私は
6月9日に次のように書いた。「今回、「噴火警戒レベル」と命名したことによって、 (略) 気象庁が発する警戒の二文字が、今後はとても軽く扱われてしまうだろう」。その後の気象庁発表を読むと、どうやら気象庁は火山監視において注意報を全廃したようにみえる。これからは噴火予報と噴火警報の二本立てでやるらしい。よく考えてみるとこの方式は、火山に限っては、わかりやすくてよいようだ。
まず気象情報を考えよう。これは警報と注意報と(単なる)予報の三段階からなる。警報が出された地域の周辺には注意報が出されて注意喚起がおこなわれる。気象現象は危険の発生源が移動するから、危険範囲も複雑に移動する。毎回異なる。だから、危険への対応をこのように二段階に分けて表示するのはわかりやすくて合理的だ。
しかし火山では危険の発生源が移動しない。火口や谷筋に固定されている。火山の危険は地図の上に等級をつけてあらかじめ示すことができる。だから、危険対応のために警戒と注意の二段階を持ち込むより、警戒だけを設けて事態の変化に応じて警戒すべき地域を拡大したり縮小したりしたほうがわかりやすい。警戒地域の外側では、もちろん注意する。これは自明だ。噴火警戒レベル3が出たら、レベル3地域は警戒するが、その外側のレベル4地域は注意する。
もし上記のような理解と対応を社会に普及しようと気象庁が考えるなら、噴火警戒レベルひとつ一つに対応して警戒すべき領域を各火山ごとに図にして示す必要がある。これは、地元自治体に任せて済ませられるような簡単な作業ではない。まず気象庁が原案を示し、それを社会総出で知恵を振り絞って修正して、最終的には合議で決めるべきことだ。
気象庁は、大規模噴火・中規模噴火・小規模噴火の語を火山ごとに異なる定義で使っている。
樽前山
注2)大規模噴火とは、噴煙が1万m以上上がり、火砕流が広範囲に流下し、それに伴う融雪型泥流が発生するような噴火である。
注3)中規模噴火とは、噴煙が数千mまで上がり、噴石が火口から2~3kmまで飛散し、小規模な火砕流やそれに伴う融雪型泥流が発生するような噴火である。
注4)小規模噴火とは、噴煙が1,000m以下まで上がり、噴石が山頂火口原内外に飛散するような噴火である。
富士山
注2)ここでは、噴火の規模を噴出量により区分し、2~7億m3を大規模噴火、2千万~2億m3を中規模噴火、2百万~2千万m3を小規模噴火とする。なお、富士山では火口周辺のみに影響を及ぼす程度のごく小規模な噴火が発生する場所は現時点で特定されておらず、特定できるのは実際に噴火活動が開始した後と考えられており、今後想定を検討する。
火山によって異なる定義はすみやかに撤回して、すくなくとも日本の火山については同じ基準で大規模噴火・中規模噴火・小規模噴火の語を用いるべきである。
学界での先例に倣って、規模は噴出量を指す言葉とするのがよい。樽前山での使用法を捨て、富士山での使用法に統一するのがよい。樽前山の大中小は、強度の強並弱で表現するのがよいだろう。
なお富士山の注2)には、難点が二つある。規模の単位が体積で表現されている。マグマは地表に噴出すると膨らむ。その膨張率は、溶岩になった場合は数割に留まるが、火山灰になった場合は数倍になる。この差は無視できない。どうしても体積で言いたいなら密度を付すべきである。あるいは溶岩換算とかマグマ換算とかを必ず添える。もし規模を重量で言うことにすれば、このような面倒から開放される。
もうひとつの難点は、「ごく小規模な噴火」が意味するところが不明なことだ。「ごく小規模な噴火」とは「2百万~2千万m3を小規模噴火とする」の中に入るものなのか、それともそれより小さい噴火を言うのか。もし後者なら、「ごく小規模な噴火」も定義するべきだ。
草津白根山のレベル3に、重大な変更があることに気づいた。
旧レベル表でレベル3は、「山頂火口から火口周辺
1km程度まで噴石を飛散する噴火」となっていたが、新レベル表では「半径
2km程度まで噴石飛散」に変更されている。この火山の周りには、
