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2025-01

隠された時間 - 2021.03.13 Sat

​​​​​​​​​​​​​この本は、スリンと一緒に約3か月間の相談記録を整理したものである。
スリンは「ファノ島子どもたち拉致事件」の容疑者を隠匿し、逃走するよう助けた。
流行のように広がった憤怒が、子供をめった切りにした。
筆者は、この本を通じてスリンの話を予断なく、伝達する予定だ。
このことがスリンを理解するとき、少しでも助けになることを願う。
(児童心理学者ミン・ギョンヒの『隠された時間』序文)

↑こういう出だしなので、これは実話を基にしているのかと誤解する人もいるらしいけど
純然たるフィクションです


私は寧ろ逆に
純然たるファンタジーだからこそ、後半で現実と対峙することになるのが
辛くて辛くて、バッドエンドになりそうで怖くて、観るのを中断してしまった(笑)

少ししてまた観たわけだけど…
そしたら悲劇では終わらなかった。

なので、ご安心下さい>ぉ


☆★☆★☆★☆★☆★【ネタバレあり】★☆★☆★☆★☆★☆


母を亡くし義理の父親と、ある小さな島に引っ越してきた少女​スリン​
身寄りがなく施設で暮らしている少年​ソンミン​
孤独な2人は心を寄せ合い、2人の間だけで通じる暗号を作ったりもする。

ある日、ソンミンを含む3人の少年が行方不明になり
少しして、その内の1人の遺体が発見される。

さらに少しして…スリンの前に
ソンミンだと名乗る大人の男性が現れる―


ソンミン達は時間が止まった空間に閉じ込められていた。
つーか、彼らだけが物凄く早い時間の中を生きていた…と言えるかも?

『ターン』(北村薫著)を連想した。
同じ世界では決してないんだけど
静かで孤独で
閉塞感と焦燥感があって
でも美しくもある世界。

『化石の街』(広瀬正著)そのままとも言えるんだけど
あれは、ほんの少~しずつ世界の時間も動いていて
それでも食べ物その他、時間の速さが違う主人公の身体は受け付けなかった。

こちらは世界の時間は全く動かない。
なので色々な物が空間に浮かんでいて、その描写等は面白いし
友達の1人の家族は家で皆でくつろいだ姿のまま止まっていて
友達がその姿をたびたび見に行くところは切ない。

でも、食べ物は普通に食べられる。
液体はゼリーの様に固まっているのだけど、ちゃんと飲める(食べられる)
ここはやっぱりSF的観点では、かなりのツッコミどころだろう。
それに、島から出られないまま
自分達の時間でいえば16年(後にスリンが計算)過ごしたのに
なくならないのはオカシイ(笑)


まあ、これはSFではなく、あくまでもファンタジー。
同い年の少年少女が身体的な年齢に大きな差ができてしまう
…という状況になるために必要な非現実的な要素。


スリンを演じる​シン・ウンス​
大人っぽいけどこまっしゃくれた感じはなく
子供っぽさもあるけれど、アザトく作られた無邪気さでもなく
自然な感じで感情移入しやすい。

ソンミン役の​カン・ドンウォン​
身体は大人でも中身は少年のまま…というのを眼差しや佇まいから醸し出している。
止まった世界で過ごした日々の中で、本を読んだりして知識は身に着けたけれど
それは部分的なものに過ぎず、少年の時のまま止まっている部分も多い。
変わりのない日々ではあるけれど長い長い時を生きてきて、友の死にも直面し
癒えない疲れを抱えている様にも見える。

ラストではさらに年を取っていたしね。
それを白髪と、さらに疲れた様な表情で一瞬にして表現してきたのが凄い。


で、最後まで観終わった時
ああ、この構図というか絵がまず頭にあって
それを描きたいがために作った物語ではないかと思った。

そしたら、どうもその通りらしい(笑)

題名で検索したら、オム・テファ監督は
「大きな波の前に並んで立つ男性と少女」の絵にインスピレーションを受け
僅か数日でこの映画の物語を完成させた―

という様な文章があったので。

だから、あのシーンが全て。
あそこで本当の意味で時間は止まり、だからこそ私達の心に残った。
そして私達の見えないところで、2人の時間は新たに動き出したのだろう。

これは不思議で美しいラブストーリー。

寓話と思えば色々な意味を見出すこともできるだろうけど
そのまま不思議で美しいラブストーリーとして心にしまっておきたい。




『隠された時間/Vanishing Time:A boy who returned』
2016年/韓国
監督:オム・テファ
脚本:オム・テファ、チョ・スレ
音楽:タルパラン
出演:カン・ドンウォン(ソンミン)シン・ウンス(スリン)
イ・ヒョジュ(幼いソンミン)キム・ヒウォン(スリンの義父)
クォン・ヘヒョ(刑事課長)ムン・ソリ(ミン・ギョンヒ)



