中村亨 / フェルマーの最終定理 - 萌えて愉しむ数学最大の難問
- 2012/07/01(日) 23:59:59
フェルマーの最終定理が360年という歳月をかけてどのように解決に至ったかを解説する内容がメインで、各章に挿入されている、コスプレイヤーでオタクの積野うさぎとフェル子の登場するマンガは、その内容を補足したり理解を助けるものではないので、定理の証明自体を愉しみたい人は、じっくり本文を読む必要があります。そういう点で、このマンガは入門というより息抜きという意味合いが強いです。
証明の流れが分かりやすくまとまったマンガを期待していたので少し肩すかしを食らいましたが、定理そのものを擬人化して別の観点から物語が進む発想はそれはそれで面白いと思いました。
読者もぜひ、フェルマーの最終定理の物語を、詩でも、音楽でも、映像でも、ダンスでもいい、何かの形で表現できないか挑戦してみてほしい。それが、私の願いだ。きっと、腐女子を自負する女子オタクが本書を手にして数学が好きになるきっかけになれば著者も我が意を得たり、ということでしょうが、実際には数学オタクが萌え系美少女漫画に目覚めるきっかけになるような気がしなくもありません、、、。
フェルマーの定理とは、
3以上の自然数nにおいて、
xn+yn=zn
を満たす0でない自然数(x, y, z)の組み合わせはない
n=2では0以外の自然数解は無数にあるが、n=3になると0以外の組み合わせがない、ということからフェル子は3次元より2次元を好むコスプレイヤーとなっています。
そしてその定理が長年証明できなかったことからフェル子の存在自体も危ぶまれるのですが、そんなフェル子に、友達のできないうさぎは心惹かれるようになります。
そんな訳でマンガ自体は普通に面白いのですが、本書の肝はやはり本文。
あらかじめ大まかな流れをつかんでいると読みやすいと思いますが、その点、Wikipediaのまとめ方は分かりやすいです。
その上で、一番面白かった所を備忘録的に書き留めてみると。
ピタゴラスの三つ組み
p,q,rを自然数とし、p>qとする。このとき、x=r(p2-q2)
y=2rpq
z=r(p2+q2)
あるいは
x=2rpq
y=r(p2-q2)
z=r(p2+q2)
とすれば、
x2+y2=z2
を満たす。
ただしrはx,y,zの最大公約数、p,qは互いに素で偶奇の異なる自然数。またx/rとy/rは偶奇が異なり、z/rは奇数。
(↑「ピタゴラス数と角の二等分線|21vertexのブログ」参照)
フェルマーの書き込み
「x4+y4=z2を満たす0ではない自然数の組(x,y,z)は存在しない」ことの証明(背理法による)。0でない自然数x,y,xが
x4+y4=z2
を満たすとする。ここで、x,y,zのどの2つも互いに素である場合を示せば十分。
(x2,y2,z)はピタゴラスの三つ組みなので、
x2=2pq
y2=p2-q2
z=p2+q2
で、p,q(p>q>0)は互いに素で偶奇が異なるとして良い。
このとき、
y2+q2=p2
だから、(y,p,q)もピタゴラスの三つ組み。
yは奇数だからqは偶数となり、
y=a2-b2
q=2ab
p=a2+b2
ここで、p,qは互いに素だから、a,b(a>b>0)も互いに素で偶奇が異なる。
よって
x2=2pq=4ab(a2+b2)
となり、ab(a2+b2)は平方数。
ここで、
a,bは互いに素なので、abを割る素数(Aとする)はaかbのうち一方のみを割り切り、
a2+b2はAで割り切れないので、
abとa2+b2は互いに素。
よって、
abもa2+b2も平方数。
さらに、a,bは互いに素なので、aもbも平方数。
そこで
a=X2
b=Y2
と書くと、
X4+Y4=a2+b2
なので上式は平方数Z2と書ける。
Z2=X4+Y4=a2+b2=p
<p2+q2=z
<z2=x4+y4
つまり、
x4+y4=z2
を満たすzが存在すると仮定したとき、
X4+Y4=Z2
を満たすZ<zが存在することになる。
同じ論法で、
X'4+Y'4=Z'2
を満たすZ'<Zが存在することになり、
zがどんどん小さくなる組が見つかることになる。
しかしzは自然数で必ず1以上なので、どんどん小さくなるというのはおかしい。
よって、
x4+y4=z2を満たす0ではない自然数の組(x,y,z)は存在しない。
この論法は無限降下法といい、フェルマーが創始者で「私の論法」といっている。
n=4の時のフェルマーの定理の証明
自然数a,b,cで、
a4+b4=c4=d2
が成り立つとする。ただしd=c2
しかしこれは、上でフェルマーが「x4+y4=z2を満たす0ではない自然数の組(x,y,z)は存在しない」という事実に矛盾している。
だからn=4の場合のフェルマー予想は正しい。
ということで、
証明はn=4のときとnが素数のときのみ考えれば良い(個別研究の時代参照)といえども、このようにn=4の時だけでもかなり説明を要するので、以下省略。
歴史的には、n=11や13の場合について研究してみようと思う者はいなくなり、個別研究の時代は終わり、近代的アプローチとなり、最終的にはアンドリュー・ワイルズが解決の道にたどり着きました。