野党共闘の完敗と自民党の惨敗、東京都知事選における共産党の危機突破作戦は頓挫した、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その29)、岸田内閣と野党共闘(94)

    共産党にとって今回の東京都知事選(7月7日投開票)は、野党共闘と党派選挙を統一して戦う「天下分け目の合戦」であり、「市民と野党の共闘を再構築し、自民党政治を終わりにし、新しい政治をつくる上でも、極めて重要な意義を持ちます。東京から日本の新しい未来をひらくたたかいです」(小池書記局長、赤旗6月23日)と位置付けられていた。これに先立つ5月27日、市民と野党の都知事選候補者選定委員会は、立憲民主党の蓮舫参院議員を共闘候補に擁立することを決定し、小池書記局長は選定委後の記者会見で、蓮舫氏が都知事選への立候補を表明したことについて「最強・最良の候補者が名乗りを上げてくれた。日本共産党として勝利のために全力を尽くしたい」と表明していた(赤旗5月28日)。

 

 東京都知事選は、有権者数が1134万人に達する我が国最大の首長選挙であり、今回の選挙戦は有効投票数687万票、投票率60.6%というかってない激戦となった。結果は、小池百合子氏(現職)が291万8千票(42.8%)で圧勝し、次点は石丸伸二氏(前安芸高田市長)165万8千票(24.3%)、蓮舫氏は128万3千票(18.8%)で3位に沈んだ。小池氏は、前回2020年都知事選の366万1千票より74万票減らしたものの他候補を寄せ付けることなく選挙戦を展開した。私は選挙後の3日間ぶっ通しで各紙を読み比べてみたが、毎日新聞社説(7月9日)が事態の本質を最も端的に解明しているように思える(抜粋)。

 ――山積する課題に処方箋を示せない政治に対する不信の表れだ。小池百合子氏が3選を果たした東京都知事選で、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が次点に食い込んだ。元立憲民主党参院議員の蓮舫氏が3位に終わる番狂わせの結果になった。浮き彫りになったのは既成政党への逆風だ。小池氏が政党色を抑えて守りに徹する中、立憲、共産両党の支援を受けて与野党対決に持ち込もうとした蓮舫氏は失速した。一方、「完全無所属」の石丸氏が躍進した。

 ――蓮舫氏は無党派層の受け皿になれなかった。知名度はあっても与党との対決姿勢が党派色を強め、空回りに終わった。自民の状況はさらに厳しい。支援した小池氏は勝利したが、都議選補欠選挙では公認候補が2勝6敗と大敗した。他の野党も振るわなかった。昨春の統一地方選で躍進した日本維新の会と、立憲と候補者を一本化した共産は議席ゼロだった。知事選、都議補選の敗者は、既成政党だったと言える。

 

 今回、都知事選の結果を「野党共闘の完敗」「自民党の惨敗」と結論付けたのはそれなりの理由がある(自民党については次回掲載)。それは、野党候補となった蓮舫氏の得票数、党派選挙となった都議補選の結果が余すところなく証明している。2022年7月参院選(東京選挙区)の得票数は、立憲104万2千票、共産68万5千票、合わせて172万7千票(得票率27.4%)だった。ところが、今回の都知事選は(社民なども加わったにもかかわらず)蓮舫氏は128万3千票(18.8%)しか得票できず、得票数は2年前の参院選よりも44万4千票減、得票率は8.6ポイントも少なかった。おまけに産経新聞(7月9日)によれば、都内62市区町村の中で蓮舫氏が小池氏に次ぐ2位だったのは僅か9市町村にとどまり、都内23区は全て石丸氏に敗れて3位になるという完敗ぶりだったのである。

 

