北海道新幹線に乗ってみた H5系、雪の中を快走

午前9時前、新函館北斗駅には約200人の報道関係者が詰めかけていた。11番線ホームに降りると、すでにH5系が到着し、艶やかな緑と白の長い鼻を自慢げに光らせていた。流線形の車体にはところどころ雪が張り付いている。
記者が陣取ったのは普通車3号車の進行方向向かって左の窓側の席。木古内駅(木古内町)に到着する直前に海を眺められると聞いたからだ。「間もなく列車が発車します」。午前10時ちょうどに列車は滑らかに動き出し、木古内駅まで約35キロの旅が始まった。

車内を眺めてみよう。濃い青の床やベージュの座席など落ち着いた色合いで、床には雪の結晶のデザインをほどこすなど北海道らしさを演出している。照明はほどよく明るい。発車から2分後、列車はきょうの最高速度、時速210キロに到達。営業最高速度(260キロ)まで出す予定だったが、レールの積雪が多くて速度を抑えた。
スピードが出ても車内の揺れや振動は在来線に比べて圧倒的に小さい。原稿の締め切りに追われる記者は、試乗中の様子をメモするためパソコンを開いてキーをたたくが、苦もなく作業できる。出張客には便利だ。

ほどなく、左手に北海道唯一の新幹線の車両基地「函館新幹線総合車両所」(七飯町)が見えてきた。灰色に赤い模様が入った建物は、高速で駆け抜ける新幹線から眺めるとまるでブロックのおもちゃのようだ。
「あと3分ほどで木古内駅に到着します」。到着直前、トンネルを抜けると、きらきらと輝く濃紺の函館湾を望むことができた。もう少しゆっくり車内を楽しみたいが、非情にも「お出口は左側です」とせかすアナウンスが響いた。H5系は13分で試乗区間を駆け抜け、木古内駅に降りたった。

新幹線開業後、木古内駅から五稜郭駅までは第三セクター、道南いさりび鉄道が運行する。海岸沿いを走り、絶景を楽しめるのがウリだ。ちなみに青春18きっぷを使う旅行客が「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」を買うと、道南いさりび鉄道全線と北海道新幹線の木古内―奥津軽いまべつに乗車して本州に渡ることもできる。
木古内駅からH5系で折り返して新函館北斗駅に戻った。車窓から見える雪原は目を細めたくなるほどまぶしく、雪化粧した道南の山々も美しい。初めて乗った北海道新幹線。運行主体の北海道旅客鉄道(JR北海道)が、14年4月にH5系のデザインを発表した日を思い出した。レールの検査データ改ざん問題などを受けてトップに就いたばかりの島田修社長が、初めて開いた定例記者会見で緊張した面持ちで説明していた。

あれから2年弱。この間も青函トンネル内での特急列車発煙事故、貨物列車脱線事故など、北海道では事故が絶えなかった。JR北海道や地元にとって悲願の新幹線開業まであと2カ月を切り、開業準備は正念場を迎えている。
「新函館北斗駅に到着します」――。物思いにふけっているうちに、H5系は静かにホームに停車した。開業したら、東京まで4時間2分の鉄道の旅を試してみようか。(石橋茉莉)
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グランクラスは北海道新幹線と直通運転する東北新幹線や、北陸新幹線でも導入されている。乗車率はともに6割程度だそうだ。北海道新幹線でも同程度の乗車率を目指すという。
新函館北斗―東京間の直通列車のグランクラスには専任アテンダント2人が常駐して、きめ細かいサービスを行う。発表会でデモンストレーションを披露したアテンダントの立ち居振る舞いには心引かれた。
アテンダントは人気職種で、高倍率の中から選ばれたそうだ。日本レストランエンタプライズ(東京・港)によると、「チャレンジ精神旺盛な人、明るい人、人に接するのが好きな人」の3点が採用の決め手だそうだ。うちの娘はなれるかな……。(井上達也)