岸田首相が解散・総選挙を見送った、総選挙を弄ぶ首相の対応は国民の信を失う、岸田内閣と野党共闘(54)

今国会中の解散を事あるごとに匂わせていた岸田首相が6月15日夕、官邸記者団に「今国会での解散は考えていない」と語った。同日の日経新聞が「与党、今国会解散見送り論」「岸田政権、マイナ巡り連日陳謝 内閣支持率、下落の兆し」との見出しで、情勢の変化を伝えたばかりだった。

――当初は5月下旬の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で外交成果を示した後、少子化対策を拡充する「こども未来戦略方針」を公表して支持率上昇の勢いに乗るとの期待があった。いざサミット後に(なると)想定していなかった問題が噴出した。首相の長男で首相秘書官だった翔太郎氏が首相公邸で忘年会を開いた事案が表面化し、更迭せざるを得なくなった。日経新聞の世論調査で内閣支持率は期待に反して52%から47%へ下がった。そこへマイナンバー関連のトラブルが追い打ちをかけた。6月に入ってからもNHK世論調査で内閣支持率が43%へと3ポイント下がり、テレビ朝日も4.4ポイント低下の36.9%となった。

 

この日は、奇しくも『週刊文春』と『週刊新潮』の発売日だった。大手各紙の出版広告欄には両紙の特集記事の見出しがデカデカと掲載され、マイナカードのトラブルに加えて岸田政権の新たなスキャンダルが報じられていた。

――「岸田最側近木原副長官、シンママ愛人に与えた特権生活」(週刊文春)。岸田政権の最重要キーマンとして多忙を極める木原官房副長官は、40代シングルマザーの家に出入りし、愛人の運転するベンツで官邸に出勤する。「娘の学費は全部払ってもらっている」と話す彼女にはある疑惑が...。

――「もうやめよう。河野太郎が引き込むマイナカード地獄」(週刊新潮)。年金、保険証、公金受け取り口座...トラブル続出。このまま推進なら保険証廃止で医療情報誤ひもづけの〝生命の危機〟。

 

いつもは立ち読みするのだが、今回は広告に釣られて近くのコンビニに買いに行った。『週刊文春』の記事に対しては、現在のところ木原氏本人をはじめ関係者一同が「全面否定」しているので、まだ真偽のほどは定まっていない。しかし、その中の「木原官房副長官が愛人の車で首相官邸に出勤する」という一節には一瞬目を疑った。これがもし事実だとしたら、国家の危機管理を担う最重要人物が居所不明の場所から出勤していることになり、緊急連絡網が円滑に稼働できるかが問われることになる。首相が解散断念を決意したのは、木原官房副長官を含む数人の側近との話だというが(朝日新聞6月16日)、木原氏はこの日も愛人宅から出勤していたのだろうか。

 

この日はまた、時事通信の世論調査(6月9~12日実施)が公表された日でもあった。内閣支持率は前月比3.1ポイント減の35.1%、不支持率は同3.2ポイント増の35.0%で、支持と不支持が拮抗することになった。内閣支持率下落の原因となった長男秘書官更迭のタイミングについては、「遅かった」56.8%との回答が「適切だった」27.8%を大きく上回った。首相自身も写真撮影に応じていたことがその後に判明し、「私的なスペースで同席した」と釈明したが、これに対しても「大いに問題だ」「ある程度問題だ」が計66.7%となり、「あまり問題ない」「全く問題ない」の計25.2%を2.5倍以上も上回った。

 

 だがそれにもかかわらず、政府が今国会の最重要法案に位置付けた防衛費増額財源確保法、性的少数者(LGBT)理解増進法、性犯罪規定を見直す改正刑法は全て成立した。野党第1党の立憲民主党がイニシアティブを取れず、野党が分断されて自公維国ネットワークが形成され、ほとんど審議らしい審議が行われなかったためだ。それでいて立憲民主党は、申し訳程度に(即否決される)「内閣不信任決議案」を提出してお茶を濁そうというのだから、茶番劇もいいところだ。国民と国会を愚弄するにも程がある。