 政権交代を目指す野党共闘は、各党支持者に加えて多数の無党派層を結集してこそ意味がある。強大な政権与党を倒すには野党各党の支持者だけでは不可能であり、いまや半数近い(あるいはそれを上回る)無党派層の支持を得なければ勝利できないからだ。朝日新聞の出口調査によれば、都知事選投票者の支持政党は無党派層が47%と半数近くを占め、自民26%、立憲9%、共産4%、公明・維新3%などとなっている(朝日新聞7月8日)。立憲・共産を合わせて13%の支持者しかいない両党が、30%近い支持者を擁する自民・公明が支援する小池氏に勝利するには、大量の無党派層を獲得する以外に方法がない。このことを承知した上で蓮舫氏が立候補したのは、それが実現可能だと確信していたからであり、共産党の小池書記局長が蓮舫氏を「最強・最良の候補者」と太鼓判を押したように、立憲・共産両党とも同じ認識に立っていた。ところが意外にも意外、無党派層の投票先は石丸氏36%、小池氏32%、蓮舫氏16%に分かれた。蓮舫氏はここで決定的な敗北を喫したのである。

 

 蓮舫氏が無党派層の支持を得られなかったことは、今回の得票数が前回参院選の立憲・共産両党の得票数を大幅に下回ったこととも符合する。前回参院選(東京選挙区)では、れいわ56万5千票(山本氏、当)、維新53万票(海老澤氏、次点)にも大量の無党派票が流れたが、それでも立憲(蓮舫氏他1人)と共産(山添氏)は相当数の無党派票を確保して2人の当選を果たしたのである。それがなぜ、今回の都知事選では「壊滅的」とも言える状況に陥ったのか。私は、蓮舫氏の完敗の原因は、立憲民主党と共産党がともに「政権交代」の受け皿となり得ず、国民・有権者の信頼と期待を失ったからだと考えている。

 

 まずは、立憲民主党である。立憲は泉代表の無定見な行動に象徴されるように、野党第一党でありながら「保守第二党」を目指す国民民主党や維新の会との関係を断ち切ることなく、共産党とは常に一線を画した位置に身を置いてきた。このため有権者には「政権交代」を目指す明確な方針を示すことができず、中間政党の「曖昧さ」を払拭することができなかった。私は泉氏が選出された京都3区の有権者なのでその人物像はよく知っているが、泉氏は2017年に民進党が分裂した際に前原氏とともに「希望の党」に合流した〝非共産〟を政治信条とする極め付きの人物なのである。

 

 「希望の党」は神津連合会長、小池都知事、前原民進党代表が仕組んだ「第二保守党」を結成するための政治策動であり、党首に予定されていた小池氏がリベラル派を「排除します」と明言したことで希望の党が分裂し、立憲民主党が生まれた。この時、泉氏が前原氏とともに希望の党に参加したことは言うまでもない。その後2020年に「野党第一党」の座を確保するため国民民主党(の一部)と立憲民主党が政治的に妥協して合流したが、泉氏は前原氏の思惑を忖度して立憲民主党に移り、代表選挙に立候補して乗っ取ろうとした。そして2021年衆院選敗北の責任を取って枝野氏が党代表を辞任すると、泉氏は代表選挙に再び立候補して党代表に就任し、遂にその野望を遂げたのである。

 

 だが、内閣支持率と自民党支持率が空前の低水準にあるにもかかわらず、立憲民主党の支持率はいっこうに上昇しない。それもそのはず、〝非共産〟を政治信条としながらも周囲の環境に合わせて自分の身体の色を「カメレオン」のように変える泉氏の下では、立憲が「政権交代」の受け皿となる旗幟を鮮明にすることができない。無党派層の「立憲離れ」はすでに早くから恒常化しており、それが臨界点に達したのが巨大な無党派層が集積する今回の東京都知事選だったのである。

 

