農業の構造改革に後退は許されない
安倍政権は農業を成長産業と位置づけ、農地の集約や企業参入の促進、生産調整(減反)の見直し、農業協同組合改革といった具体策を打ち出してきた。いずれも農業の競争力を高めるには欠かせない規制改革だ。
そうした取り組みをどう前に進めるか。各党にはそんな政策を競ってもらいたいが、論戦は迫力を欠く。まず安倍政権自身が足元では後退しているようにみえる。
政府はコメの余剰対策として来年度の生産目標を削減し、目標より生産量を減らせた都道府県に特別な補助金を支給する方針だ。減反を廃止するのかどうかが不明確で、現場の農家も戸惑う。
政府はまた、コメ価格の急落を食い止めるため、コメ卸などでつくる米穀安定供給確保支援機構を利用し、新米約20万トンを市場から隔離保管する対応も検討する。
自民党が検討する収入保険や民主党の戸別所得補償など、農業収入が大きく落ち込んだ場合に影響を和らげる制度は必要だ。ただ、それは生産コストの削減に取り組む農家を後押しし農業の構造改革を促す設計にしなければならない。残念ながら、そこまで踏み込んだ政策論は聞こえてこない。
安倍政権は来年の通常国会に農協法の改正案を提出する構えだ。農家と地域の単位農協のやる気を引き出すには、農家による農家のための協同組合という農協本来の姿に戻す必要がある。
焦点は、農協法上の位置づけと監査権限の維持にこだわる全国農協中央会(JA全中)だ。岩盤規制や既得権益との対決姿勢を鮮明にする維新の党に対し、安倍晋三首相は「力で相手を倒すのではなく、説得して(農業改革などを)前に進めたい」と、対話を重視する構えを示している。
農業人口の平均年齢は66歳を超え、耕作放棄地の面積は全耕地の1割近い。畜産・酪農では東日本大震災の影響や飼料高で離農が進み、食肉価格の上昇や乳製品の不足が目立つ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の結果にかかわらず、農業改革に猶予はない。
安倍政権の改革姿勢を受け農業に参入する企業は増えている。農業の競争力を高め、若い就業者を増やすうえで企業の持つ経営ノウハウや技術力は不可欠だ。この流れを途絶えさせてはならない。