湯釜中心から測って2.3キロの距離に複数の温泉宿泊施設がある。レベル3への対応として気象庁が表に書いた「住民は通常の生活。状況に応じて災害時要援護者の避難準備。登山禁止・入山規制等危険な地域への立入規制等」から、まったくかけ離れた現実がここにある。
草津白根山がレベル3になったとき、この温泉宿泊施設は営業できるのか。嬬恋村の対応に注目しよう。
噴火警戒レベルを決める基準がわからないと11月30日に書いたが、きょう気象庁のページを見たら、各火山の火山活動度レベル表が噴火警戒レベル表に置き換わっていた。
浅間山について、新旧の記述を比較してみた。新レベル表は旧レベル表にあった誤りと不適当をおおむね修復しているから、全体的にみて前進したと評価できる。ただし、改善すべき部分がまだ残っている。
レベル51783年天明噴火を想定しているのは旧レベル表と変わりない。今回、事例の中に「吾妻泥流」という聞きなれない語が混じった。吾妻川に流入したあとの鎌原土石なだれをこの語で呼ぶ人がいたが、それに習ったのだろうか。二つ前に「吾妻火砕流」を書きながらこの語を表中に含めたのは、混同されて誤解されることを気象庁がまるで望んでいるかのようだ。(追記1)
レベル4旧レベル表では、1950年9月23日の噴火と1973年の噴火が過去の事例として挙げられていたが、新レベル表ではどちらも削除された。レベル5と同じ「天仁天明クラス」噴火の発生が、低い確率で予見される状態をいうことに変更になった。
なお1108年噴火の主要部分は天仁元年ではなく嘉承三年に起こったから、それを天仁噴火と呼ぶのは適切でない。元号を冠するなら嘉承噴火と呼ぶべきだ。(追記2)
レベル3強いブルカノ式爆発を想定している。過去事例として挙げられた「噴石」の到達距離は、2004年9月1日2.7キロ、1973年2月1日約2キロ、1958年11月10日約3キロである。1973年噴火は旧レベル表ではレベル4事例だったが、新レベル表ではレベル3事例に格下げになった。旧レベル4で事例として挙げられた1950年9月23日の8キロは書いてない。これが事例として不適当だったことに気象庁は気づいたようだ。
旧レベル表では 「山頂火口から2~3km程度以内まで、噴石を飛散」としていたが、新レベル表では「4km以内に噴石」として、危険半径を3キロから4キロに拡大した。これは、歓迎すべき修正である。
レベル2ここで2004年の事例を書くなら、「7月下旬」とではなく日付まで明記して「7月31日」と書くべきだ。7月20日にレベル2からレベル1に下げたが、11日後の7月31日に再びレベル2に引き上げたのだから。
レベル1「2007年12月現在、山頂火口から500m以内規制中」と書くが、これは小諸市の規制内容である。
軽井沢町はこれよりはるかに広い範囲を立ち入り禁止にしている。
注
注1)ここでいう噴石とは、主として風の影響を受けずに飛散する大きさのものとする。
不十分な定義だが、1950年9月23日の8キロを事例から削除したのをみると、
気象庁は「噴石」の語を、弾道起動を描いて空中を飛行する火山弾に限ったようだ。そのサイズの下限はおよそ10センチになる。これは、浅間山で明治以来使ってきたもともとの定義に沿った使い方だ。平成の時代に気象庁が一度この定義を変えようとしたが、考え直して明治の定義を使うことにしたと、火山研究史に記録されることになった。用語は、それがきちんと定義されて使われれば解釈可能だから、気象庁の「噴石」はいちおう解釈可能なものになった。しかしこのような誤解にまみれたあいまいな用語は、この場合はとくに生命にかかわることがらだけに、早晩もっとよい用語に置き換えられるべきだ。(追記3)
注2)表中にある火口からの距離はいずれも概ねの数値を意味する。
なんといい加減な発言だろう。距離はきちんと計測できるパラメータだ。そして防災においてもっとも重要なパラメータのひとつだ。責任を回避したい思惑が透けて見えて、悲しい。また、起点を火口中心とするのか火口縁とするのかを明記すべきだ。前者が望ましい。
注4)中噴火とは、山頂火口から概ね4km以内に噴石飛散させる噴火とする(稀に噴石が概ね4kmをこえることがある)。
注5)小噴火とは、山頂火口から概ね2km以内に噴石飛散させる噴火とする。
