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村山由佳 / すべての雲は銀の…

  • 2008/09/15(月) 00:00:00

 正直言うと、読み始めの頃の印象はあまり良くありませんでした。瞳子さんの傍若無人で非常識な言動に不快感を覚えたからです。

 ところが、、、読み進めて行くうちに、次第に瞳子さんに惹かれてゆくのです。この人の存在こそが本書のポイントであると思うようになりました。
 まさに作者の思うつぼであり、主人公の祐介と同じ視点で、作中の世界を眺めていることに気づかされます。

「僕」祐介は、単なる失恋ではなく、兄貴に彼女を奪われたという胸の痛手から、大学を休み、信州菅平の宿で働くことに。そこで知り合ったのが、前述した瞳子さん、子連れの未亡人です。一見すると脳天気な姉御ですが、その裏には辛い過去があり、その人物描写の妙に、彼女にならどんな失礼なことを言われても許せる感覚になりました。
 苦労知らずのお姫様に言われると腹立たしいことでも、人生経験豊富な人に言われると素直に聞けるということはよくあることです。

 その他、頑固おやじの園主、夢を追いながらも将来に不安を感じる少女、孫煩悩な老人と不登校なその孫など、それぞれが悩みを抱えながら、彼らと一生懸命生活するに従い、祐介の心の傷は次第に癒されてゆきます。

「困難にぶち当たったら、一歩引いて自分を客観視してみると、案外大したことなかった」と言った人がありますが、実にそのことを、心温まるストーリーで描いた小説だと思いました。
「私が言おうとしたのはね。つまり、幸福とか不幸って、ものすごく個人的な問題だってことなの。たぶん亮一くんのお母さんに今村さんたちの不幸を理解しろと言っても無理だと思う。ぜいたくな悩みにしか聞こえないかもしれない。でもそのかわり、今村さんたちにも私たちにも、亮一くんのお母さんの不幸や幸福をほんとうに理解することはできないんでしょうしね。まわりの99人までが全然たいしたことないと思ったって、本人が不幸だと思ったらそれは不幸なんだっていうことよ。その反対に、はたから見てどんなに救いのない状況でも、当人が少しでも満足できるなら、それはりっぱに幸福でありうるんだわ」
 そう言って、彼女はひとつうなずいた。まるで自分自身を納得させているような感じだった。
 いったいこのひとは、今までにどんな苦しいところをくぐり抜けてきたんだろうと僕は思った。そして今この瞬間、自分の境遇を幸福と不幸のどちらだと考えているんだろう。若くして夫に先立たれ、小さな子どもを抱えてこれからも生きていかなくちゃならない……それでも少しは、幸福だと感じる時があるんだろうか。

 以下、ネタばらしかも知れませんが、タイトルの意味です。

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