大阪都構想の打開を狙った出直し市長選が大阪都構想を終焉に導く、大阪都構想の「政策」から「政略」への変質によって「維新−大阪都構想=ゼロ」になった、大阪出直し市長選をめぐって(その12)

 明日3月23日はいよいよ大阪出直し市長選の投票日だ。地元大阪では「無駄な選挙」、「面白くない選挙」、「大義のない選挙」などの芳しくない世評が広がるなかで、市民・有権者の関心がいっこうに盛り上がらない(むしろ無視・無関心の空気が広がっている)。しかし、全国的には依然として「注目の的」の市長選であることには変わりない。なぜなら、それは選挙そのものへの関心よりも、選挙結果が橋下維新の今後の行方にどんな影響を与えるかをみんなが注視しているからだ。

 期日前投票数の推移から見ても、本番の投票率が過去最低の28.5%を下回るとの予想はすでに現実のものとなりつつあるようだ。3月19日までの期日前投票数が5万8365票で、2011年前回市長選の同時期13万8715票の42%だから(朝日新聞、3月21日)、これがそのまま投票率に連動するとなれば、60.9%×0.42=25.6%となって過去最低の28.5%を下回り、4人に1人しか投票に行かないことになる。

 しかも地元の選挙通の話によると、維新は投票率が低下することを恐れて支持者に期日前投票の動員をかけているというから、そうなると期日前投票数の比率(前回市長選の42%)はこれでも“多目”だということになり、本番の投票率はもっと低くなる可能性がある。場合によっては20%前後(5人に1人しか投票に行かない)になることも予想され、これでは「いったい何のための選挙だったのか」という市民の批判が一段と高まることだろう。

 くわえて、選挙期間中も橋下維新の一丁目一番地の政策である「大阪都構想」への赤信号がずっと点灯し放しだった。その第1は、新たに維新派府議1人が離党するとの意向を表明したことだ(各紙、3月13日)。維新府議団は昨年12月のОTK(大阪府都市開発)株式の外資売却をめぐる府議会採決で造反した4人を除名して以降すでに過半数割れしているが、さらに5人目が現れたと言うのである。しかもこれが引き金になって同様の動きが今後活発化する可能性もあるというから、維新幹部は“離党ドミノ”を懸念せざるを得ないほどの切羽詰った状況に直面しているらしい。

 この動きが単なる離党問題ではない点が重要だろう。出直し市長選で橋下候補は、大阪都構想の制度設計を話し合う特別区設置協議会(法定協)のメンバー入れ替えを公約に掲げ、維新は選挙後に議案を府議会に提出する予定だった。だが当該府議が離党すれば、維新は過半数を得るために他会派から3人以上の賛同を得る必要があり、府議会での議案可決は一段と困難さが増すことになった(事実上不可能になった)。

 もっとも橋下候補の法定協メンバーの入れ替え公約は、府市両議会の反維新各派から「総スカン」を食っている実現不可能な「公約」だった。また各紙の世論調査でも“党利党略”として批判され、以前から「反対」が「賛成」を大きく上回っていた。直近の世論調査でも、読売新聞は「賛成」28%、「反対」58%(3月16日掲載)、朝日新聞は「賛成」18%、「反対」59%(3月17日掲載)と、いずれも反対が賛成の2倍から3倍という圧倒的な比重を占めている。

赤信号の第2は、橋下市長が予算審議を放り出して選挙に出馬した“市長不在”の中、「骨格予算」となった大阪市の新年度予算案が公明、自民、民主、共産各派によって3月14日の本会議で“修正可決”されたことだ(各紙、3月15日)。予算を総額6億6千万円削減するという修正内容は、橋下前市長肝いりの公募校長採用の関連予算などを削るというものであり、「骨格とはいえ肉がついている」というのがその理由である。反橋下派幹部は、「大事な予算審議を放り出して大阪都構想が争点と言われるような選挙をやるのは場外乱闘だ。ここが議論の場だろう」と皮肉ったという。

この予算修正報道と相前後して、「公募校長更迭」のニュースが流れたことも皮肉と言えば皮肉なことだった(各紙、3月20日)。口の悪い大阪の私の友人などは、「またも辞めたか、公募校長!」とのメールを送ってきたほどだ。出直し大阪市長選に出馬している橋下前市長の肝いりの公募制度で民間(元記者)から就任した市立中学校校長が、「学校業務を停滞させた」(教頭を口論の末に土下座させて謝罪させると言うトラブル、教頭はその後休職)との理由で市教委から近く更迭されることが判明したのである。

市教委によると同校長は昨年4月の着任以降、教職員や保護者らから「独断的な学校運営」などと批判されPTAが強く更迭を要求していた。公募校長をめぐってはすでに1人が「自分のスキルを生かせない」と就任約3カ月で勝手退職したほか、別の1人が保護者らへのセクハラ行為で更迭された後に退職させられるなど、以前からも不祥事やトラブルが絶えない。

 出直し市長選の告示後、僅か2週間足らずの間にざっと数えただけでもこれだけの大阪都構想への“逆風”が吹いている。維新幹部は市長選告示日の街頭風景を見て、「今回は本当に風が吹いていない!」(産経新聞、3月10日)と嘆いたと言うが、そんなことはない。“追い風”は吹いていないけれども“逆風”は吹き荒れているのであり、それが橋下候補を直撃しているのである。維新幹部にはそれが見えないだけだ。

 この2週間、私が出直し市長選のウォッチングを通してみた事実は、維新結党の原点である「大阪都構想」がもはや“政策”ではなくなり、維新存続のための“政略=党利党略”に変質しているということだった。大阪維新の会は、大阪市民のためではなく、大阪維新の会の存続のために「大阪都構想」が必要だと言っているのであり、「維新−大阪都構想=ゼロ」という構図が鮮明になったのである。明日3月23日に大阪市民・有権者が橋下維新に対してどんな審判を下すか、私は静かな期待をもって見守りたい。(つづく)