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ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から2年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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私たちはゆでガエル? 露や中国、米国…世界で民主主義の危機

V-Dem研究所発表の今年の報告書に載った「2021年の自由民主主義の状況」。濃い赤はより権威主義が強いことを示し、濃い青はより民主的であることを示す=同報告書より
V-Dem研究所発表の今年の報告書に載った「2021年の自由民主主義の状況」。濃い赤はより権威主義が強いことを示し、濃い青はより民主的であることを示す=同報告書より

 ロシアのプーチン大統領はさぞや驚いたことだろう。軍事力やカネではなく、ウクライナ侵攻で危機にさらされた自由や民主主義といった概念が、ウクライナ人や西側の政治家をこれほど動かすなんて。だが、世界に目を向けると、民主主義の価値を信じる人々は減少しているようだ。強権的な政治家が権力の座につき、アメリカのような自由民主主義(リベラルデモクラシー)の国でも民主主義が劣化している。なぜ民主主義が後退しているのか? 処方箋はないのか? 世界各国の民主主義の動向を調査してきたV-Dem研究所(スウェーデン)の東アジアセンター所長を務める粕谷祐子・慶応大法学部教授(比較政治学)に聞いた。【國枝すみれ】

露のウクライナ侵攻の影響は?

 ――ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が、世界の民主化や権威主義化に与える影響をどう見ていますか。

 ◆二つあります。一つは、超大国アメリカの外交政策への影響です。米国ではウクライナ侵攻を権威主義体制の国による民主主義への攻撃と捉える人が多く、世界で民主主義を拡大しようとする動きがより一層強まります。米議会でも民主化促進は米国の国益になるとの主張が強くなり、途上国の民主化支援の予算が増えるでしょう。

 もう一つは、途上国でインフレが進むことで引き起こされる権威主義化です。ウクライナはアジアやアフリカへの穀物の輸出国で、小麦は貧困層が頼るインスタントラーメンなどの原料でもあります。食料品の高騰がガソリン代の高騰と相まって貧しい人々の生活を直撃し、不満が高まります。強権的な政治家が台頭する土壌を作ってしまう可能性があります。

 ――400万人を超えるウクライナ人が難民となり、欧州の他国に流出しました。これが原因となり、欧州でさらに排外的で強権的な政治家が増えることはないでしょうか。

 ◆欧州のポピュリスト政治家が攻撃の対象にしてきたのは、中東のシリアや北アフリカから来た非白人、非キリスト教徒の難民です。ウクライナ難民は白人なので、こうしたレトリックには直接的に当てはまらない。例えば、権威主義化するポーランドもウクライナ難民の受け入れには積極的です。

欧州やアジアで民主主義が後退

 ――世界的な民主主義の後退と権威主義化の原因は何でしょうか。

 ◆ここ10年の現象は統一的な原因によって引き起こされているものではありません。その要因も起きていることも地域によって異なります。例えば、欧州諸国の場合は、厳しい民主主義の基準を求める超国家機構の欧州連合(EU)へのバックラッシュ(反発)、非白人の難民の流入が強権的な政治家の台頭を招き、彼らが民主主義を壊しています。

 アジアに目を向けると、インドではヒンズー・ナショナリズム、フィリピンではエリート政治家に対する幻滅が主な原因です。カンボジアはもともと権威主義体制だったところに、中国というアジア地域における権威主義の中枢的存在が援助してくれるので、より権威主義的な政治をしやすくなっています。香港は中国に直接的に自由を制限されて民主主義が後退しました。

 (1991年の)ソ連崩壊による冷戦終結は世界各地で民主化を促進しました。しかし、今はそういった地殻変動的な要因は見当たりません。強いて言えば、情報技術の発達が民主主義を壊そうとする人たちに使いやすい武器を提供したということでしょう。

 ――中国も権威主義化の方向に世界を引っ張っているのでしょうか。

 ◆中国は国民の自由を制限しているので、民主主義的な価値観を侵害しているのは明確ですが、他国の民主主義への影響という点では、国によって異なります。誰が民主主義を壊しているのかというと、フィリピンでは大統領、ミャンマーでは軍です。国内政治のレベルで民主主義がどんどん壊されていることが問題なのです。中国の資金援助が権威主義的な政治家やその取り巻きを助けているという側面はあるかもしれませんが……。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」状態の米国

 ――権威主義化は、民主主義国の間でも起きています。民主主義を知っているはずの国民がどうして権威主義に傾くのですか。

 ◆それぞれの地域によって違うと思いますが、いくつかのパターンはあります。アメリカは一つの典型です。(2大政党の)民主党支持者と共和党支持者の間に、「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」といえるような感情的レベルでの深い分断が生まれ、それを突いて権威主義的なトランプ大統領が誕生し、メディアや裁判所のような権力をチェックする機関を攻撃しました。トランプ支持者は「トランプは民主主義を壊しているが、民主党に政治を牛耳られるよりはまし」と考える。インドも同様で、ヒンズー教徒とイスラム教徒の間には感情的な深い分断があります。

 もう一つはフィリピンのパターンで、社会的分断はほとんどないが、これまでの民主主義の機能不全に失望した国民が、「新しいことをやる」と約束する政治家に期待して、その人がやることを全て許してしまう。

権威主義への免疫をつけるには。

 ――民主主義の機能不全に失望してさらに民主主義を壊す強権的な政治家を選ぶことが理解できないです。国民が権威主義に引き付けられないようにするための処方箋はないですか。

 ◆あるとすれば、主権者教育です。小中学校の頃から、民主主義の機能や投票の意味について教えることが重要です。日本は「政治は汚いものだから触らない」という傾向があるように思いますが、それだと(強権的な政治家への)集団免疫がつきません。子どものうちから政治についてのリテラシーを高める工夫が必要です。

 ――民主主義が後退する時、最初に出てくる症状は何ですか。

 ◆それもさまざまなのですが、あえていうと、強権的リーダーが民主主義を壊すとき、一番壊しやすいところから壊します。まずはメディア、そして人権団体など市民社会を支えるNGO(非政府組織)です。報道の自由が制限され、ジャーナリストが殺されても、有権者は強く反発しない場合が多いのです。フィリピ…

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