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航空機の世界第三極 中京地区に誕生

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戦後70年を迎える。焼け跡から立ち上がり日本の高度成長に貢献したのは重厚長大型産業が立ち並んだ四大工業地帯だ。バブル崩壊を経てグローバル化が進む今、各地域で産業や技術の新しい集積が芽生え始めた。第1部では航空機産業や宇宙関連企業の連携が進む中京エアクラスターの全貌に迫る。

異色の巨人同士が握手

2014年12月。航空機産業とは無縁だった会社が米ボーイングの機体生産を手掛ける三菱重工業大江工場(名古屋市)を訪れた。産業用ロボットで世界シェア首位のファナックだ。「ぜひ力を借りたい」。三菱重工交通・輸送ドメインの冨永史彰副ドメイン長はファナックの稲葉清典専務取締役に呼びかけ、真剣なまなざしを向けた。

稲葉氏は国産ジェット旅客機「MRJ」を開発中の小牧南工場(愛知県豊山町)にも足を運んだ。「(主翼のアルミ合金の)外板と骨組み材を取り付ける作業をロボットでできないか」「胴体パネルのリベット(びょう)による接着を高効率にできるのでは」。ロボットを使った次世代生産技術の実用化を視野に、両社は急接近し始めた。

ロボット導入は省人化や安定した品質だけでなく、工作物を固定したり加工位置を決めるための治具を減らしたりできる。「動く・止まる」のロボット制御技術で自動車を中心としたものづくり現場を変えてきたファナックの航空機産業デビュー。並んでMRJは5月にも初飛行し16年以降量産が始まる。競合するエンブラエル(ブラジル)に立ち向かうには品質、コスト、納期に革新性がいる。異色の巨人同士の握手はその第一歩だ。

日本の航空機産業の生産額は約1兆4900億円ある。三菱重工や川崎重工業が基幹拠点を置く中京地区は約半分を稼ぎ出す。愛知県や岐阜県も音頭をとりながら20年までに9千億円を目指す。中京地区はボーイングのお膝元の米国シアトルや欧州エアバスの企業城下町であるフランス・トゥールーズに次ぐ第三極形成の旗を掲げる。

中京工業地帯の源流は木曽川の豊富な水量や肥沃な濃尾平野を元にした綿花栽培や織物業にある。明治時代、豊田佐吉氏の自動織機発明で軽工業が発展。戦前は国産戦闘機「ゼロ戦」などを量産し、戦後は米国製軍用機のライセンス生産を請け負い設計や品質管理のノウハウを吸収してきた。

高度経済成長期は三重県四日市市の沿岸を中心とした石油化学コンビナートが重化学工業地帯を形成。トヨタ自動車を頂点とする膨大な下請け企業群で一気に工業力を高めた。製品出荷額で京浜、阪神、北九州をしのぐ日本一の工業地帯だ。

特に航空機産業は初の国産旅客機「YS11」で経験値を高め、1980年からはボーイング「767」を皮切りに中・大型機の機体分担生産を次々と担った。今や「ボーイングの最も重要なパートナー」(同社日本法人のジョージ・マフェオ社長)に駆け上がった。

周辺の下請けメーカーを束ねて育てる

そして現在、足元では旧来事業モデルの殻を破る動きが盛んだ。航空機部品を手掛ける天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)。ここでアルミ合金部材のさび止めなどに使う大型の表面処理設備が稼働した。天龍はヘリコプターや防衛省向け哨戒機などを製造する川崎重工岐阜工場(同)に構造部品を納入するが、両社は今年から同工場向けの下請けメーカーでつくる「川崎岐阜協同組合」11社が天龍の設備を利用し、まとめて処理する改革に着手する。

従来は川崎重工が工程ごとに部品加工を各下請けに発注、再び戻してもらう「ノコギリ」発注を繰り返していた。下請けは川崎重工の分工場のようだったが「ファブレス」化で「周辺の下請けメーカーを束ね、我々と直接取引する1次部品会社(ティア1)へと育てる」(川崎重工航空宇宙カンパニーの石川主典プレジデント)狙いだ。川崎重工は他にも3社ほどの「ティア1」の育成を進めている。

航空機の部品点数は200万~300万点と自動車の100倍にもなる。産業の裾野は広く、チタンや炭素繊維複合材など材料あたりの部品単価は高い。だが自動車よりはるかに厳しい品質管理が下請けメーカーの参入を阻む。航空機部品は素材、製造設備、工程、供給方法に至るまで事細かにボーイングやエアバスの認定が必要。英語文書による手続きも複雑で、米国の審査機関が定めた国際認証制度「Nadcap」が取引条件になるケースも多い。投資回収も10~20年はざらで参入を諦める企業は計り知れない。「時間はかかるが、産業の裾野を広げ層も厚くしていかなければ次の成長はない」(石川氏)。覚悟がいる。

三菱重工の冨永氏は「自前主義では限界がある。オープンイノベーションこそ生産技術の原動力になる」と強調する。名古屋誘導推進システム製作所(愛知県小牧市)では、DMG森精機や超硬工具最大手のサンドビック(スウェーデン)など工作機械や工具など24社が集結。「Gマット」の名で企業の垣根を越えたチームを作り、切削効率の向上など課題を決め、研究開発を進める。タービンブレードの切削時間を半減したりするといった成果も出始めた。

日本航空機開発協会によると、33年の民間航空機の運航機数は3万6770機と13年の約2倍に達する見通し。この先20年に300兆円以上の需要が眠る。中京エアクラスターはサプライヤーを育て、周辺産業を吸い寄せ、上昇気流をつかむ。

 上阪欣史、遠藤邦生、名古屋支社 中川渉、亀井慶一、津支局長 岡本憲明が担当します。

[日経産業新聞2015年2月4日付]

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