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預金者は主権者~社会を変えるための金融~
「第3回エコ貯金フォーラム-ソーシャル・ファイナンス発展のために預金者・金融の現場・経営者ができること-」の第2回目。今日は田中優さんのお話を紹介します。
預金者は主権者~社会を変えるための金融~
田中 優(たなか・ゆう)
未来バンク事業組合理事長
日本国際ボランティアセンター理事
ap bank監事 等
NGOというのは、人間を一人の人間に立ち返らせるものだと思う。自分の意思がないのは、奴隷でしかないのだ。今日は「お金」がテーマになっているので、その話をしたい。
日本国内には、ムダな公共事業が多すぎる。その例を2つ挙げる。
静岡空港というのが問題になっている。この空港は山の半分を削ったので、世界一建設費用のかかる空港になってしまった。県側は年間135万の利用者を見込んでいるが、航空会社労組は、利用者はやっと20万人だろうと推定している。これらの建設資金には、郵便貯金からの財政投融資が使われている。静岡銀行は、わりと評判の高い銀行のはずだが、静岡銀行はこの空港建設のために、多額の融資をしている。
北海道に「二風谷(にぶだに)」というダムが建設された。’97年に建設されたが。少なくても5年後の2002年には砂で埋まってしまい、使い物にならなくなってしまった。ダムは後ろから埋まっていき、水底が見える時点では、貯水能力がなくなった。このダムの建設費は152億円かかったが、国はこのダムを含める周辺の土地を52億円で売ってしまった。本当にムダなことをやっている。さらにこのダムの上流には、沙流川(さるがわ)ダムの建設予定もある。もともと「沙流川」とは、「砂の流れる川」という意味だったが、現実はかくの如しである。
将来を予測してみると、少子高齢化の傾向は止まらないことがわかる。政府発表のグラフに対し、現実は予測よりも低い値で推移している。このままいくと、100年後には人口は半減するから、政府は今の政策を変更する必要がある。
今の日本の財政は、1,000兆円の借金を抱えているといわれるが、実際はもっと多いかも知れない。これに対し、個人の貯蓄は1,500兆円あるといわれている。ただしローンを抱えている個人が多いので、その分をのぞくと、実質は1,000兆円になる。日本は少子高齢化の進行によって税金・公的負担が増加し、財政改革は全く進まず、国の負債は増大する一方だ。
このままの状態で推移すれば、国の赤字額は個人の資産を上回るようになる。足りない部分を海外の投資家から借りなければならないが、エネルギー自給率が4%、木材の自給率が20%、食料自給率が41%しかない国家に投資する、酔狂な投資家がいるのだろうか?借りるとすれば、相当な高金利でしか資金を調達できない。円は暴落し、ハイパーインフレが起こるだろう。
ではどうしたらいいのか?我々の運動には3つの方向性がある。自ら政治家になったり、影響を与えられるポジションから世界を変える方法(タテ)、隣の人に話したり、多くの人たちのムーブメントから変える方法(ヨコ)、全く別の仕組みを考え、現実にやってみせる方法(ナナメ)である。
個人がお金を預けるの口座は、密接に社会につながっている。年金・簡易保険・郵貯は財投機関を通じてダム・原発・ODAなどに投資され、それらは環境破壊や人権侵害につながっている。銀行預金は短期国債で運用され、それを通じてアメリカ国債に投資され、米国の戦争費用になっている。日本は先の第二次大戦で、戦費の7/8は郵貯で調達された。また、イラク戦争の時は、日本は最大で7,000億ドル以上をアメリカ国債に投資している。日本は、イラク戦争の戦費の9割を負担している。農民のための組織であるはずの農協のお金は農林中金を通じて世界銀行債に変わり、それが農業の自由化につながる原因になっている。投資信託のお金はグローバル企業に回され、カジノ経済化に拍車がかかった。
経済のグローバルを食い止めるため、全国各地でNPOバンク設立の動きが急速に広まっている。北は稚内(北海道)から南は鹿児島まで16都市にある。従来の金融機関は、地方で集めたお金を中央で決めていたのだが、これらのNPOバンクは地方で集めたお金は地方で決める、みんながお金の主権者になるという趣旨で活動している。
クラスター爆弾とは、固い金属が爆弾の周囲500m以内に飛び散り、人間の肉を引き裂き、えぐる卑劣で残酷な兵器である。投下された爆弾のうち、2割以上が不発弾になることから「もう一つの地雷」としての性格もある。被害者の98%が民間人で、さらにそのうちの3割が子供である。これを作っているのは、ロッキード、レイセオンなどの兵器産業。ヨーロッパでは兵器産業への融資をする銀行に対しては、預金者の目が厳しくなっている。イスラム銀行はもともと、兵器産業への融資ができない。クラスター爆弾の次は、劣化ウラン弾を作る会社に厳しい目が注がれるだろう。日本でも、今年(’10年)2月23日、三菱UFJ銀行頭取でもある全国銀行協会の永井会長が、クラスター爆弾を作る兵器産業への融資について
