日本の民主主義の危機主因は安倍政権の権力濫用
日本の閉塞感が急速に強まりつつある。
この閉塞感は、安倍政権による、衆参のねじれ解消と軌を一にしている。
国会多数の力をもって、日本政治を支配し尽くしてしまうとの考え方は、本来の民主主義制度、自由主義と相容れない。
民主主義の自由主義の原理を尊重するためには、多数決による意思決定と同時に、多様な意見の存在に対する許容、少数意見の尊重が不可欠である。
また、国民主権の大原則を成立させるには、国民がすべての情報を知ることが不可欠である。
特定秘密保護法は、情報を国民に開示しないことを正当化するものである。日本国憲法が定める国民主権の規定に反するもので違憲立法であると言わざるを得ない。
また、議院内閣制には「権力を創出する」側面があるが、内閣総理大臣が権力の濫用に走れば、民主主義の根幹が破壊されてしまう。
最大の問題を生むのは、裁判所裁判官とNHK経営委員の人事における内閣総理大臣の権限の取り扱いである。
日本国憲法は、内閣に最高裁長官の指名権を付与している(第六条)。
下級裁判所の裁判官については、
「下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。」(第八十条)
とされており、最高裁判所事務総局と内閣の権限が大きい。
つまり、内閣=内閣総理大臣は、人事権に関する憲法の規定を用いて司法を支配することが可能になる。
日本国憲法第七十六条は、
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
と定めて、司法権の独立、裁判官の独立性を規定しているが、内閣総理大臣が人事権を活用して裁判所を支配しようと考えれば、それが不可能ではなくなる。
これは、NHKについても類似したことが言える。
放送法はNHKの経営委員の任命について、次の定めを置いている。
(委員の任命)
第三十一条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
とされている。
経営委員人事はNHKの根幹である。
なぜなら、NHK会長が、12名の経営委員のうち、9名以上の賛成をもって選出されるからだ。
また、副会長および理事は経営委員会の同意を得てNHK会長が任命することとされている。
つまり、内閣総理大臣は、NHKの経営委員人事を通じて、NHKを支配できることになるのである。
しかし、放送法第31条には次の記述がある。
「委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
この場合において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない。」
「各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない」
との規定が置かれているのである。
内閣総理大臣が、この規定を順守して、「各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮」して、経営委員の人選にあたれば弊害は生じないが、内閣総理大臣がこの規定を無視して、自分の考えに一致する人物だけをNHK経営委員に任命すれば、NHKが偏向することは避けられない。
これは、日銀人事についても、まったく同じである。
日本銀行法は日銀人事について、次のように定めている。
(役員の任命)
第二十三条 総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。
2 審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。
内閣に日銀総裁、副総裁、審議委員の任命権がある。
この人事権を行使する際に、内閣が日本銀行法の主旨に照らして適正な人事を行うことが求められるが、そうではなく、内閣総理大臣が、
「自分の考えに賛同する人を日銀総裁、副総裁に起用する」
との行動を示せば、日本銀行法が定める目的は達成されなくなるかも知れない。
日本の民主主義制度は、こうした面において、危うさを内包していると言わざるを得ない。
その「危うさ」が表面化するのかどうかは、内閣総理大臣の「自制心」に強く依存する。
安倍晋三氏の行動は、この自制心を欠如したものであると言わざるを得ない。
これは、小泉純一郎氏と共通する特徴である。
このために、日本の民主主義が危機を迎えているのである。
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