減り続ける原因を分析しないで、拡大ばかりを唱える「130%の党づくり」は完全に破綻している、共産党党首公選問題を考える(その5)、岸田内閣と野党共闘(40)

 共産党機関紙「赤旗」は連日、2024年1月の第29回党大会に備えて「130%の党づくり」を訴えている。「特別期間」を設けて拡大目標を設定し、その達成率を毎月報告させて党員や支持者を叱咤激励するやり方だ。今年1月に採択された「『130%の党』をつくるための全党の支部・グループへの手紙」では、次のような具体的目標が示されていた(赤旗2023年1月6日)。

 ――「130%の党」とは、全党的に36万人の党員、130万人の「しんぶん赤旗」読者をめざす大事業です。この仕事をすべての支部・グループで担うならば、来年1月の党大会までに平均して1支部当たり現勢で2カ月に1人の党員、1人の日刊紙読者、3人の日曜版読者を増やせば実現できます。

 

 だが、「全党でおよそ10万人」という拡大目標はとてつもなく大きい。1年に直すと1支部・グループ当たり党員6人、日刊紙6部、日曜版10数部を増やさなければならない。支部・グループは全国で1万8千あるというが、この目標を達成するのは並大抵のことではないだろう(というよりは、不可能に近いのではないか)。赤旗の「統一地方選勝利、『130%の党』づくり」の紙面は、「『返事』の準備が支部変えた」などの見出しで事態が好転しているかのように作られているが、実態はかなり深刻なようだ。たとえば、次のような支部の事例が報告されている(2023年3月10日)。

 ――「手紙」を討議した支部会議の参加者は3人でした。読み合わせたあと、感想や思いを出し合いました。初めに出たのは「高齢化し、このままでは『赤旗』の配達・集金がままならなくなる」「統一地方選挙が迫っているが、ポスター貼りも大変」「党費を納めている人のなかで、健康な人は誰一人いない。全員が支部会議に参加できる条件がない」などなど...。

 

 この文面を読むと、どこか過疎地域の小さな町か村の支部のように思えるが、実は東京都市圏にある千葉県山武市(千葉市から30キロ、東京都心から60キロ)の地域支部のことである。全国の大都市圏では1960年代から70年代にかけて怒涛のような党勢拡大が続き、職場や地域に無数の支部・グループが生まれた。それとともに共産党地方議員が各地で輩出して、革新自治体を牽引するようになった。

 

しかし、その後の新規党員の獲得が続かなかったために、当時の団塊世代がそのまま高齢化して現在に至ったケースが多い。高度成長期の郊外住宅地やニュータウンでは、入居者が入れ替わらずそのまま高齢化してく状態を「蛇卵現象」(蛇が卵を飲んだ時のように膨らんだ部分が移動していくこと)というが、こうなると住民の活動力は目に見えて衰え、自治会活動もままならなくなる。「ニュータウン」が「オールドタウン」になり、やがては空き家が目立つようになる。それとまったく同じ現象が共産党支部にも生じているのである。

 

 このような状況を客観的に分析することなく、共産党が国政における影響力を維持するには、第28回党大会時の党員27万人、赤旗読者100万人の130%に相当する党勢が必要だとして、新たに党員10万人、赤旗読者30万人の拡大目標が設定され、それを全国1万8千の支部に(機械的に)割り振るという形で大号令がかけられているのである。支部の実情に応じて目標を積み上げるという「ボトムアップ」方式ではなく、大会決定という「トップダウン」方式で過大な目標が設定され、しかもそれを「精神主義」で実現しようというわけだ。

 

  太平洋戦争における日本陸軍の組織特性を分析した『失敗の本質』(中公文庫1991年)の序章「日本軍の失敗から何を学ぶか」には、次のような一節がある。

 ――そもそも軍隊とは、近代的組織すなわち合理的・階層的官僚制組織の最も代表的なものである。戦前の日本においても、その軍事組織は合理性と効率性を追求した官僚制組織の典型と見られた。しかし、この典型的官僚制組織であるはずの日本軍は、大東亜戦争というその組織的使命を果たすべき状況において、しばしば合理性と効率性とに相反する行動を示した(略)。日本軍の組織的特性や欠陥は、戦後においてあまり真剣に取り上げられなかった。戦史研究などによりさまざまな作戦の失敗は指摘された。多くの場合、それらの失敗の原因は当事者の誤判断といった個別的理由や、日本軍の物量的劣勢に求められた。しかしながら、問題はそのような誤判断を許容した日本軍の組織的特性、物量的劣勢のもとで非現実的かつ無理な作戦を敢行せしめた組織的欠陥にこそあるのであって、この問題はあまり顧みられることがなかった。否むしろ、日本軍の組織的特性はその組織的欠陥も含めて、戦後の日本の組織一般のなかにおおむね無批判のまま継承された。

 

 太平洋戦争に真っ向から反対した共産党と日本軍の組織特性を比較するなど「もっての外」と批判されることを承知の上で言うが、私には戦時社会主義の残滓とも言うべき共産党の〝民主集中制〟の組織原則と、日本軍の階層的官僚組織の特性が重なって見えて仕方がない。そして、その典型が毎回繰り返される「党勢拡大」の大号令なのである。とりわけ今回の「130%の党づくり」は、疲弊した高齢者支部に過大な拡大目標を一律的に課すなど、その無理難題ぶりはきわだっている。このままでいくと、太平洋戦争における日本軍の「万歳突撃!」の二の舞にならないとも限らない。

 