 

 解散・総選挙はいったん遠のいたにしても、「常在戦場」であることには変わりない。立憲・泉代表は、「150議席取れなければ辞任する」と大見えを切ったが、その後の候補者擁立は思うように進んでいない。289選挙区で200人擁立を目指すとしていたが、「6月6日時点で擁立を決めたのは計144人、150人に届いていない」という有様だ(日経新聞6月8日)。それでいて「共産党との選挙協力はしない」というのだから、このままで行けば「ジリ貧」状態になることは避けられないだろう。

 

 共産党もまた苦境を脱せずにいる。志位委員長は6月12日、日本外国特派員協会での質問に応じ、野党共闘について「なかなか難しい状況にあるが、再構築する選挙にしていきたい」と述べた。共産は2019年参院選や2021年衆院選で野党間の候補者調整を行ったが、立憲泉代表は次期衆院選での選挙協力を否定しているので、6月12日には独自に選挙区で30人を擁立すると発表したのである。共産関係者は「候補者調整をしないということは、自由に擁立してもいいということだ」と野党第1党を牽制しつつ、視界不良の野党共闘に「こんな事は初めてだ」と語ったという(産経新聞6月13日)。

 

これを受けて共産党新潟県委員会は6月12日、前回は立憲民主党代表代行・西村智奈美氏を支援した衆院新潟1区で候補予定者を発表し、選挙協力を否定した立憲民主党の方針が変わらなければ、残り全ての区にも候補者を擁立する考えを表明した。樋渡新潟県委員長は「泉代表の発言、姿勢が変わらなければ、私たちは新潟県5つの選挙区全てで候補者を擁立することも考えている」と述べた。一方、立憲県連幹事長・米山隆一衆院議員は共産党との協力も模索する考えを示したが、樋渡委員長は「県連の考えではなく、泉代表の姿勢が変わる必要がある」と指摘し、「立憲が党本部として共産党との共闘を認めるのであれば、残りの区での候補者擁立を見送り、1区での選挙活動も共闘する候補者に配慮する考え」と表明したという(新潟総合テレビ6月12日)。

 

共産党の機関紙赤旗は「発行の危機」を迎えている。5月29日の機関紙活動局長の「赤旗読者拡大でなんとしても前進を」の訴えに引き続いて、6月9日には財務・業務委員会責任者からの「財政の現状打開のために緊急に訴えます」の声明が出された(赤旗6月10日)。

――いま、全党のみなさんにどうしてもお伝えしなければならないことがあります。それは、全党の必死の奮闘によって党の財政は支えられていますが、選挙後の党員と「しんぶん赤旗」読者の連続した後退のなかで、中央も地方党機関も財政状況が厳しさを増し、きわめて切迫した事態に直面していることです。「政治資金収支報告」にあるように、中央には全党と支持者のみなさんの力で築かれた党本部の建物など100億を超す資産があります。しかし、いかに資産があっても、「財政活動4原則(党費、紙誌代、募金、節約)によってつくりだされる毎月の運用資金がなければ、党機構の維持と「しんぶん赤旗」の発行はできません。この運用資金が、最大の財政基盤である党費と紙誌代収入の選挙後の大きな減収のなかで危機的な事態になっています。このまま推移すれば、運用資金がそこをつきかねず、党の機構も「しんぶん赤旗」も守れなくなる事態に直面しているのです(以下略)。

 

これまでに見たこともないような悲痛な訴えだが、この事態は志位体制のもとで歴史的に蓄積されてきた構造的問題である以上、「130%の党」づくりの掛け声だけで打開されるようなものではない。延期されていた第8回中央委員会総会(8中総)が6月24,25両日に開催されるというが、ここでどのような議論が展開されるかに注目したい。(つづく)