人工知能(AI)を使って画像や文章、音声などを生成できるようになった。表現活動を脅かされかねないとして、文化芸術の担い手が危機感を募らせている。
懸念されるのは、著作権が侵害されることだ。画像や文章を生成させるためには、大量のデータを読み込ませる必要がある。データとして利用されるのは、アーティストが創造した画像や楽曲、俳優の肖像、声などである。
俳優や音楽家らで作る日本芸能従事者協会が5月に実施したウェブアンケートでは回答者の約94%が「権利侵害などの弊害に不安がある」と答えた。「画像の生成に自身の作品を勝手に使用された」「培った技術の価値が否定される」と訴える声も寄せられた。
現行の著作権法では、情報解析や情報処理のためであれば、学習用データとして著作権者の許諾なしに著作物を利用することができる。イノベーションの創出を図りたい産業界からの要請で、国が2018年に法改正した。
だが、生成AIが急速に進化したため、現在の著作権法の枠組みでは十分に対応できない問題も生まれている。
AIによる生成過程は外から知ることができず、ブラックボックス化している。人間の場合と違って、どのデータを使ったのか明らかになりにくい。
芸能従事者協会は、学習させたデータの開示を利用者に義務付けるルール作りなど、権利を保護する仕組みを国に要望している。
業務の効率化につながるAIの活用はこれからも広がるだろう。すでに人間の仕事が取って代わられている例もある。
だが、文化芸術の分野で活用が進めば、アーティストらの創作意欲がそがれかねない。芸や技術の継承に支障が出て、文化の多様性が損なわれる恐れがある。
米国では、影響を危惧するハリウッドの脚本家らが映画やドラマのシナリオ作りには使わないよう製作会社側に求めている。
文化庁はAIと著作権の問題について、弁護士や有識者らから意見を聞き、課題を探るという。
社会のデジタル化が加速する中、文化芸術に携わる人たちの権利が侵害されることのないよう議論を進めてほしい。