台湾の自転車王、過去の常識打ち破る
「台湾を『自転車の島』にしよう」。3月に台北市で開かれた国際自転車展示会。世界最大の自転車メーカー、台湾・巨大機械工業(ジャイアント)の劉金標董事長(78)は聴衆に呼びかけた。2012年に過去最高の620万台を生産し、世界有数の高級ブランドを築いた自負がにじむ。
ジャイアントは米大手からの受託生産で成長したが、1980年代に低コストの中国勢に注文を奪われた。苦境に陥った劉が仕掛けたのが自社ブランドの展開だ。あえて激戦の欧州市場を選び、入念な市場調査を実施。一流デザイナーの採用や超軽量の炭素繊維の導入を進め、高級ブランドイメージを浸透させた。
苦労を重ねたが、成果は如実に表れた。台湾の自転車の平均輸出単価は12年に約418米ドルと10年前の約3.3倍に上昇。「単なる乗り物にとどまらない価値を付ければ、消費者はお金を払う」と劉は話す。
伝統事業と決別
高い技術力を誇ってきた日本のモノづくりが揺らいでいる。中国や韓国など低コストのアジア勢が台頭。液晶テレビの不振にあえぐシャープはその象徴だ。さらに下請けから脱し、世界に打って出るジャイアントのような勢力が後に続く。
アジア勢との競合で守勢に立ったオランダ・フィリップスの決断は早かった。12年4月、不振のテレビ事業をテレビ受託生産大手の台湾・冠捷科技(TPVテクノロジー)に全面移管。成長のため伝統の事業と決別し、医療機器などの事業に経営資源を集中した。
パナソニックやシャープなど日本の家電各社はテレビ生産のあり方を今も悩む。すでにソニーや日立製作所などからテレビ生産を受託するTPVの最高経営責任者(CEO)、宣建生(69)は「コスト競争力が高い私たちに生産を任せてほしい」と秋波を送る。
自前主義を貫き、世界を席巻できた時代は過ぎた。日米欧アジアの製造業の国際競争力比較調査で、日本は10年以降最下位に沈む。アジアを舞台に日本勢に求められるもの。それは常識にとらわれない変革だ。
インドネシア、韓国、上海――。進出先で圧倒的なシェアを占め、現地企業と間違われる隠れたニッポンブランドがある。給湯器やコンロなどガス機器国内最大手の「リンナイ」だ。
「現地に任せる」
リンナイは海外展開で「ニッポン」にこだわらない道を選んだ。現地のパートナー企業とほぼ折半出資で合弁会社を設立。先進技術を惜しげもなく相手企業に開示する。「日本企業は何でも日本流にこだわる。現地のプロに任せるべきだ」。過去最高益を更新し続ける実績が、社長の内藤弘康(58)の自信を深める。
「技術はいつか追いつかれる」。金型技術に詳しい東京大学名誉教授の中川威雄(74)は指摘する。過去の常識や成功体験を捨て去り、時に伸び盛りのアジア勢と手を携える。その先に日本のモノづくりの進化が見えてくる。
(敬称略)