リニア新幹線、開業すると何が変わる?
からすけ 2027年開業予定だから、僕はもう働いているよね。乗るのが楽しみだな。でも、今の新幹線も十分速くて便利だと思うけど。
災害に備えて「2本立て」に
イチ子 磁石(じしゃく)の力で車両を浮かせて進むリニア新幹線は時速500キロ。今の新幹線が約300キロだからすごいスピードよね。ほかに、大きな違(ちが)いは何だと思う?
からすけ リニアは運転席がないって聞いたよ。
イチ子 そう。車両から離(はな)れた場所で磁石の力をコントロールするから、リニアには運転席が必要ないの。それと、窓から見える景色もだいぶ違うわね。
からすけ リニアはどんな景色が見えるの?
イチ子 実は、リニア新幹線の品川―名古屋間のうち、86%の区間は地下やトンネルの中。ほんのわずかな地上を走る部分でも、走っている音が住宅地に聞こえないようにするため、線路の周りをコンクリートで覆(おお)うそうよ。
からすけ それじゃあ超高速の地下鉄に乗ってるみたいだね。外がずっと真っ暗じゃつまらないな。
イチ子 そうならないために、コンクリートにたくさんの窓を作ることも考えているそうよ。「パラパラ漫画(まんが)」のように連続して景色が目に入ってくるんだって。
からすけ そんなことも考えているんだ。でも、名古屋や大阪までは今の東海道新幹線でも行けるんだから、そこまで苦労してつくる必要はあるのかなあ?
イチ子 災害への備えがいちばん大きな目的といわれているの。地震などで東海道新幹線が使えなくなったときでも、リニア新幹線があれば行き来ができるでしょ。それに、東海道新幹線は1964年の東京オリンピックに合わせて開業したから今年で49歳。将来、古くなったトンネルなどを徹底的(てっていてき)にチェックする時に、一部の区間をストップできるしね。
からすけ 名古屋から東京に通勤(つうきん)や通学する人もいるかなあ。
イチ子 いると思うわ。品川駅から名古屋駅までの乗車時間は最速で40分。埼玉や千葉から普通の電車に乗って東京へ行くのとあまりかわらないわ。大阪にリニア新幹線が通れば東京から約70分で着けるから、日帰りで遊びに行くことも簡単(かんたん)よね。
からすけ 今の新幹線よりたくさん走るのかな?
イチ子 今のところ、1時間あたり5本程度走らせる計画みたい。東海道新幹線は最大15本だから、それよりは少なくなりそうよ。
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からすけ 2020年の東京オリンピックに間に合うように工事を早められないの?
イチ子 工事を計画するJR東海は「無理です」と言っているわ。リニア新幹線は1962年から研究が始まった、とても気の長い構想(こうそう)なの。安全に人を運ぶための技術を高めたり、何百キロものコースをつくったりする必要があるから、いきなり急げと言われても、難(むずか)しいと思うわ。
からすけ もう50年もかかっているんだ。
イチ子 大阪までリニア新幹線がつながるのは2045年の予定で、JR東海がすべて負担する建設費用は9兆円になるそうよ。
からすけ すごい金額だなあ。地下やトンネルの工事も大変そうだし。
イチ子 山を避けてクネクネ曲がったらスピードが遅(おそ)くなるので、リニアはほぼ一直線のルートを走るようにつくるのよ。その分、品川―名古屋間の走行距離は東海道新幹線より2割短くなるけど、難しい工事が待っているわ。2千~3千メートル級の山々が連(つら)なる南アルプスを貫通(かんつう)するトンネルを造る必要があって、途中(とちゅう)には大きな断層(だんそう)がある地盤(じばん)もあるそうよ。
からすけ そうか。でも完成したら世界に自慢(じまん)できそうだね。
イチ子 もちろん。日本のリニアの技術を世界にアピールするチャンスになるわ。この前、安倍首相もアメリカのオバマ大統領にリニアの技術を宣伝していたわよ。
からすけ 完成まで待ち遠しいなあ。
イチ子 山梨ではすでにリニアが走っているのよ。実験線といって、車両がスムーズに走行できるかを約40キロの線路で試しているの。来年度にも、私たちのような一般の人向けの体験乗車が始まるそうよ。楽しみね。
戦後急成長を象徴した新幹線
1964年の東京五輪開幕に合わせて開業した東海道新幹線は、当時、世界最速の鉄道だったことから「夢の超特急」と呼ばれ、日本の戦後復興(ふっこう)と60年代の高度経済成長を象徴するものでした。
直後の66年にテレビ放映された特撮(とくさつ)ドラマ「ウルトラQ」の中に「地底超特急西へ」という話があります。それには時速約400キロで東京・大阪・北九州を3時間で結ぶ特急列車が登場し、ほとんどが地底トンネルを走るという設定はリニア中央新幹線のようです。その頃、まだ子どもだった私は、リニアモーターカーが走る近未来の空想の街が乗り物の本に描かれているのを見て、胸(むね)を躍(おど)らせた記憶があります。
その後、新幹線は次々と路線を延(の)ばし、人々の生活圏(けん)は広がり、新幹線が走る静岡県や栃木県、群馬県などから東京への通勤や通学も可能になりました。一方で、新幹線は大都市への人口の流出を促(うなが)し、地方の過疎化の要因の一つになったという指摘(してき)もあります。
[日本経済新聞朝刊ニュースクール2013年9月28日付]