若い世代に夢与える科学技術計画に
科学技術立国を揺るぎないものにするため、日本の研究開発をどう強めていくか。政府の総合科学技術・イノベーション会議(議長安倍晋三首相)が、来年度から始まる次期科学技術基本計画の素案をまとめた。
基本計画は5年ごとに定め、科学技術政策の指針となる。過去5年を振り返ると日本から6人のノーベル賞受賞者が出て、世界から称賛された。だが受賞業績の多くは20~30年前のもので、足元の研究開発をみると心配な点が多い。
日本発の論文数は15年前に米国に次ぎ世界2位だったが、その後中国や英独に抜かれて5位に転落した。海外の頭脳と知恵を磨く国際共同研究も他の先進国に比べて低調だ。少子高齢化で研究人口の減少も見込まれる。
次期基本計画はこうした現実をしっかり見据え、危機感をもって研究開発の立て直し策を示すべきだ。人材育成や大学改革、産学連携の強化など課題は多い。
同会議の有識者会議がまとめた素案は、新たな技術やビジネスモデルから産業を起こす「イノベーションの創出」を前面に打ち出した。日本が得意とするセンサーやロボット、超微細の加工技術などを伸ばし、産業競争力の強化につなげるとした。
同会議は昨年、総合科学技術会議が改組され、イノベーション政策づくりが新たな役割に加わった。イノベーションの種を生む研究開発を強め、成長戦略に生かすことは同会議の重要な使命のひとつである。
一方で、イノベーション政策に偏りすぎ、産業に直結しにくい基礎的な研究を軽視していないか。科学の原点は真理の探究で、そこから意図しなかったイノベーションが生まれることもある。長い目で科学研究の多様性を確保することも基本計画では重要だ。
そのためには研究人材の持続的な育成策が欠かせない。博士号を取っても非正規職員のままの「ポスドク」が1万6千人を超え、博士課程への進学をめざす学生が減っている。科学に関心をもつ高校生の割合も主要国で最低水準だ。
理科好きの中高生を増やし、職業として研究者を選ぶ若者を後押しする仕組みが要る。硬直的な大学人事を見直し、若手を大胆に登用することも必要だ。若い世代が科学技術に夢を持てるように、メッセージを発信することも基本計画の役割であるはずだ。