この定義だと、小噴火は中噴火でもある。気象庁は、もっときちんとした日本語を書くべきだ。(追記4)
【“噴火警戒レベル表 浅間山”の続きを読む】
1ヵ月前に南東に進み始めた溶岩はその後、失速しました。現在も1ヵ月前とほとんど変わらない状態です。東リフトゾーンに7月に開いた割れ目のうち、もっとも東寄りで、もっとも低い位置にある割れ目Dから、相変わらず溶岩が流れ出しています。
南東への流路もできましたが、東へ向かう流路がまだ生きています。いま溶岩すくいができるのは、ジャングルに囲まれた溶岩原にヘリコプターで着陸できる専門家だけに限られています。溶岩が南海岸まで流れ下ってこないと、一般人がアクセスするのは難しい状況です。もうしばらくお預けのようです。
ハワイ火山観測所のページ
「UFO対処を頭に入れるべき」石破防衛相
12月20日11時56分配信 産経新聞
石破茂防衛相が20日午前の記者会見で語った、未確認飛行物体(UFO)に関する発言の詳細は以下の通り。
「UFO(の質問)は出ませんでしたね。再開しようか?」
--UFO論議が注目を浴びているが、ご所見を
「存在しないと断定できる根拠がない。個人的に信じる、信じないの問題はあるのだろうが、そういうような未確認飛行物体、それを操る生命体が存在しないと断定しうる根拠はない。防衛省としてというよりも、私個人の話だが、存在しないと断定し得ない以上、いるかもしれない。少なくともないと断定するだけの根拠を私は持っていない。そういうものはあり得るだろうということだと私は思う」
--その場合、防衛力のあり方への影響は
「ゴジラの映画があるが、ゴジラでもモスラでも何でもいいのだが、あのときに自衛隊が出ますよね。一体、何なんだこの法的根拠はという議論があまりされない。映画でも防衛相が何かを決定するとか、首相が何かを決定するとかのシーンはないわけだ。ただ、ゴジラがやってきたということになればこれは普通は災害派遣なのでしょうね。
命令による災害派遣か要請による災害派遣かは別にしてですよ、これは災害派遣でしょう。これは天変地異の類ですから。モスラでもだいたい同様であろうかなと思いますが、UFO襲来という話になるとこれは災害派遣なのかねということになるのだろう。領空侵犯なのかというと、あれが外国の航空機かということになる。外国というカテゴリーにはまず入らないでしょうね。
航空機というからには翼があって揚力によって飛ぶのが航空機ですから、UFOが何によって飛んでいるのか、色んな議論があるのでしょうけど、それをそのまま領空侵犯で読めるかというとなかなか厳しいかもしれない。そうなってくると、これは飛翔体なのかねということになるとするとどうなのか。例えば隕石(いんせき)が降ってきたことと同じに考えられるか。隕石は自然現象だから何の意思もなく降ってくるわけですが、UFOの場合は意思なく降ってくるわけではない。これをどのように法的に評価するのかということもある。そうすると災害派遣が使えるのか、領空侵犯でもなさそうだ。そうすると防衛出動かねということになるが、それをわが国に対する急迫不正な武力攻撃と考えるかというとそうはならないだろう。
UFOが襲来して、色々な攻撃を仕掛けるということになれば、そういう評価も成り立つのだと思うが、『地球の皆さん、仲良くしよう』と言って降ってきたときに、それはわが国に対する急迫不正な武力攻撃でも何でもない。また、何らかの意思が伝達されたときに何を言っているかよく分からないという場合に一体、どのようにわが方の意思を伝達するのだということもある。当省として、こういう場合にどうするかという方針を固めたわけでも何でもない。これは私個人の話であって、私は頭の体操という言葉はあまり好きではないが、色んな可能性は考えておくべきものだ。
ある日突然にそういうことが起こって、どうするのかというのもあまり望ましいことではない。省として取り組むことは全然ないが、私自身として、一体どうなるのかということは考えてみたいと思っている。そのときに日本だけ襲来するかというと、世界あちこちに襲来するでしょうな。そのときに国連でそういう議論が行われたかというとあまり承知していない。まだ、存在しないと断定し得うる根拠がない以上は、やはり頭のどこかに置いておくべきなのではないのかなと。当省としてそういう方針を決定したということでは全くありません」