 しかし、共産党組織にはそれ以前の問題もある。党勢を立て直すには組織の実態を正確に知らなければならないが、いずれの政党もそうであるように、共産党の場合もごく大まかな数字が示されているだけで、正確な実態は知る由もない。しかし、その中の断片的な数字を幾つか拾ってみると、おぼろげながら次のような姿が浮かび上がってくる。

 ――前大会は2017年1月に開かれましたが、それから現在までの3年間に全国で1万3828人の同志が亡くなりました(第28回党大会への志位委員長のあいさつ、2020年1月14日、前衛2020年4月臨時増刊)。

 ――後退したとはいえ、全国の地域・職場・学園に27万人余の党員、100万人の赤旗読者を持ち、国民と草の根で結びついた自前の組織、政党助成金や企業・団体献金に頼らない自前の財政をもっている政党は他に存在しない。昨年9月の7中総決定で呼びかけた党勢拡大大運動では、9月以降の4カ月で党員2533人、日刊紙1965人、日曜版8464人、電子版317人、合わせて1万646人の増勢となりました(第二決議「党建設」、2020年1月18日、同上)。

 ――第28回党大会以降の党員拡大は、4444人の入党者を迎えたものの大会比で3483人の後退となりました。赤旗読者は日刊紙755人減、日曜版138人増、電子版983人増となっています。大会後11カ月を経て、読者で大会現勢を維持していることは重要な成果です(志位委員長の幹部会報告、赤旗2020年12月17日)。

 ――2021年総選挙後の10月、11月に大幅な後退をした結果、日刊紙の減紙によって赤字がさらに増え、安定的な発行を続けることが困難に陥る寸前の状況になっています。日曜版の大きな減紙は、二重に財政上の困難をつくりだしています。一つは、日曜版収入でようやく支えていた日刊紙の発行を維持する力が大きく弱まっていることです。もう一つは、中央財政を支える最大の財源である機関紙誌事業からの収入が大きく減り、中央財政と機構の維持に厳しさが増していることです。機関紙事業の後退は、中央財政だけでなく地方党機関の財政をも厳しくし、日常の活動と体制維持の苦労のおおもとになっています(財務・業務委員会責任者、赤旗2021年12月22日)。

 ――党員拡大のとりくみでは、第28回党大会後の2年6カ月で9300人をむかえました。党員の現勢は党大会時比で1万4千人余の後退、日刊紙で1万2千人弱の後退、日曜版で5万2千人余の後退、電子版で2千人余の前進となっています(志位委員長の幹部会報告、赤旗2022年8月2日)。

 ――党員拡大では、2022年8月からの5カ月間で2064人の新しい入党者を迎えました。青年・学生・労働者、30代~50代の入党者の比率は34.2%になりました(略)。わが党は1万7千の党支部、約26万の党員、約90万の赤旗読者、2500人の地方議員を擁しています。約26万人の党員の約3分の1、約9万人は1960年代、70年代に入党しました(同、2023年1月6日)。

 ――今年1月の成果、入党391人、日刊紙339人減、日曜版208人減、電子版86人増(小池書記局長報告、赤旗2023年2月4日)。

 ――同、2月の成果、入党470人、日刊紙203人増、日曜版2369人増、電子版2人減、(中央委員会幹部会、赤旗2023年3月4日)。

 

 これらの数字をもとに、「130%の党づくり」が決定された第28回党大会(2020年1月)から2022年12月までの3年間にわたる党勢の変化をみよう。計算式は簡単なもので、「現勢=第28回党大会党勢+入党者数-死亡者数-離党者数+赤旗読者増減数」である。

 ――党員現勢約26万人(2023年1月)=27万人余(20年1月)+9300人(20年1月~22年7月)+2064人(22年8月~12月)-死亡者数(?)-離党者数(?)。死亡者数は、これまで1万3828人(2017年1月~19年12月の3年間)が公表されているだけで、その後は公表されていない。2020年以降は年平均5000人(高齢化の影響で増加傾向)として計算すると、3年間で1万5000人となる。なお、離党者数はこれまで一度も公表されていない。したがって、上記の計算式に死亡者数を算入すると、党員現勢約26万人=27万人余+9300人+2064人-1万5000人となり、離党者数は約6500人(年約2200人)になる。なお、2023年1月~2月の入党者は861人なので大勢は変わっていない。つまり、10万人(130%)の拡大目標に対して結果は1万人余りの減少(94%)となり、共産党の党勢拡大運動は完全に破綻しているのである。

 ――赤旗読者の方はどうか。読者数現勢約90万人(23年1月)=100万人(20年1月)-日刊紙1万2000人-日曜版5万2000人+電子版2000人(20年1月~22年7月)-?(22年8月~12月)なので、22年8月以降の5カ月は3万8000人減となる。今年1月~2月は日刊紙136人減、日曜版2161人増、電子版84人増、計2109人増なので大勢に影響はない。130万人(130%)の赤旗読者を獲得する拡大目標は逆に90万人(90%)に落ち込み、これも目を覆うばかりの結果になっているのである。

 

 志位委員長や赤旗は、これまで党勢拡大運動の大号令をかけ続けてきたにもかかわらず、党勢減退の原因を本格的に分析したことがない。このまま「進軍命令」をかけ続ければ、日本軍のレイテ作戦やインパール作戦のような悲惨な結末を迎えることになるのではないか。無謀な作戦を指揮して多数の兵士の命を奪った日本軍指揮官の中には責任を取って自決したものもいるが、策を弄して生き延びた者もいる。志位委員長はこれからも陣頭で指揮を取り続けるのだろうか。(つづく)