63人を殺した凶器は、火山れきだった。 その火山れきは、地獄谷に開いた火口から火砕流として谷を下ったあと、火砕流の表面から上昇する入道雲に取り込まれて5キロ上昇した。弱い風でわずかに北東に移動して山頂域に高速で降り注いだ。 登山者は、地獄谷に開いた火口から直接飛んできた火山岩塊に打たれて絶命したのではない。
火山れきは3キロを片道2分で上下した。平均速度は 25 m/s だった。
いっぽう横方向の速度はこうだった。谷を下った火砕流は2kmを1分だから33m/s。空中では、2.5kmを4分だから10m/s。そのとき名古屋のウインドプロファイラは、海抜高度6kmで15 m/sの弱い風を観測していた。
山頂付近にいた200人の登山者は、噴火開始から2分後に火砕流をなんとかやりすごしたのも束の間、その3分後に空から高速で落下してきた無数の火山れきに撃たれた。
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