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薬丸岳 ~ 天使のナイフ

  • 2007/08/03(金) 00:00:39

 第51回江戸川乱歩賞受賞作品、薬丸岳さんのデビュー作です。

 犯罪の被害者と加害者、双方の立場から、少年法をテーマに「厚生とは」「贖罪とは」を考えさせられる内容です。非常に面白く、一気に読めました。本の巻末には、審査員のコメントが載っていますが、異口同音に称賛されているのは納得のゆくところです。ネット上でも概ね好評のようです。

「刑法41条には14歳に満たない者の行為は、罰しない」という少年法の是非については、立場によって色々な意見があると思います。ただ、少なくとも言えることは、人為的裁きを受けずとも、犯罪者は残りの人生を、精神的苦悩を背負って歩まねばならねばならないということです。「1人殺してしまったのだから、2人殺しても何人殺しても同じだ」「見つからなければ儲けもの」というのは暴論で、犯した罪の重さに応じて、その苦しみは大きくなるのではないでしょうか。誰に見られている、いないにかかわらず、まさに「悪因悪果 自因自果」です。時効成立後に自首する犯人も皆無ではありません。

 加害者、被害者、共に「贖罪」なくして救いはないと思います。ましてや「復讐」という行為に出るならば、負の連鎖は加速度的に広がってゆくでしょう。この作品にはそんな実態が、意外性に満ちたストーリー展開で浮き彫りにされています。東野圭吾さんの『容疑者Xの献身』『赤い指』『手紙』などの結末に、なぜか安堵の気持ちが芽生えてくるのも、その辺に原因があるのかもしれません。

 その昔、高僧・法然上人は、勢至丸と言われていた幼少期、非業の死を遂げた父君より臨終に「仇をもって仇に報いるのは愚かなこと。私の非業な死は自身の過去世の悪業のためなのじゃ。勢至丸よ、父を思うてくれるなら仇討ちなどせず、どうか日本一の僧侶になり、菩提を弔ってくれ」と言われ仏門に入られたと聞きます。

「犯した罪にどう向き合うか」も大事ですが、それと同時に、感情の一時的な高ぶりや無知から生ずる罪悪が、如何に自他共に傷つける愚行であるかを教える教育が必要なのではないでしょうか。


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