震災遺児が直面する貧困 所得200万円未満4割超、保護者の半数は非正規か無職
2011年3月の東日本大震災で親を亡くした子どもとその保護者に毎日新聞がアンケート調査をしたところ、世帯所得200万円未満の家庭が震災前は6%しかなかったのに、震災後は4割超に増えていた。保護者の現在の職業は非正規が3割、無職が2割で、合わせると5割を超える。ひとり親となった家庭や、孤児を育てる家庭の家計が困窮している状況がうかがえた。
震災遺児・孤児 1800人
厚生労働省によると、19年3月現在、震災当時18歳未満で片親を亡くした「遺児」は1554人、両親とも失った「孤児」は243人いる。
調査は、毎日新聞と毎日新聞社会事業団が震災遺児・孤児の学業継続を支援するため11年度から給付している高校生や大学生が対象の「毎日希望奨学金」の奨学生(元奨学生を含む)に実施した。10月に全奨学生601人の家庭にアンケートを郵送し、宛先不明で返送されたものを除き423人の家庭に届けた。このうち遺児・孤児178人(男79人、女99人)と保護者161人(父47人、母104人、祖父母ら10人)が回答を寄せた。同じ家庭の遺児と保護者が回答したケースのほか、遺児や保護者のみが答えたものもある。
回答した保護者(平均53歳)は、震災前に平均2・2人の子ども(祖父母の場合は孫)がいた。当時の住まいは、岩手県75人▽宮城県75人▽福島県7人――など。また、遺児・孤児(平均21歳)の現在の職業は、大学生・短大生・大学院生61人▽高校生49人▽社会人46人▽専門学校生11人――などだった。
世帯所得400万円以上も3分の1に
世帯所得の変化は保護者に尋ねた。400万円以上は震災前が51%だったが、震災後は18%と3分の1に激減。一方で200万円未満は、震災前の6%から震災後は45%と7倍以上に増えた。厚労省の19年調査によると、国内で世帯所得200万円未満(高齢者世帯も含む)の割合は19%で、これよりも多い。家計を支えていた親が震災で犠牲になり、収入が減る家庭が多かったとみられる。
また回答した保護者の職業は、正社員・正規職員の割合が震災前49%→震災直後44%→現在34%――と年を追うごとに減っている。これに対し、非正規の社員・職員の割合は震災前26%→震災直後31%→現在35%、無職の割合は震災前13%→震災直後18%→現在20%――と増えている。職場も被災して仕事を失った親が少なくなかったとみられる。現在の保護者の多くも60歳未満で定年退職を迎える年齢ではなく、雇用状況が回復していないようだ。
自宅が無事だった家庭は32%にとどまり、全壊が49%、半壊・一部損壊が17%だった。転居回数は最も多い家庭が5回で、平均2回。転居理由は、東京電力福島第1原発事故が4世帯、経済的事情が8世帯あった。現在の住まいは、震災時と違う所有物件が44%、震災時と違う賃貸物件(災害公営住宅含む)が16%。震災時と同じは36%だった。
「コロナで解雇」の声も
新型コロナウイルス感染拡大による経済的な影響も尋ねた。夫を亡くした岩手県の非正規労働の女性(57)は「4~6月に仕事がストップし、全く収入がない状態」、夫が犠牲になった宮城県の無職女性(50)は「解雇されて現在求職中」と回答した。妻を失った岩手県の飲食店経営の男性(46)は「売り上げ減になり、経済的に厳しい」と答えるなど、震災で弱った家計を新型コロナが直撃していることが浮き彫りになった。
被災した子の教育支援をしている公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」の今井悠介代表理事は「家屋全壊など被害が分かりやすかった災害直後に比べ、現在は問題が複雑化している。経済的な問題にとどまらず、子どもの心に影響が出たり、家族が病気になったりしており、長期的な支援が必要だ」と話している。【関谷俊介、金寿英】
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