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「金融CSR」への挑戦
「第3回エコ貯金フォーラム-ソーシャル・ファイナンス発展のために預金者・金融の現場・経営者ができること-」の第5回目。今回は高瀬美由紀さん(中央労働金庫)のお話を紹介します。
「金融CSR」への挑戦~中央ろうきんのNPO支援施策~
中央労働金庫 総合企画部 CSR企画 高瀬美由紀
「労働金庫(以下(ろうきん)」とは、働く人々による「助け合いの精神」で成り立つ金融機関である。労働者は組合費を労働組合に払い、労働組合は「ろうきん」に出資金を出したり預金し、「ろうきん」は、勤労者に融資をするという関係で成り立っている。「ろうきん」は、労働組合・事業者に対する金融審用事業である。
終戦直後の日本は、個人の信用力がない時代で、個人の資金調達方法は、高利貸しや質屋(通称一六銀行)からの借金に頼っていた。当時の労組は、高利の借金に苦しむ組合員対策に頭を痛めていたが、スト資金としての団体資金はあったが、金融機能を持っていなかった。
「自分たちのために、自分たちのオカネで自分たちの資金を循環させていく仕組みを作ろう!」
「質屋・高利貸しからの解放を目指し、自分たちの銀行をつくろう」
という組合員の気持ちがたかまり、1950年、岡山と兵庫に労働金庫が誕生し、3年後に労働金庫法が施行された。
「ろうきん」は、会員が行う経済・福祉・環境及び文化に関わる活動を奨励し、人々が共生できる社会の実現に寄与することを目的にすることを謳っている。「ろうきん」は働く人の団体、市民の参加による団体を会員とし、そのネットワークによって成り立っている。会員は平等の立場で運営に参画し、運動と事業の発展にと努めている。「ろうきん」は誠実・公正・公開を旨とし、健全経営に徹して会員の信頼に応える金融機関である。
現代の労働組合・労働者(「ろうきん」では「勤労者」としているが、ここでは「労働者」の呼称を使う)が抱える課題として、将来への不安、労働運動の求心力、今日的な豊かさの追求がある。生活や福祉に関わる課題が増え、労働組合組織率が低下して労働運動の求心力がなくなりつつある(これについてはいろいろいいたいこともあるが、ここでは触れない)。価値観・意識が変化してライフスタイルが多様化し、社会との関わりを求めて自己実現・確認を希求するなど、「豊かさ」の指標も変化している。また少子高齢化の進行、雇用不安や失業率の増加、環境問題など、個人的では解決できない問題が出てきた。それら個人では解決できない社会的課題の解決のために、NPOが台頭してきた。NPOは、新しい社会セクターとしての「市民」として、自主・自立の新しい社会を構築するための、新しい社会の担い手として期待されている。
1998年に特定非営利活動促進法が制定され、この法律に基づいて認証された法人は、2010年現在で39,893法人ある。社会福祉系のNPO法人は45%を占めるが、全体の約7割が年間500万以下の収入で運営しているのが実情だ。
「ろうきん」がNPO融資制度創設に関わったのは、1995年に発生した阪神・淡路大震災がきっかけである。この年は「ボランティア元年」といわれ、多くの市民・ボランティア団体台頭すると同時に、行政・企業型縦型社会の限界を実感させられた。この時、被災地に赴いたボランティアたちや職域・労組関係者は、社会作りで手を取り合うのは必然なのではないかという思いを抱くようになった。
1996年、震災で出会った仲間と一緒に、ボランティア団体の学習会を立ち上げた。翌年、労組とボランティア団体との共同をテーマにした300人規模のシンポジウムを開催し、組織外の理解者の共感を得て、大成功を収めた。この年、1都7県の支援センターの訪問を開始した。
