校時代はコンピューター部に入って数学大会に出るような根暗な女の子だった。しかも男性にもてたい気持ちがこじれて、角刈りだった。そんな自分が嫌で性格を矯正した。自分の本当の力を信じ抜く強い気持ちを持っていてほしい」
カラスと交信するロボットや女性の生理を疑似体験する機械など、ジェンダーやテクノロジーをテーマに映像・音楽で表現する作品を手がける。最新作「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」ではハイヒール付き月面車を開発するリケジョが登場する。28歳。