[FT]韓国、「財閥創業者を特赦」の不思議
法の矛盾潜む
複数の国々がシステム上重要な金融機関、つまり、大きすぎてつぶせない銀行の扱いに悩んでいる一方で、韓国は「システム上重要な人物」という概念の問題に取り組んでいる。
朴槿恵(パク・クネ)大統領は先週、SKグループの創業一族の崔泰源(チェ・テウォン)会長に特別赦免を与えた。SKグループは韓国で3番目に大きなチェボル(財閥)であり、崔泰源氏は同グループの複数の企業から4000万ドルを超える資金を横領した罪で懲役4年の刑に服している最中だった。同氏にとっては2度目の、株主をだました罪での有罪判決だった。
しかし、韓国経済にとって重要な人物であるということを根拠に、主流派の経済団体は崔泰源氏の釈放を求める運動を展開した。朴大統領は、特赦を正当化するコメントの中で、この根拠に暗黙の承認を与えた。また、日本の支配から解放されて70年になることを踏まえて、崔氏以外の数千人についても特赦を発表した。
釈放された崔泰源氏は17日、グループ会社の経営陣との会議を仕切ることでこれに応えた。会議の中で同氏は、大規模な投資計画を実行に移すよう促したという。
韓国では以前にも、大統領が大物財界人に特赦を与えて釈放した例がいくつもある。朴槿恵大統領はこうした特赦をかつて批判していた。
創業家の威光が非常に強い
経済にとって重要な人物だから釈放する。そんなロジックはばかげていると思われるかもしれない。確かに、ほとんどの先進国では、株主をペテンにかけて捕まった大企業の経営者が同じ会社に戻って何らかの役職に就くことはないだろう。同じ罪を2度犯したとなればなおさらだ。
ところが、チェボルの会長たちを最も手厳しく批判する人々でさえ、彼らがいないとリーダー不在の状況が生じる恐れがあることを認める。韓国の企業文化では、創業家の威光が非常に強いのだ。
朴大統領の実父で独裁者だった朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が1960年代に韓国の急速な工業化を計画し、それを実行に移す経営者らを選抜・育成して以来、チェボルは韓国の目覚ましい経済発展の中心を担ってきた。
創業家が企業の経営を監視する仕組みに利点があることは世界中の学者が論じており、長期的な視点から意思決定が行われる傾向があることも指摘している。韓国では、チェボルの創業家支配に取って代わる現実的な方法は存在せず、この支配をいかに存続させるかだけが問題だという見方が当然のこととして広く受け止められている。しかし、この過程では違法行為がたびたび行われている。
世界で2番目に高い相続税率
「分かってもらわねばならないのは、彼はSKの支配を確立するのに十分な資金を相続しなかったということだ」。崔泰源氏の大学時代の友人は先日、本紙(フィナンシャル・タイムズ)にこう語った。「だから、その問題を解決する資金を投資で稼ごうと考えてカネを借りた。本当の意味では盗みじゃない」
崔氏を擁護するこの発言は、チェボルにからむ多数の不正行為の背後にある最大級の要因にそれとなく触れている。韓国の相続税率は50%で、世界で2番目に高い。そのため、明らかに合法的な手段だけでは、グループ企業を束ねる複雑な株式保有構造への創業家の支配を維持できないところが出てくるのだ。
チェボルに対する創業家支配は維持するに値すると韓国政府が考えているのであれば、この相続税を廃止し、不正が行われるリスクを低くすることもできるだろう。2000年以降だけでも、相続税を廃止した国や地域はスウェーデン、オーストリア、シンガポールなど13に上っている。
相続税が昨年、韓国の税収に占めた割合はわずか0.8%で、撤廃の結果生じ得る税収減は法人税の小幅な引き上げで埋めることができるかもしれない。韓国の法人税率は先進国平均の24%を若干下回る水準だ。
こうした一族の地位を保護するための税法の変更は、逆累進であり、不公平だと韓国の一部から非難されるだろうし、政治的に不可能である公算が大きい。だが、もし国の企業制度を支える法的な枠組みが、重大犯罪に対する有効な有罪判決を大統領が繰り返し、組織的に介入して帳消しにする事態を伴うのであれば、どこかの段階で問題にしなければならない。政府としては、法を損なうよりは改正した方がいい。
By Simon Mundy in Seoul
(2015年8月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(翻訳協力 JBpress)