「#国葬反対より外国人生活保護反対」。27日の安倍晋三元首相の国葬を控えた9月上旬の数日間、そんなハッシュタグ付きのワードがツイッター上でトレンド入りした。25万件を超えるまで急速に拡散し、その後も18日に「外国人生活保護反対」のツイッターデモが呼びかけられ、ワードがトレンド入りした。こうした状況に、外国人支援の現場は「生活保護を打ち切られると本当に死んでしまう人がいる。現実を踏まえてツイートや拡散などをしているのか、考えてほしい」と訴える。【山下智恵】
9月上旬 ツイッターでトレンド入り
経緯を振り返る。「#国葬反対より外国人生活保護反対」がトレンド入りしたのは、政府が9月6日に安倍氏の国葬費用が総額約16億6000万円になるとの概算を発表し、批判が高まった翌7日。外国人の生活保護費は「年間1200億円」などとして、国葬の費用と比較し、「どちらが無駄か」を問いかける内容が多い。「血税の垂れ流しはどっちだ」とのツイートや、「そもそもなぜ無職の外国人が日本にいるんだ」「なぜ外国人を養ってやらなければいけないのか」などと廃止を求める主張が並んだ。
この「1200億円」は、2012年3月16日の参院予算委員会で自民党の片山さつき氏が仮試算として挙げた額を根拠にしているとみられるが、厚生労働省に取材すると「個々の世帯別支給額は把握しておらず、総額の推計も出していない」と説明する。
識者「論点のすり替え」
今回のツイートの拡散について、ヘイトスピーチなど排外主義的言論に詳しい大阪公立大の明戸隆浩准教授(社会学)に聞いた。
「国葬への反対意見の切り返しとして現れ、全く関係のない外国人生活保護に論点をすり替えています。国葬賛成派による、あまりに粗雑な苦し紛れの主張で、当初は脅威とは捉えていませんでした。ただ、その後、ここまで拡散しました。外国人生活保護反対の社会一般への訴求力は高いと感じます」
そう話した上で、「いわゆるネット右翼など排外主義勢力は最近、期待を寄せてきた保守色の強い安倍元首相が死去してよりどころを失ったためか、ネットでの主張はとても静かでした。(安倍氏ら)自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係への追及、国葬反対の世論の高まりを受け、方向を見失ったかのように右往左往していました。その鬱々とした不満がたまっていた中で、攻撃しやすい外国人の生活保護を苦し紛れに結びつけて、盛り上がったのではないかと思います」と推測した。
ハッシュタグが拡散した背景については「外国人生活保護への反発は今に始まったことではなく、なぜ外国人に税金を使わないといけないのかという疑問は、政治的右派や排外主義者ではなくても、素朴に受け入れられやすい。さらに、このツイートには、日本人一般の生活保護利用者に対する偏見・差別も内包されています。その底に流れる意識が顕在化したと言えます」と語った。
支援者「利用できなければ人が死ぬ」
困窮する外国人への支援団体「北関東医療相談会」の生活支援員、大澤優真さんも憤る。「外国人などマイノリティーをスケープゴートにして論点をずらす手法は、過去にもありました。ですが、生活保護費を利用できなければ本当に人が死んでしまう。現に、利用できない外国人が衣食住や医療に事欠き、困窮して亡くなっています。命に関わるという現実を知ってほしい」
大澤さんが支援する外国人は、難民申請中の人や、難民申請を認められずに入管施設に収容後に仮放免(条件付きの一時解放)された人など、生活保護を利用できない人が中心だ。そうした人たちから「財布の中身が2000円」「全身にひどい痛みがあっても病院に行けない」「家賃の滞納でアパートから追い出される」といった…
この記事は有料記事です。
残り1878文字(全文3418文字)