報道によると茂木経産大臣は8月8日「福島第一の基準値以下の汚染水の海洋放出の検討を指示」したとされる.言語同断だ.ちょうど4ヶ月前の
4月8日に東電社長に直接面談して,「
海には絶対に出してはいけない。最初の段階から海に出さないためにどうしたらいいか、しっかり考えていただきたい」との強い指示を出したのはどこのどなただったのか?このように方針がぐらつくから誰も政府の言葉を信用しなくなってしまうのではないか?
現在問題になっているのは,地下水位を下げるために原子炉建屋より上手で汲み上げた地下水を海洋放出するという話だ.わたしはこの水を海洋投棄するのではなく,山の上手にディスチャージすることを提案しているが,もしこの地下水がまぎれもなく浄水(飲用可能な水)であることが保証されるのであれば,漁業者を説得することは不可能ではないと考える.しかし,担当大臣の言動がこのように右往左往するようではそれすらも難しいだろう.(実際,漁業組合は大臣にこの水を飲めと要求している・・・当然の要求だ.)
石原環境相と新藤総務相は8日午前首相官邸で会談し,除染や汚染土を保管する中間貯蔵施設の建設を加速するため,環境省に新たに局長級の統括官ポストを設けることで合意したとのことだ.発令は9月上旬になる.政府がいよいよ本腰を入れて福島第一原発の危機的状況にてこ入れしようとしている姿勢の表れとして(実効性はともかく)歓迎したい.(
福島第一20キロ圏内を国立公園化し,中間貯蔵施設などはすべてその区域内に配置するというのが当ブログからのプロポーザルだ.インターナショナルな廃炉技術研究機関なども含まれるだろう.Jビレッジの辺りに『人工環境都市』を構築しそこに研究施設を集中するというのがよい.)
8月9日朝日新聞が一面トップで報じるところによると,「検察当局は東京電力福島第1原子力発電所の事故について東京電力幹部ら当時の関係者全員を不起訴処分にすることを決めた」という.マジあり得ない話だ.これだけの重大事故を起こしながら刑事罰を受ける人間が一人もいないとしたら,『業務上重過失致死傷』と言う犯罪類型はティッシュペーパーの役にも立たないことになる.(自治体が損害賠償の対象として認定した原発災害による死者だけで573名を超える.過去の判例を見るがいい.)しかし,いまここでこの問題に踏み込む余裕はない.
(あ,もう一つ思い出した.「
7月26日東電は福島第1原発から海への汚染水流出の可能性を公表するのが遅れた責任を取り、広瀬社長と相沢副社長をそれぞれ1カ月間の10%減給、見学執行役員を1カ月間の5%減給とする処分を発表した。」ああ,そうですか・・・わたしの市では「東日本大震災復興に向けた国からの地方公務員の給与引き下げ要求を受け,7月1日~平成26年3月31日までの間,[なんの罪もない]市長・副市長・教育委員長(各10%)および職員(部長・次長7.83%,一般職各級5.83%~2.83%)の給与の減額」を決めております・・・)
事実上汚染水はすでに海洋に漏出している.漏水を場当たりな地盤改良で解決できると考えた手法の稚拙さなどを批判していても仕方ないので(通常そこまで無能力であるとは考え辛いのでむしろ組織的なサボタージュと見る方が合理的である),簡潔に取り得る対策の要点だけを述べることにしよう.ポイントは以下の通りだ.TEPCOが考えている手段と大きな相違はないはずだが,多分力点の置き所(優先順位)が違うと思う.
- 地下水バイパス:建屋敷地内の地下水位を下げるため建屋上手で汚染されていない地下水を汲み上げ,放流する.山の手(できる限り山の高い位置)にディスチャージするというのが最適だが,汲み上げた水の汚染度が浄水レベルであることが確認される限りでは海洋への放出も認められる.(位置により下流汚染水を吸引するリスクがある.)
- 地先(海側)敷地内の観測井,その他の井戸から汚染水を汲み上げ,トレンチに戻す.
- トレンチの高濃度汚染水(全容量×3=4万トン)をタンクに移設する.
- 地下に(トレンチとは別に)埋設された電源管路を点検し,漏水箇所があれば止水する.
