世界初の全線「架線レス」 台湾に次世代路面電車
建設ITジャーナリスト 家入龍太
台湾第2の都市・高雄で市内をぐるりと囲むように走る、全長22.1kmのLRTの建設工事が行われている。そのうち、海側を走る8.7kmの第1期工事区間は現在、急ピッチで工事を行っており、2015年末に開業する予定だ。
秘密は蓄電装置にあり
このLRTには大きな特徴がある。電力で走る電車にもかかわらず、全線にわたって駅間には架線がないことだ。
その秘密は、車両に搭載された「キャパシター」という蓄電装置にある。実は、各駅には車両の停車スペースの上にごく短い架線が取り付けてあり、停車するたびにパンタグラフを上げて架線に接触させる。
そして停車中の20~25秒という短時間でキャパシターに充電し、次の駅まで走行する電力を車両に蓄えるという仕組みだ。充電が終わったら、またパンタグラフを下げて走行を続ける。
また、走行中にブレーキをかけるとモーターが発電し、その電力(回生電力)をキャパシターに充電できるので省エネにも貢献する。
このLRTシステムは、スペインのCAF製のものだ。高雄市政府捷運工程局のチーフエンジニア、シ・メイメイ氏は、「一部区間で架線レスにしたLRTの例は他国でもあるが、全線にわたって架線をなくしたのは高雄市が世界で初めて」と胸を張る。
高雄市が導入を進めるLRTの注目ポイントは、架線レスのほかにもう一つある。それは、信号制御に導入した「路面電車優先システム」だ。
道路と平面交差することの多いLRTは、道路の信号によって停車を余儀なくされるため、定時運行が難しい面もある。そこで高雄市では、路面電車が近づくと、路面電車を優先的に走行させるように信号を制御し、定時運行と利便性の向上を図るシステムを導入したのだ。
軌道敷の80%を緑化
高雄のLRTは、架線がないことですっきりしたデザインとなるのに加えて、80%の軌道敷を緑化して、さらに景観面や環境面を引き立てる。レールには安全性の高い溝付きレールを採用している。
最新技術を取り入れたLRTだけに、駅舎などのデザインも洗練されている。台湾の先住民族であるアミ族の民族衣装に使われる色彩も取り入れた。
例えば、高雄国際空港につながる地下鉄との乗換駅「前鎮之星(C3)」は、アミ族の民族衣装に使われる赤、黒、オレンジのカラーでデザインされている。
CGアニメーションを使って合意形成
高雄市政府によると、LRTの設計や施工には特に、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)は使っていないと言う。
ただし、市政府はCGアニメーションを活用した動画を作成し、YouTubeに公開している。台湾では、一部の建設会社や大学がBIMやCIMの活用に力を入れていることもあり、こうしたCGアニメーションはごく当たり前のものになっている感があった。架線のないLRTや緑化した軌道敷など、これまでの路面電車とは違った乗り物に対する市民の理解や合意形成の促進に、IT(情報技術)が一役買っている形だ。
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/。ツイッターやFacebookでも発言している。
[ケンプラッツ2015年5月27日付の記事を再構成]