きょう2008年8月29日は、平安時代の浅間山噴火からちょうど900年目の日です。
1108年8月29日、前橋にあった国庁の庭に火山灰が厚く降り積もりました。そのため上野国の田畑の多くが使用不能になりました。権中納言藤原宗忠の日記『中右記』に次のようにあることから、浅間山の大噴火がこの日に始まったことがわかります。
近日上野國司進解状云,国中有高山,稱麻間峯,而從治暦間(1065-1069)峯中細煙出來.其後微々成,從今年七月二十一日(1108.8.29)猛火燒山峯,其煙屬天沙礫滿國,【火畏】燼積庭,國内田畠依之已以滅亡,一國之災未有如此事,依希有之怪所記置也.
前橋に降り積もった火山灰を浅間山まで追うと、Bスコリアと呼ばれる黒い軽石に徐々に移り変わります。厚さも増して、軽井沢では1メートルを超えます。
Bスコリアの噴火は、追分火砕流の流出で終わりました。おそらく翌30日だったと思われます。追分火砕流は、軽井沢町追分や嬬恋村大笹に達して厚い堆積物を残しています。
この噴火は、浅間山の過去1万年間のなかで最大の噴火でした。
嬬恋村大笹の集落は、吾妻川に流入した追分火砕流がつくった段丘の上に形成されている。道路は国道144号。この噴火についてもっと詳しく知りたい人は:
史料に書かれた浅間山の噴火と災害風景に書き込まれた歴史を読み解く
11日20時05分にも噴火したと、気象庁が20時16分に発表した。有色噴煙が200メートル上がったという。現象発生からわずか11分後の発表である。今回も夜間だった。
噴火に関する火山観測報(浅間山噴火)(2008年08月11日20時16分発表)
火 山:浅間山
日 時:2008年08月11日20時05分(111105UTC)
現 象:噴火
有色噴煙:火口上200m(海抜9100FT)
白色噴煙:
流 向:南
黒斑山カメラアーカイブでその時間帯を見ると、噴火の記録基準を満たす現象が起こったとはとても思えない。
そのうえ気象庁は、同日16時10分に発表した「火山の状況に関する解説情報 4号」に
次の火山の状況に関する解説情報は、12日(火)16時頃に発表の予定です。
なお、火山活動の状況に変化があった場合には、随時お知らせします。
と書いたにもかかわらず、5号を随時に出すことはなかった。噴火はあったが、火山活動の状況には変化がなかったと気象庁が判断したと理解せざるを得ない。住民や観光客の感覚から言うと、これはたいへん奇妙である。理解しがたい。気象庁がいう噴火とは、いったい何なのか。
軽井沢はもちろん、北軽井沢でも嬬恋でも、日常生活への差し障りはまったくありません。観光もいつもどおりぞんぶんにお楽しみください。
ただし、浅間山頂を目指す登山者だけはご注意ください。浅間山荘から蛇堀川を詰め、火山館で立体模型をながめて楽しむのがよろしいかと思います。そのあと、湯の平を散策してください。火山館のすぐそばの森の中で、2004年9月23日の火山弾とクレーターを観察するのも一興です。場所は、館長にお尋ねください。

森の中のクレーターは2004年9月23日の爆発によるものだという判断は、「23日の爆発のあとで気づいた。23日より前にはなかったと、きのこ取りのひとから聞いた」と火山館長が証言するからです。さらに理学的証拠もあります。クレーターをつくった火山弾が新鮮なマグマ由来の青い岩石と変質した黄色い岩石からなります。9月23日に釜山の上にのった百トン岩もこれと同じ岩石です。
8月10日3時8分に気象庁は、浅間山が噴火したと発表した。噴火は2時37分にあったというから、日曜日の早朝だったにもかかわらず31分後の発表だった。この火山現象を噴火だと記録する決定にかかわった係官の数は多くなかっただろうと思われる。
噴火に関する火山観測報(浅間山噴火)(2008年08月10日03時08分発表)
火 山:浅間山
日 時:2008年08月10日02時37分(08091737UTC)
現 象:噴火
有色噴煙:火口上400m(海抜9800ft)
白色噴煙:不明
流 向:南東
これが噴火であると31分で判断したときの根拠は、「有色噴煙400メートル」だけだったろう。それは、おそらく長野県が設置した黒斑山カメラの画像を見ての判断だったろうと思われる。しかし
そのアーカイブ画像を見ると、噴煙が有色か白色かを判断するのは困難である。2時37分の噴煙が、その後4時まで続く大きな噴煙と本質的に異なるようには見えない。この画像を使って、噴煙の中に火山灰が混じっているかどうかを判定するのは不可能だったというべきである。
さらに48分後の3時56分、解説情報2号が発表になった。「小規模な噴火が発生したもようです」と正直に逡巡を述べているが、後段では「浅間山で噴火が発生したのは、2004年12月9日以来です」と、噴火したのが事実だとして取り扱ってしまった。これを無批判に読んだマスメディアの大量報道によって、浅間山噴火が既成事実だとして扱われるようになってしまった。
火山名 浅間山 火山の状況に関する解説情報 第2号
平成20年8月10日03時56分 気象庁地震火山部