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​​​​​​​​​​​​​

京城学校:消えた少女たち - 2020.09.12 Sat

​​​​​​​​​​​​日帝強制占領時代
外部と完全に断絶した京城の療養寄宿学校に隠されていた77年前の秘密―


★☆★☆★ネタバレあり★☆★☆★


主人公チュラン役のパク・ポヨンの第一印象が
井上 真央に似ている…だったので
最初の内は、そればかりが気になってしまった(笑)


まあ、それはともかく>ぉ


全体的に『ミネハハ』や『エコール』に似ている。
つーか、確実に意識していると思う。
パクリというのじゃなくて、そういう世界を作りたかった…って感じ?

(あ、そーいえば、『エコール』はまだ観てなかった>ぉぃ)

世間から隔絶された小さな空間で日々を過ごす10代の少女達。
いわば純粋培養。
それでいて、どこか隠微な雰囲気が漂う。
百合要素もあり。

白いフンワリしたネグリジェを着ているところとか
チュランとヨンドクが逃亡を図るも、辿り着いたのは…

…なところとか
やはり『ミネハハ』を髣髴とさせる。


とはいえ、それだけでは終わらず
真相も性的なものではなく、残虐なもの。

その学校では、日本軍による人体実験が行われていた―

そのため、反日映画だと批判する人も少なくないみたい。
でも、日本には731部隊という黒歴史があるし
『海と毒薬』(遠藤周作)の題材となった九州大学生体解剖事件もある。
少女達や、少女達に用いた薬はフィクションでも
日本軍がこの手の物語の悪役に用いられても無理はないと思うな。

日本だって、色んな外国を悪としているエンタメ作品は沢山あるだろうし。


だからって、この映画が傑作かというと
それは全くの別問題(笑)


生徒達が一人また一人と姿を消してしまう…ってとこも
『ミネハハ』っぽくはあるんだけど
逃げ出そうとしたり秘密を知られたとかで抹殺された…なんてのではなくて
その異変こそが真相に直接繋がるもの。

いわば、彼女達は失敗作だった…ってことになるのだろう。
つまり、悲しい真相なのだけど

描写はいきなりホラー…それも心霊系のJホラー・チック。
そして、クライマックスは『キャリー』っぽい。

​色んなネタがてんこ盛り(笑)​
しっちゃかめっちゃか…とまでは言わないけど
ナンダカナ…感は否めない。

サービス精神旺盛…とは言えるかな(笑)


映像的には美しく終わらせよう…としているところは好感持てた。
やはり、この手のものは耽美的でないと(笑)


チュランが学校にやって来た時に来ていたのは赤いワンピース
ヨンドクに貰ったのは赤いキャンディ
地下室に咲いていて、食べると病気が治ると言っていたのは赤い花

イカニモ象徴的!って感じだったな。
何の象徴なのか、よく分からないけど>ダメじゃん

ダークカラーと白…の世界>モノクロと言っちゃって良いんだろうけど(笑)
の中に閉じ込められた少女達の血?
生命を表す血であり、悲惨な死を暗示する血であり
通い合う温かい人間的な心であり
本来ならずっと続いて行くはずの彼女達の生き生きとした人生であり
鮮やかな夢?

↑考え過ぎ?



2015年/韓国
監督/脚本:イ・ヘヨン
脚色:イ・ヨンジュ,キム・ユジン
出演:
パク・ポヨン(チュラン/静子)
オム・ジウォン(校長・加藤早苗)パク・ソダム(ヨンドク/和恵)
コン・イェジ(優花)チュ・ボビ(紀平)パク・セイン(恵口)
シム・ヒソプ(体育/日本軍・健二)



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​​​​​​​​​​​​​

四月の雪 - 2018.10.21 Sun

​​​​​​もう随分と前(年単位)
録画しながら、なかなか観る気にならなかった。

じゃあ何故、録画までしたかというと
韓国映画にハマるきっかけとなった映画の中の一本
『八月のクリスマス』と同じ​ホ・ジノ監督​の作品だから。

それじゃあ何故、すぐに観なかったというと―


☆★☆★☆ネタバレあり★☆★☆★


―好きな季節は?
―春です
―僕は冬が好きです
―私は雪は好きです
―春に雪が降ればいいのに
―そんなことがあるのかしら


男は、妻が
女は、夫が
交通事故で重傷を負ったという知らせを受け病院に駆けつける。
意識不明の2人はW不倫の仲だった。
混乱と苦痛の中、男と女に次第に惹かれ合っていく―