「(前略)融資実施前の審査段階で、各種のチェックをする仕組みになっており、クラスター爆弾についても、そのチェックリストの一項目として明示している。私は全体を知っているわけではないが、日本の金融機関も全体的にその方向であろうと想像する」
と述べている。我々の力は微力だが、微力をうまく使えばこれだけの成果を出せるのだ。
経済成長率の推移についてだが、高度成長時代(‘56年~’73年)は 成長率が平均9.1%を記録した。’74年~’90年のうち、’74年度はオイルショックの影響でマイナス成長を記録したが、バブル経済(‘87~’90年)の成長率は、’89年をのぞき6%台を記録していた。しかしバブル経済が崩壊して以降はは、平均成長率は1%台に低迷し、’08年度はマイナス3.2%にまで落ち込んだ。
景気の低迷と同時に、不良債権の問題がクローズアップされている。都市銀行の不良債権比率は、’02年上半期には8%以上合ったが、その後は低下傾向にある。しかし地域銀行や信用金庫・信用組合がかあエル不良債権は、’08年現在で4%を超えるなど、依然として高い水準である。企業の収益率が1%しかない中で金融機関の金利は最低でも5%程度ないとやっていけない。金融機関の金利とは、銀行の人件費+銀行の不良債権率で構成されるので、収益率はそれ以上でないと企業は成り立たなくなる。ましてや今流行の「社会的企業」は、低金利で運営できるシステムを構築しないと、事業の運営が困難な状況にある。金利でも、「単利」と「複利」の差は大きい。利率を払う場合、最初は差が開かないが、無限を前提にする複利は、時間の経過とともに支払いがどんどん増えていく。自然は単利でしか成長しないが、経済は無限が前提の複利になっている。
地域再生の例として、足立区東和商店街の試みを紹介したい。
この商店街は、学校給食民営化の際に業務を受託した。現在では、30を超える学校の給食を受託している。その食材は全て地域の食材から供給され、その結果として、商店街は生き残ることができた。商店街の会長は、従来の敬老祝を現金に換え、「地域の共通商品券」をやや多めにして発行させた。その結果として、毎年4億円が地域の商店街に回るようになった。自治体負担分を商品券にしたことで、地域の活性化に成功したのである。
地域経済がうまくいくカギは「資金量x回転数」である。地域に資金を残し、開店酢を高めれば、自然とお金は地域に残る。この際重要なことは、お金を大都会に流出させないことである。資金が地域で回転すれば、地域経済が活性化する。資金が国内で回転すれば、国内経済が活性化する。それが、自分達の地域を自分達で守ることにつながる。だから、資金が海外に流出してしまうと、国内経済の活性化にはつながらなくなってしまう。食糧などの自給率が低いと、国内の活性化につながらなくなるのだ。
個人的には「一村一品運動」に反対である。全ての村が一村一品運動に参加しても、市場で売れる商品は1,000に1つしかないからだ。需要の可能を見極め、供給を地域化すること、今市場で売れている、質のいい物を売るようになれば、地域は活性化できる。需要に見合った品物を供給することで、東京など大都会に流出している資金のバケツの穴をふさぐことができるのだ。
これと並行して、地域の代替通貨について触れたい。不安定なオカネは回転が速い反面、地域から出ていくのも早い。地域の生産者が材料をどこから仕入れて、どこに売っていくかを調べる。オカネが地域内で回るのならば地域通貨が使える。
今の私たちの生活は、未来でつかるであろう資源を強奪する生活を送っている。その生活を、未来に届けるシステムを構築しなければならない。オカネに頼らないシステムを作る必要がある。世間の常識は、あまりにもオカネにとらわれている。
資産には2種類ある。収入が得られるものだけでなく、支出を減少させるのもまた資産である。ベースを超える部分はオプションと考え、資産によって生活のベースを作ることもできる。オカネに使われるのではなく、オカネを使う主人になろう。
これからは、社会の中で、生活の糧を得られるようにならなければならない。会社にぶら下がるだけだと安心感がない。収入もしくは資産を多様に持つことで、安心感ある生活が可能になる。そのためには、自分の好きなことをするなどして、自分を多様化させる必要があるのだ。
※この報告は、当日配布されたレジュメを元に、管理人のメモを加えた上で再構成したものである事を、あらかじめお断りしておきます。