1998年、立ち上げ期の団体(NPO・NGO】の支援をするための「助成プログラム取り扱い」を開始した。これと並行して、資金ニーズの把握と、活動分野の調査を行うマーケットリサーチを開始した。
NPO融資制度を創設したのは、公的介護保険制度の改正(1998年)もきっかけの一つである。公的介護保険制度の指定事業者に、NPO法人が加わり、福祉系NPO法人がその準備を開始した。しかし事業開始から資金入金まで3ヶ月かかり、その間の資金ショートの問題が発生したことから、運転資金のニーズが急増した。実績のないNPO法人は信用力がないから金融サービスが受けられない。ここで「ろうきん」は、「社会にとって必要な事業にファイナンスを提供していく存在」であるという理念に回顧し、NPO向け資金融資制度の立ち上げに動いた。
2000年4月、この思いは「ろうきんNPO事業サポートローン」の誕生という形で結実する。当初はおそるおそる野出発だったが、NPOの社会的信用力の向上に寄与したと、NPO界からも高い評価を受けるようになり、現在では13の労働金庫全てで対応している。
NPOに対する資金支援の状況は、行政からの補助金・助成金・委託金、財団・企業・支援組織からの助成金、銀行・地方銀行・労働金庫・信用金庫・NPOバンクからの融資、個人からの疑似私募債・会費・寄付・出資が中心である。「ろうきん」の果たす役割として、良質な金融サービスによる勤労者福祉の充実、職場・地域で活躍する職員の育成、会員・NPOと連携した勤労者運動の展開を通じ、地域社会への貢献を目指している。また金融機関としての独自性を発揮しつつ、非営利・共同セクターと連携し、勤労者・退職者の生涯生活をサポートしている。
NPOが抱える課題もおおい。資金・人材・社会的信用力が不足し、組織力が乏しいため、市民活動(NPO)を促進するための基盤整備が求められている。「ろうきんNPO事業サポートローン」は、3年以上の活動実績があるNPO法人を対象に、無担保で最大500万(担保付きは最大5,000万)を貸し付けるローンである。金利は担保付き・無担保とも変動制、返済期間は運転資金・つなぎ資金は1年以内、設備投資は10年以内で、3名以上の個人保証人をつける事を融資条件にしている。これらのローンの資金使途は、運転資金と設備資金の2つに別れる。前者は必要経費の支払い、増加運転資金、納税資金用として、後者は事務所・作業所や事務機器の購入資金、設備購入資金としての利用が多い。
基本姿勢は「グッドマネー」ということ。「グッドマネー」は「融資ありき」の姿勢ではなく、良質な金融の実践である。暮らしと福祉の充実を図り、NPO事業活動のサポートをすることで、福祉金融機関としての役割を発揮することが狙いだ。
「ろうきん助成プログラム」では、団体立ち上げ・事業開始の「はじめの一歩」を応援するプログラムで、助成機関は最長4年間だ。活動開始資金としての「スタート助成」は上限30万(1年目・2年目・3年目)、活動展開資金として、上限100万円の「ステップアップ助成」を実施している。
「ろうきんNPO事業サポートローン」の実績は開始以来の10年間で、91件・5億1,755万円、「中央ろうきん助成プログラム」では、8年間で延べ304団体・1億1,043万円の実績がある。
最後に、全国の「ろうきん」の動きを紹介したい。
・NPO事業サポートローン(「ろうきん」全13金庫で実施)
・助成プログラム(中央・東北・静岡・中国・四国)
・社会貢献定期「NPOサポーターズ」(九州)
・会計税務に対する支援(中央)
・NPO自動寄付システム(東北・近畿・沖縄他)
・振り込み手数料免除制度(北海道・東海・近畿他)
・NPOパートナーシップ制度(近畿・九州他)
・NPOバンクへの協力(北海道・中央・長野)
・自治体提携融資(北海道・東北・中央・近畿)
※この報告は、当日配布されたレジュメを元に、管理人のメモを加えた上で再構成したものである事を、あらかじめお断りしておきます。