というお話。

いかにもドロドロしてそうだし、それほど新鮮な題材でもないし
好みでもないので観る気力が涌かないでいた。
でも、HDDがイッパイになりそうなので仕方なく(?)観た。

ドロドロ…という感じではなかった。

映像は綺麗だし
台詞に頼らず、人物の表情や動き、置かれたシチュエーションを通して
静かに語る作風は『八月…』に通じる。


男は、コンサートの照明監督を務めるインス。
女は、専業主婦のソヨン。

最初は、お互い腫れ物に触る様な感じ。

そりゃあ気まずいよね。
まだ自分の状況にも実感が涌かないでいるだろうし
問い質したくても、怒りをぶつけたくても、相手は意識がないまま。
色々なことに納得できないまま、看病のため縛り付けられた様な状態。
そして目の前にいる人は自分と同じ立場に置かれ同じ苦しみを抱いている。

同情とか痛々しさとか、多分、同じ状況故の鬱陶しさも
あったかと思う。

少しずつ、慰め合う様になり
瑕を舐め合うかの様な関係になっていく。

でも、その先は
単純に男と女の恋愛に
甘い言い方をするなら、“純粋な”恋人同士の様になっていく。


いや、これはラブストーリーなのだから
​純粋​と受け取って良いのだ。


彼らは一旦、別れるのだけれど
上記の会話のまんまの“奇跡”が起きる。

いや、実際は“奇跡”というほど非現実的な出来事ではないだろうけど
でも、彼らにとっては十分な“奇跡”だった。

彼らの出逢いそのものも
同じ様に、“ありえない”というほどではないけれど
やはり“奇跡”と言いたくなるほどの美しい結末となった
…ってことだと思う。

ここは美しく
爽やかささえ感じたな。

ここに感動してしまいましたですよ(^^)


『八月…』もラストシーンは雪景色だったよね。
あれは、夏とは最も遠いところにあるという意味で
クリスマスをくっ付けたタイトルなのだそうだけど

こちらは四月。

冬と春は地続き。
辿り着けないほど遠い先にあるのではない。
でも、全く違う色合いを持つ。

その異なる2つを雪が繋ぐ。

韓国では恋人と一緒にいる時に初雪が降ると
2人は必ず結ばれる、幸福になる―
という伝説(?)があるそうだけど
こちらはいわば、最後の雪。


「どこに行きましょうか」
最後は姿は映らず
交わす言葉が聞こえるだけ。
(それが敬語なのが良い感じだった)

全ては冬と共に過去になってしまったけれど
心の傷はいつまでも残るのだろう。
花々の上に積もる雪の様に。

でも、目の前に広がるのは全く新しい道。
先に何が待ち受けているのかは分からない。

ただ、新しい人生が始まっていく。



『外出/April Snow』2005年・韓国
監督:ホ・ジノ
脚本:シン・ジュノ,イ・ウォンシク,ソ・ユミン,イ・イル,ホ・ジノ
音楽:チョ・ソンウ
出演:ぺ・ヨンジュン(インス)ソン・イェジン(ソヨン)
   イム・サンヒョ(インスの妻)キム・グァンイル(インスの後輩)
   リュ・スンス(ソヨンの夫)




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八月のクリスマス


​​​​​​

トンケの蒼い空 - 2016.09.11 Sun

気になりながらも何故か後回しにし続け
今頃になってようやく観た(笑)
すぐに引き込まれたし、面白かった。

「何が描きたいのか分からずイマイチだった」
という人もいるのだけど
私には爽やかな成長物語として、とても楽しめた。 


☆★☆★ネタバレあり★☆★☆


トンケ(糞犬)とは主人公チョルミンのあだ名。

父親と2人暮しで、昼間は独りぼっちのチョルミンが
近所の人達に食べ物を貰っていたことから名付けられたそうで
皮肉っぽいなと最初は思ったけれど
実は韓国では幼い子供達を愛をこめてこの名で呼ぶことがあるらしい。
駄犬の様に丈夫に育ってほしいという気持ちか込められているとか。


トンケは生まれて間もなく母親を亡くし
代わりに育ててくれた祖母も彼が4歳くらいの時に亡くなってしまう。
映画は、祖母のお葬式から始まる。

はしゃいだり食べ物に夢中になったりしている彼の姿は
まだ幼過ぎて死の意味が分からない…ということと共に
愛し愛されるということも、まだ分かっていないことを表していると思う。

