過ぎた介入が生んだ佐賀の乱
衆院選の勝利の余韻に浸っていた安倍政権を時ならぬ佐賀の乱が襲った。11日投票の佐賀県知事選で、与党の推薦候補が農政連など農協関連団体が推した無所属候補に敗れた。
農家を敵に回して選挙は戦えない。自民党内には浮足立つ向きもあるようだ。4月の統一地方選を控え、全国農業協同組合中央会の抜本改編などを含む農協改革の方向性を見直すべきだとの声もちらほら聞こえてくる。
それは間違いだ。農家の働き手が高齢化する中で、農業県の佐賀に未来はあるのか。選挙戦ではそんな論戦が盛り上がったが、両候補者の主張にそれほど大きな違いがあったわけではない。
当選した山口祥義氏は「農産品をブランド化し、販路を世界に広げる」と公約した。農協依存を批判して「改革派」を印象付けようとした樋渡啓祐氏はうまく対立軸をつくれなかった。
かみ合わなかったこの論戦をもって、安倍政権が進める農協改革が全否定されたと受け止めるのは無理がある。自民党の敗因はむしろ、候補者調整を巡る首相官邸・党本部と佐賀県連の不協和音にあったとみるべきだ。
各種選挙において自民党は伝統的に地方組織が候補者を発掘し、党本部に公認・推薦を申請するという段取りを踏んできた。今回の知事選では官邸・党本部が中央主導で樋渡氏の擁立に動いた。
山口氏は選挙戦で「佐賀のことは佐賀で決めよう」と呼びかけ、首長や地方議員がはせ参じた。
衆院選の勝利などによって、永田町では官邸主導がますます強まっている。そうした政治状況が、官邸・党本部に「中央で決めれば地方は必ずついてくる」という過信を生んだのではないか。
中央と地方のパイプ役を長年、自任してきた自民党の対話力が低下しているとすると、安倍政権が進める地方創生の先行きも心配になる。地方が求めるのはどんな改革なのか。中央がやみくもに口出しすればよいわけではあるまい。