もっとも優先度が高いのは項目3のトレンチからタンクへの汚染水の移設である.項目1の地下水バイパスは処理すべき水量を削減する効果はあるが,(汚染水を収容するタンク容量が確保できるという前提の下では)必ずしも必須ではない.項目4に関しては
前便参照.
2011年4月2日東京消防庁レスキュー部隊の献身的な活躍により絶対絶命のクライシスを乗り越えた時点でわたしは「
原発危機:福島第一原発水葬までのロードマップ」と題するエントリを起こした.今から2年以上前に書かれた記事である.もう一度読み直してみよう.
地下トレンチは1号から3号までのタービン建屋から海岸線の手前60メートルくらいのところまで伸びている.トレンチの容量は1号が3100トン,2号が6000トン,3号が4200トンあり,それらすべてがほぼ満水状態になっているので,合計13300トンの高濃度汚染水がここに蓄えられている.これから推量されることは,この20日間の連続注水,放水により,原子炉周辺に溢れた高濃度放射性廃水の「ほぼ全量」がこのトレンチに流入していたという事実である.
わたしの目には,これはほとんど「奇跡」のように見える.もし,これがなかったらどういうことになっていたか?もしもこのトレンチがなければおそらく太平洋沿岸はすでに死の海と化していたに違いない.これは「汚染水」などではなく,わたしたちの国土と大洋を守ってくれた「神水」と考えなければバチが当たるだろう.《中略》
(この期間私たちは無我夢中で注水された大量の水の行方を考えることもなくただ「炉心を冷却する」という一点に集中していたのである.いや,もちろんまったく危惧していなかったというわけではないが,そのことには敢えて目を瞑って・・・)
この1万3300トンの「神水」を少なくとも3度汲み替える必要があるだろう.つまり,少なくとも4万トンの「神水」を蓄えることのできるプールが必要である.《中略》汚染水を保管する容器は何とか確保できたとしてその先を考えよう.直ちにやるべきことはトレンチの水をぐんぐんと引いて容器に移し替えてゆくことである.トレンチの水面が下がれば建屋地下の水も引き,予定した作業が可能になる.《以下,建屋地下をコンクリートで完全に充填し埋め殺す工事の説明》

この作業を2011年4月の時点で実施していれば,今のような事態に陥ることはなかったはずだ.しかし,今からでも遅くない.少なくとも全トレンチの滞留汚染水を3回汲み替えること.これを実施すればトレンチ内の汚染水の放射線レベルは劇的に(冷却水のレベルまで)低下することが期待できる.この工程を確実に実施できるようになった暁には,山側で水を汲み上げる必要はなくなる.むしろ浄水をディスチャージしてもよいくらいになる.もちろん海側井戸からの汲み上げ→トレンチは続行しなくてはならない.これによって,プラント建屋区域の地下水は相当レベルまで除染され,浄化されることになるだろう.
(上流地下水の流入を『憎む』のではなく,除染に役立つありがたい『お水』と考えるべきだ.)
海側遮水壁と山側遮水壁が閉合しプラント区画が水系的に完全に締め切られるか,ないし区画内地下水の放射線レベルが許容水準以下になるまではこの水循環・タンク移送は維持される必要があると考える.トレンチを潰すのはいつでもできる(流入のないトレンチは直ちに潰してもよい).それを代用できる工作物をこれから作るのは不可能だ.(流入がある場合は完全に止水するか,トレンチを潰す前に流入水を処理する水路ないし枡を構築する必要がある.)
むしろ優先されなくてはならないのは建屋地下の埋め立てである.難工事だが,これができないと遮水壁で囲まれた区画全域は最終的に軟弱な毒沼と化して手を付けることができなくなる.その上をアスファルトで覆い隠したところで(TEPCOがやりそうなことだ)何の意味もない.充填材にはコンクリート系ないし粘土系のスラリー材が考えられるが,バイブレータの使用は必須である.前便では,
コンクリート打設用バイブレータを改造して遠隔制御可能とするような方法を提案した.(ちなみに,
大成建設が提案しているスラリーウォール工法で用いる掘削機は「チェーンソー」を巨大化したものである)