頭も少々弱い様子の彼は、まさに野良犬の様。


そんな彼が雑種犬を飼うことになる。
自分と同じくトンケと名付け、それからは何処に行くにも一緒
学校にまで連れて行ってしまう。

ここで彼は兄弟の様に、あるいは自分自身の様に愛する対象を得た
…ってことなんだと思う。



高校生になったトンケは、勉強もスポーツもイマイチな様子。
友だちもいないみたいだし…っていうか
人とコミュニケーションを取るということ自体が上手くない。

そして、ある日
冷酷な形で犬のトンケを失ってしまう。

犬が登場した時点で悪い予感がしてたの。
もう、観るの中断しようか…とさえ思っちゃったの。
でもさ
“物語”としては必要な展開ではあるよね。

トンケが「糞犬」→「人間」に成長するためには
自分の分身の様に愛していた犬のトンケとの別れが
どうしても必要だったのだと思う。



ただ、犬のトンケを手に掛けたジンムクが何のお咎めもなし…
のままなのはムカムカした。

取り撒きの2人はボコボコにしたけど
ジンムクには手を触れる前に邪魔が入ってしまったから余計に。

でも、数年後にジンムクはちゃんとトンケの前に再登場する。
トンケが乗り越えるべき壁として。


高校を中退し、就職もせず
何の目的もなく、大した楽しみも持たず
ニートとして数年暮らしてきたトンケに3つの出逢いがある。

一つ目はMJKの連中
二つ目はジョンエ
三つ目はジンムク。


一つ目のMJKは密陽(ミリャン)ジュニア・クラブの略。

密陽は舞台となっている街の名で
トンケと同じ様に学校を途中で辞めた地元の若者達の集まり。

最初は喧嘩を吹っ掛けてきたので嫌な連中なのかと思ったら
要は仲間が欲しかったみたいで
トンケはそれを察したわけではないのだろうけど、彼らにまず食事を振る舞う。

まさにフード理論。

トンケに初めて人間の友達が出来る。
しかも、チンピラに見えて実は真面目に働いている彼らに感化されて
トンケも就職するまでになる。


まあ、風俗店に誘われるという、女性視点では「おいおい」なエピもあるんだけど
ここでトンケは恋愛経験(性経験)もないということが分かるし
そういう面だけ貪欲なヤツではないってことも分かる>未遂に終わるし


二つ目はジョンエ。

スリの常習犯で、身寄りがないことから
トンケの父親が引き取ることにした女性。

年頃の息子がいるのに、それってあり?
と最初は思ったけど、コレって、ある意味
犬のトンケの時と同じ様な経緯だよね。
そこが面白い。

コミュ障のトンケだから彼女とすぐにどうとか…なんてことにはならない。
ほんの少しずつ打ち解けていく…って感じ。

その取っ掛かりが彼女が淹れたコーヒーってところも
フード理論と言えるかも。

彼女はちゃんと将来の夢を持っていて
そのために少しずつ努力しているので
好感が持てる。

トンケが風俗店の火事でテンテコマイになった時
ちょっと嫉妬心を見せるところも微笑ましい。


三つ目のジンムクとは最終的な対決となる。

MJKの友達が巻き込まれ
犯罪が絡んでいるため警察官であるトンケの父親も関わり
大きな騒動になるけれど
最後はトンケとジンムクの一対一の戦いになる。


そこに至るまでに
父親との葛藤もあるし
母親の思い出も新たなものとなるし
色んなものを色んな意味でトンケはクリアしていく。

そして最後に
彼にとって一番大きな壁だったものを打ち破る。


ジンムクが女物のショーツで
トンケが大き目のブリーフってのも
何か象徴的(笑)


まあ、トンケの場合はアクション中に見えちゃわない様に
という意味もあるだろうけど>ぉ


こうして
頭が弱くて親の愛を知らなくてコミュ障でニートで孤独だったトンケが
一皮剥けたっていうか
立派に成長したと言えると思う。

トンケ自身は多分何も気付いていないけど。

明日から何かが劇的に変わる
…ということはないだろうけど

何か飄々とした終わり方ではあったのだけど
ホンワカとした希望の様なものが感じられた。

凄く爽やかで温かい気持ちになれた。




『糞犬/Mutt Boy』2003年/韓国
監督:カク・キョンテク
脚本:カク・キョンテク、キム・チャンウ
音楽:ユン・ミンファ
出演:チョン・ウソン(チョルミン/トンケ)
キム・ガプス(イックン/トンケの父)オム・ジウォン(ジョンエ)
キム・テウク(ジンムク)イ・サンフン(テットク/MJK会長)
ソン・サンギョン(ユングン/シルム男)イ・テジュン(スェパリ/カンフー男)
ホン・ジヨン(スンジャ)