貴重な発言だから、全文転載します。職責の視点から問題の所在を指摘したのはよかったのだが、それを裏打ちする教養が不足していた。
教養はともかく、職責の話をしよう。地球外生命体が飛来したら、陣頭に立ってその対応に当たるべきは防衛大臣ではなく総理大臣だ。災害緊急事態を布告することになるだろう。残念ながら、防衛省は災害対策基本法を所掌していない。
「映画でも防衛相が何かを決定するとか、首相が何かを決定するとかのシーンはない」という石破大臣の発言は、そのとおりだ。昨年公開された『日本沈没』にも、そのシーンはなかった。
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日本沈没 ハイテクジャンボは火山弾で落ちない
町村信孝官房長官が18日、定例記者会見でUFOの実在にかかわる個人意見を述べた。
あのー、私は個人的には、こういうものは絶対いると思っておりまして。個人的な、個人的な意見でありまして、政府答弁は政府答弁であります。
産経新聞から
政府答弁と個人意見が異なることがあってよい。政府答弁を否定する個人意見を官房長官がその日の記者会見で表明したという、こんなわかりやすい事例が収集できました。
ともすれば集団決定に無条件で従うことが強制され、個人の自由が束縛されることが多い社会で、溜飲を下げた思いがします。
軽井沢町のページ(12月6日更新)は、気象庁による浅間山レベルが1であることを明記した上で、浅間山は「火口から4キロメートル以内立入禁止」としている。
気象庁が12月1日に出した浅間山の
噴火予報は、火口付近には火山ガスの危険があると書いているが、それより外側にとくに警戒すべき危険があるとは書いてない。
1.火山活動の状況及び予報警報事項
火山活動は、これまでと変わらず静穏な状況で、火口周辺に影響を及ぼす噴火の兆候は見られません。
浅間山の噴火予報・警報は、噴火予報(噴火警戒レベル1、平常)です。
2.対象市町村等
群馬県:嬬恋村、長野原町
長野県:軽井沢町、御代田町、小諸市
3.防災上の警戒事項等
火口付近で噴気、火山ガスの噴出等が見られます(この範囲に入った場合には生命に危険が及ぶ)。火口内等では警戒が必要です。
11月29日に開かれた浅間山火山防災対策連絡会議では、気象庁のレベルが1のときは
火口から500メートルまでの規制にすることが決まったという。軽井沢町も浅間山火山防災対策連絡会議のメンバーだから、他の市町村にあわせて浅間山の登山規制を4キロから大幅に緩めてほしい。具体的には、峰の茶屋から東前掛を経て前掛山頂に立つルートの通行を認めてほしい。
登山規制のさらなる解除を軽井沢町に求む(2006年9月23日)
気象庁ページの
地震動の予報業務許可についてよくある質問と回答より
(問)P波センサーを用いて、まもなく大きな揺れが来ることを利用者に知らせることは、地震動の予報業務にあたるのですか。
(答)単体のP波センサー(特定地点においてP波を観測し、その後、当該地点に大きな地震動が到達することを報じる装置)のような観測装置を用いて、当該観測場所におけるS波の地震動を報じる業務については、当該観測場所にS波がP波よりも後に到達し、かつより大きな地震動をもたらすという自明なことを報じているに過ぎませんので、予報業務にはあたりません。
気象庁が12月1日から導入した「地震動」予報・警報は、自明のことを報じるシステムではないというのだろうか。地震波の速度より情報伝達速度のほうが速い。科学が保証するこの「自明」を利用したシステムが、技術革新によって実用化できたから今回導入したのではなかったのか。先行して気象庁外で行われていたP波センサーによる「地震動」予報システムを予報業務にあたらないとしたこの一問一答は、予報業務の許可制度が時代に合わなくなったことを証明しているようにみえる。