国家持たないクルド人、対「イスラム国」で存在感
クルド人は「国家を持たない最大の民族」と呼ばれる。イラク、シリア、トルコ、イランなどに2500万~3000万人が暮らすとみられる。英仏ロの3カ国が第1次大戦中に旧オスマン帝国領の分割について定めた協定によって居住する地域が分断され、現在にいたる「悲劇の民族」だ。
第1次大戦後の1920年に締結されたセーブル条約にはクルド人の自治区を建設して独立させることが盛り込まれたが、約束はほごにされた。第2次大戦後の46年にも国家の樹立を宣言したが、約1年で崩壊した。
その後も周辺国や大国の思惑に翻弄される歴史をたどった。
戦後、イランとイラクはクルド人の内紛に乗じてそれぞれ別のクルド勢力を支援していたが、75年に両国が締結した「アルジェ協定」でイランがイラク内のクルド人への支援を停止するとイラク軍はクルド人への激しい弾圧を加えた。88年にはイラクのサダム・フセイン政権が化学兵器を用いて5千人のクルド人を虐殺したとされる。
イラクやシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大する混乱で、クルド人が悲願の独立国家や自治権の拡大に向け前進したのは皮肉なことだ。イラクやシリアのクルド部隊は規律のとれた有力組織だ。ISとの戦闘で大きな成果をあげ、これを頼みとする米国は武器を与えて支援している。
ところが、自国のクルド人の独立機運が高まることを警戒するトルコが昨年から国内のクルド人反体制派勢力への攻撃を激しくしている。クルドの将来をめぐる問題はいまも宙に浮いたままだ。