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メビウス - 2016.03.06 Sun

「全ての人間は結局、欲望により生まれたので
結局、家族は全て一つで
全ての人物が一つの構造中で動く<メビウスの輪>の様に
循環構造を有している」
(キム・ギドク監督談)


☆★☆★☆ネタバレあり★☆★☆★☆


表も裏もなく、切り離すこともできなメビウスの輪。

ウィンドウの向こうに飾られた仏像にひれ伏す謎の男性。
彼が、この家族の裏と表を繋いでいる?


主役は台詞なし、というのはギドク作品には付き物だけど
今作は登場人物全員が台詞なし

でも、サイレント映画というわけではなく
物音や呻き声(言葉にならない声)は聞こえる。

そういうのって普通は結構、頭を使う。
登場人物の表情や動きから意味を掴もうと普通以上に集中しなければならない
…ものだと思ってたけど

この作品は物凄く雄弁だ。

あ、そういえば台詞がないんだっけ
と、終わってから思ったくらい(笑)
全く普通に鑑賞。


夫の不倫に疲れ果て心を病んだ妻が
夫の性器を切り落とそうとするも失敗し
何と、息子の性器を切断してしまうという
痛いお話。

ギドク作品はいつも、どこか痛いんだけど
これはもう本当に痛い。
女の私でもそう感じるのだから
男性にはとても正視できないかも(^^;)


で、面白いのはその後。

傷が癒える過程とか
母親へのトラウマとか
原因を作った父親との確執とか
色々と現実的な話が続くかと思ったら

父親が息子のために必死で探したのは
性器なしに性的快感を得られる方法だった。

でもって、それを息子も受け入れる。

その方法は
石の様な堅いもので皮膚を擦りむけるまで擦ることと
ナイフで身体を刺した上にグリグリと動かすこと。

痛い…これまた痛い(^^;)

興味深いのは
特に後者は女性的な感覚じゃないのかな…ってこと。


途中、性器がないことを知って息子をイジメる同級生達を
通りがかったチンピラ達が助けてくれるシーンがある。
でもその後、そのチンピラ達は父親の愛人だった女性をレイプする。

間接的に息子の復讐をしてくれたという意味かな、と一瞬思ったけど
もしかしたら、彼女にとっての贖罪という意味を持たせているのかなとも思うけど
主な理由は、単純に彼女が色っぽくて魅力的な女性だったから。

このエピからして
性欲→女性を征服すること→それを果たす性器
ということで
男性にとって、まさに性器こそがアイデンティティ!
なんだなってことがよく分かって
哀れでもあり滑稽でもあり…って感じたわけなんだけど

その性器を失った時
性欲の向かう方向は同じなんだけど
快感を得る方法は寧ろ女性のそれに近くなる…ってのが
何だか面白いなと思った。


ついでに言うと
母親と愛人は同じ女優(イ・ウヌ)が演じているのだが
ボンクラひじゅには気付かなかった。
髪型や化粧や服装で女は化けるっちゅーことですな。

ところが
双方が別々にだけど、胸を露わにするシーンがあって
乳房の形で同じ人だと分かった。

男も女も
性的な部分にこそアイディンティティがあるっちゅーことでせうか?
何だか虚しくなるなあ…(^^;)



その後、父親が手術で切除した性器を息子が移植し
形だけは“男性”に戻るものの
今度は性的興奮を得られない…という事態に陥る。

そんな時、フラリと帰って来た母親に
その性器は反応する。

元は父親の性器だってところが面白いよね。
愛人には反応せず、母親にだけ…ってとこが。

でも、父親自身にはもはや性器はなく
息子に向かう母親に、今度は父親が嫉妬の塊になる。

がいつの間にかになっている。

ああ、もう、本当に
グチャグチャやねん…痛いねん。


でも、ラストの息子の笑顔は
この輪が断ち切れたってことを意味するんじゃないのかなあ…

まさにギドク風贖罪って感じで。

それともまだまだ
輪廻の如く続いていくのだろうか?




『Moebius』 2013年/韓国
監督・脚本・撮影:キム・ギドク
出演:
チョ・ジェヒョン(父)、ソ・ヨンジュ(息子)
イ・ウヌ(母/愛人)、キム・ジェホン(不良リーダー)





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↓これを観てキム・ギドクを愛しいと思ってしまった私って変?


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