**(本 文)**
<火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)が継続>
1.火山活動の状況
本日(10日)02時37分、山頂火口でごく小規模な噴火が発生したもようです。
噴煙の高さは火口縁上400mです。
浅間山で噴火が発生したのは、2004年12月9日以来です。
2.防災上の警戒事項等
浅間山では、火口から概ね2kmの範囲に影響を及ぼす噴火が発生する可能性がありますので、これらの地域では、弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒が必要です。
また、風下側で、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石に注意が必要です。
<火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)が継続>
報道によると、その時間に微動が3分ほど継続したと気象庁が述べたという。微動はたしかに注目すべき火山現象だが、それが直ちに噴火の発生を意味するものではない。噴火がなくても微動は発生する。
気象庁は2005年5月10日、「
噴火の記録基準」を定めた。10日未明に浅間山であった火山現象は、この基準に照らして本当に記録すべき噴火だったといえるだろうか。確認方法は3つあると書いてあるが、10日未明の現象はそのどれにも合致するようにみえない。噴煙は南東方向に流れたというが、その地域で火山灰は確認されなかった。火口から2.2キロの地点でも爆発音は聞こえなかったという。
【噴火の記録基準】
噴火の規模については、大規模なものから小規模なものまで様々であるが、固形物が噴出場所から水平若しくは垂直距離概ね100~300m の範囲を超すものを噴火として記録する。
確認の方法等は以下のとおりとする。
(1)遠望カメラによって基準に合致すると考えられる火山灰の噴出が確認できた場合
(2)後日の現地調査で基準に合致すると考えられる現象が確認できた場合
(3)地震計・空振計等によって基準に合致すると考えられる現象が発生したと推定できた場合
2004年8月から2005年3月まで毎夜の浅間山火映強度と噴火のタイミング。

この表は、火山に2005年に印刷した報告の一部として用意しましたが、削除しろと査読意見がついたために印刷公表できなかったものです。理由は、火映の強弱をこのような形式で表現するのは科学的でないということだったと記憶します。私は、この査読意見にまったく同意できませんでしたが、そのときは報告を火山に印刷したかったので争うことをせず、表の削除を承諾しました。
この記事は、まったくいただけない。どこがどうなのかの論評は後日します。いま論評すると、研究対象に影響を与えてしまうから、しません。きょうは、記事をここに記録しておくだけに留めます。
浅間山:火口周辺警報 別荘所有者から役場に安全確認の電話相次ぐ /群馬
浅間山(2568メートル)に火口周辺警報(噴火警戒レベル2、火口周辺規制)が出された8日、別荘地を抱える嬬恋村や長野原町の役場には、別荘の所有者から安全を確認する電話が相次いだ。間もなくお盆の夏休みシーズンを迎えるだけに、関係町村は観光面への影響を懸念している。
警報を受け、立ち入り禁止となる火口から2キロ以内にあたる嬬恋村は防災無線を流して村民に周知、火口北の遊歩道に立ち入り禁止の看板を掲げた。ただ、2キロ以内に建物はなく住宅地も遠いため、村民に大きな混乱はなかった。
一方、一帯は別荘地が多く、所有者には不安を与えたようだ。同村では午後3時から約30分間、5回線ある役場の電話が鳴りっぱなし。北軽井沢を抱える長野原町役場にも数十件の電話が寄せられた。同町総務課は「現在のところ別荘地への影響はないが、小規模噴火の可能性は否定できない。これで旅行を取りやめる人も予想され、影響は非常に大きい」と苦りきっている。【伊澤拓也】
毎日新聞 2008年8月9日 地方版
× 信濃毎日新聞
気象庁は8日、浅間山の噴火警戒レベルを平常の1から火口周辺への立ち入りを規制する2に引き上げた。
△ 上毛新聞
気象庁は八日、小規模噴火の可能性があるとして、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げる火口周辺警報を発表した。
○ 毎日新聞(長野)
気象庁地震火山部は8日午後3時、浅間山(2568メートル)の噴火警戒レベル1(平常)からレベル2(火口周辺規制)に引き上げたと発表した。浅間登山の火山館コース、黒斑コースがある小諸市は、火口から500メートルの立ち入り規制を、約2キロの賽(さい)の河原までの規制に変更し、登山者らに注意を呼び掛けた。
○ 読売新聞(群馬)
浅間山(2568メートル)について、気象庁が8日に発表した噴火警報は、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げたもので、昨年12月に5段階の噴火警戒レベルを導入して以降、初めての引き上げとなった。火山性地震が増加したためで、これを受けて周辺の嬬恋村や長野県3市町は、火口から半径2キロを立ち入り禁止とした。
