高いタワー、なぜ関西には建たないのか
東京スカイツリーが5月22日の開業を前に脚光を浴びている。高さ634メートルでタワーでは世界一。ツリーに抜かれた東京タワーも333メートルあるのに、関西の代表選手の通天閣、京都タワー、神戸ポートタワーは100メートル台だ。関西にはなぜ対抗できるタワーが建たないのだろう。
電波送信、山上で十分

「関西は生駒山や摩耶山などの山上に塔を設ければ必要な範囲をカバーできます。平地に高い電波塔が必要ないのです」。総務省近畿総合通信局放送課の片桐眞治課長が即答してくれた。確かに関西の3タワーは観光専用。電波塔ではない。大阪のNHKや民放はまず生駒山に放送番組を送り、山上の電波塔から家庭や中継局に送信している。
ケーブルで生駒山に登ってみた。標高642メートル。大阪、兵庫、京都、奈良方面を見渡せる絶景だ。山上遊園地の遊戯施設に交じり電波塔がロケットのように林立する。一番高い読売テレビ放送の電波塔は山の高さを合わせて723メートル。スカイツリーを上回る。
一方、平たんな関東平野では高い電波塔が必要。超高層ビルが増えたうえ、モバイル端末に電波を安定的に届けるため東京タワーより高い塔が必要になった。
「関西のように平野部に高い送信塔がないのは大都市圏で比較的珍しい。大規模な送信塔は不要な一方、山がちなため中継局は数多く必要になる」。全国の主要送信塔をすべて巡りウェブサイトで紹介している富山県高岡市の会社員、新保智さんは説明する。
かつては「大阪タワー」(158メートル)が大阪市北区にあった。朝日放送が1966年に使用を始めた番組送信用の電波塔で、スタジオや展望台も備えて観光名所だったが、同社の移転後、2009年に解体された。
取材の中で、生駒山上にテレビ局の電波塔を集約する幻の総合タワー構想があったと耳にした。山上を保有する近畿日本鉄道に尋ねると、「91~92年ごろテレビ局と研究会をつくり展望台を兼ねたタワーを検討したが、話がまとまらなかったようです」という。
ユニークさなら粒ぞろい

しかしユニークなタワーでは関西も負けていない。滋賀県彦根市にあるフジテックの「エレベータ研究塔」は琵琶湖の対岸からも見える。超高速機種の研究開発などに低層部も含め10基以上の研究用エレベーターが上下する。「この地域の新しいランドマークになっています。関西にもスカイツリーのようなタワーができたらエレベーターを納入できるのに」と、坂本晴彦・商品開発本部長。
それでは今後、関西に高いタワーが建つ可能性は? 通天閣を経営する通天閣観光の高井隆光副社長は「公道上に建っているタワーは通天閣だけでしょう。建設時はOKでしたが、今は法令に不適合で特別法でもなければ建て替えられません」と話す。大阪市中心部は大阪国際(伊丹)空港の関係で高さ制限もある。
64年開業の京都タワーは31メートルのビルに100メートルのタワーが乗る構造。建設時には「東寺の五重塔(55メートル)より高い建物はまかりならない」といった高さ論争が起きた。建て替えるとしたらビル部分は大丈夫だが、問題は工作物扱いのタワー。市条例は建築物上の工作物は原則禁止しており、審議会で公共性や美観などから議論することになる。
いずれにしても放送局からの使用料収入が入らない展望台だけの高いタワーは採算に合わないだろう。
とはいえ大阪では近鉄が14年春開業を目指して高さ300メートルの日本一の高層ビル「あべのハルカス」を建設中。タワーではないが、やはり日本一は気分がいい。スカイツリーの構造にも影響を与えた奈良・法隆寺五重塔、数年で焼失したとはいえ室町時代に109メートルもの七重大塔が建った京都・相国寺……関西人も昔から高い建物が好きなのだ。
(編集委員 宮内禎一)
[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2012年3月21日付]
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