 共産党はどうか。革新自治体運動が躍動した1960年代から70年代にかけては、共産党は「政治変革」の旗手として輝いていた。党勢拡大が怒涛の如く進み、多数の共産党議員が革新自治体を支えた。だが、志位氏が書記局長に就任した1990年頃から「長期にわたる党勢後退」(大量の離党者発生と党組織の高齢化が原因)が始まり、委員長に就任した2000年以降、議長に就任した2024年以降も依然として続いている(むしろ加速している)。こうした中で党活動は大衆運動から次第に遠ざかり、党組織を支える「内向き」の党勢拡大運動が中心となったために、共産党は選挙のたびに有権者の支持を失っていくことになるのである。

 

 党勢後退にともない党独自で「政権交代」を目指す政治路線を断念した共産は、その後「野党共闘」に力点を移すことになる。2017年以降、国政選挙での野党候補一本化が進んでそれなりの成果を挙げたが、2021年10月総選挙では思いがけない「落とし穴」が待っていた。それは、共産が立憲と政策協定を結ぶにあたって「閣外協力」を打ち出し、それが有権者の警戒心を招いて立憲、共産がともに多くの議席を失うことになったのである。おそらくこの時共産は初めて気付いたのであろうが、有権者の眼には「批判政党」としての共産は許容できても、政権を託すには(それが例え一角であっても)不安を覚える存在だったということである。

 

 その後、それに輪をかけた事件が起こった。かって党中央政策委員会の要職を務めた松竹伸幸氏が『シン・日本共産党宣言――ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由――』(文春新書)を上梓し、2023年1月19日に記者会見を開いて刊行趣旨を説明したのである。共産は翌々日から赤旗で同氏の行動を「規約と綱領からの逸脱」と決めつけて大々的なキャンペーンを開始し、2月5日には早くも松竹氏の除名処分を決定した。新書の副題が「党首公選」を求めていたことから、1990年以来30年有余に亘って党最高幹部の座にある志位氏への批判の広がりを恐れたからであろう。

 

 この問題を真っ先に報じたのは、毎日新聞(2月4日)の「党員『反旗』揺れる共産、党首公選制の導入訴え、騒動拡大懸念 対応に苦慮」と題する記事だった。趣旨は「現役の共産党員が公然と党首公選制の導入を求め、党内外に波紋を広げている。共産は機関紙『しんぶん赤旗』で反論し、党幹部の中には処分を求める声もある。だが、騒動が拡大すれば支持者離れが起きる可能性もあり、同党は対応に苦慮している」というものである。続く2月8日の朝日社説は「共産党員の除名、国民遠ざける異論封じ」との見出しで、2月10日の毎日社説は「共産の党員除名、時代にそぐわぬ異論封じ」の見出しで、共産党の閉鎖的体質を挙って批判した(抜粋)。

 ――党勢回復に向け、党首公選を訴えた党員をなぜ除名しなければならないのか。異論を排除するつもりはなく、党への「攻撃」が許されないのだというが、納得する人がどれほどいよう。かねて指摘される党の閉鎖性を一層印象づけ、幅広い国民からの支持を遠ざけるだけだ(朝日社説)。

 ――組織の論理にこだわるあまり、異論を封じる閉鎖的な体質を印象付けてしまったのではないか。共産党が党首公選制の導入を訴えたジャーナリストで党員の松竹伸幸氏を除名とした。最も重い処分である。今回の振る舞いによって、旧態依然との受け止めがかえって広がった感は否めない。自由な議論ができる開かれた党に変わることができなければ、幅広い国民からの支持は得られまい(毎日社説)。

 

 両紙社説の批判は決定的だった。この時点から共産の「閉鎖的体質」は広く国民に知られるところとなり、政権を託すには危険とのイメージが一挙に広がって無党派層が「共産離れ」する一大契機となった。こうして「政権交代」に向けて立ち位置が曖昧な立憲民主党、異論を許さない閉鎖的体質の共産党はともに国民・有権者の信頼と期待を失い、支持率の低迷が続くことになった。たとえ立憲と共産が共闘しても「1+1=3、4」になるという勝利の方程式はもはや成立しなくなり、それが今回の都知事選で劇的に明らかになったのである。(つづく)