× 読売新聞(長野)
浅間山(2568メートル)の「噴火警戒レベル」が8日、「レベル1(平常)」から「レベル2(火口周辺規制)」に引きあげられ、入山の規制範囲が拡大された。
気象庁浅間山火山防災連絡事務所(軽井沢町)によると、浅間山では6日ごろから、噴煙がやや多くなっているという。これまで火口手前500メートルの前掛山まで入山可能だったが、火口から約2キロの賽(さい)の河原と呼ばれる地点まで、入山が規制されることになった。
○ 日本経済新聞
気象庁は8日、浅間山(群馬、長野県)で火山活動が活発化しているとして、噴火警戒レベルを1(平常)から2(火口周辺規制)に引き上げた。小規模な噴火が発生し、火口から約2キロの範囲に噴石や火砕流が広がる恐れがあるといい、周辺市町村に警戒を呼びかけている。
○ 共同通信
警戒レベル引き上げを受け、小諸市では2カ所ある登山ルートで、火口から約500メートルとしていた立ち入り禁止区域を約2キロに広げた。
△ 時事通信
気象庁は8日、浅間山で小規模な噴火が発生する可能性があるとして、噴火警戒レベルを平常のレベル1から火口周辺の立ち入りを規制するレベル2に引き上げたと発表した。火口から約2キロの範囲で、大きな噴石に警戒が必要という。
× 規制主体が気象庁だと明記したもの
信濃毎日新聞、読売新聞(長野)
△ 規制主体が気象庁だと読めるもの
上毛新聞、時事通信
○ 規制主体は地元市町村長だと読めるもの(これが正しい)
毎日新聞(長野)、読売新聞(群馬)、日本経済新聞、共同通信
気象庁が使う「噴石」という語のいいかげんさにはいささかうんざりだが、弾道岩塊の飛来は火山防災を実現するための最重要課題のひとつだから看過することはできない。私も粘り強く言い続ける。
噴火予報・警報 第1号
火山名 浅間山 噴火警報(火口周辺)
平成20年8月8日15時00分 気象庁地震火山部
3.防災上の警戒事項等
火口から概ね2kmの範囲では、弾道を描いて飛散する大きな噴石に警戒
風下側では、降灰及び風の影響を受ける小さな噴石に注意
浅間山の噴火警戒レベル
レベル3 山頂火口から中噴火が発生し、4km以内に噴石や火砕流が到達
レベル2 山頂火口から小噴火が発生し、2km以内に噴石や火砕流が到達
注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。
2キロを超える風下に小さな噴石が到達するかもしれないから注意しろという。レベルの定義表を素直に読めば、それならレベル2ではなくレベル3だ。気象庁がいう噴石とは、いったい何なのだろうか。火山監視の責任官庁が、このようなわけのわからない防災用語をキーワードとして使うことを許してよいのだろうか。噴石はいったい風の影響を受けるのか、受けないのか。気象庁は、はっきりした言葉で語るべきだ。
なお、噴石は日本気象庁が独自に用いる用語である。国際語である英語にそれに対応する語はない。また私自身は、火山学を記述するときに噴石の語を10年以上前から
一切使用していない。学術研究においてはあいまい性を排除する必要があるからだ。火山弾 (bombs) あるいは火山岩塊 (blocks) の語を使う。噴石の語を使わなくても、最新火山学を平易に記述することができる。
昨年12月の気象業務法改正によって、気象庁以外のものが噴火予報をするときには気象庁長官の許可を得なければならなくなりました(17条)。私は許可を得てないので、ここには過去の事実のみを書きます。
2004年の事例
8月06日 火映出現
8月21日 とくに明るい火映
8月24日 とくに明るい火映
9月01日 ブルカノ式爆発、18万トン
2008年の事例
8月09日03時 火映出現
8月10日0237 気象庁によると有色噴煙400メートル。爆発音の報告なし
8月10日03時 とくに明るい火映
8月11日03時 明るい火映
8月11日2005 気象庁によると有色噴煙200メートル。爆発音の報告なし
8月12日03時 明るい火映
コメント:潮汐に同期しているようにみえる。8.12.0646
2008年8月8日15時の気象庁噴火警報(これは多分に災害対策基本法に抵触の疑いあり)の発表を受けた浅間山麓市町村の対応をホームページで調べました。
小諸市8月8日更新。賽の河原分岐点までの登山OK。災害対策基本法63条に言及。
御代田町8月8日更新。町自身の防災対応に変化なし。4キロ以内立入禁止。法的根拠不明。
軽井沢町8月8日更新。町自身の防災対応に変化なし。4キロ以内立入禁止。ただし、小浅間山と石尊山は登山OK。法的根拠不明。
長野原町町自身による最新情報伝達は、なし。防災対応も、なし。気象庁ページへの常設リンクのみ。
嬬恋村8月8日更新。ただし、レベル2になった事実のアナウンスと気象庁ページへのリンクのみ。ホームページには村の主体性がひとつもみられないが、現地では溶岩樹型からの登山道入口に2キロ以内立入り禁止の看板を立てたという。
【“気象庁による浅間山レベル2と地元市町村の対応”の続きを読む】