菅首相、なぜ新型コロナ感染拡大について記者会見を開かないのか? 国民は納得ある説明を求めている、菅内閣と野党共闘の行方(10)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その235)

3連休中の京都は、物凄い人混みで1日中ごった返した。テレビでも嵐山渡月橋、清水寺舞台、永観堂境内などの物凄い混雑風景が放映されていたが、都心でも恐ろしいほどの人出だった。どうしても欲しい本があって河原町通りの丸善書店に行こうとしたが、京阪電車を降りた途端、三条大橋の異様な混雑ぶりを見てそのまま引返さざるを得なかった。これではとても安心して京都の街を歩けない。それでいて、京都は感染者数が大阪に比べて段違いに少ないのはなぜか。京都市民の間では、「データーが隠蔽されているのでは?」との噂が飛び交っているほどなのである。

 

こんな不安が京都はもとより全国でも広がっているというのに、菅首相はこの間まともな記者会見を一度も開いたことがない。11月以降、記者団のぶら下がり取材に対してもコロナ感染に関しては僅か2回発言しただけで、国民に対して説明しようとする姿勢がまったく感じられない。世界各国の首脳の中でもこれほどコロナ感染に無関心(無知)であり、国民の不安を軽視している人物はいないのではないか。居たら教えてほしい。

 

それでいて内輪の自民党地方組織との会談はしばしば行い、経営者相手の講演会には積極的に出かけている。11月23日の東京都内の講演会では、首相は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、観光支援策「GoToトラベル」の一時停止を決めたことに関し、「トラベルは延べ4000万人の方が利用している。その中で現時点での感染者数は約180人だ」と指摘し、トラベル事業が感染拡大の原因との見方に否定的な考えを示したという。その上で「医療への過度な負荷をかけないため短期間に集中して感染リスクが高い状況に焦点を絞った対策が必要だ」「(対策を)徹底することによって、国民の命と暮らしを守る」と強調したのだそうである(時事通信11月23日)。

 

 要するに、GoToトラベル事業は多数の国民が利用しているが、大規模な感染拡大は発生していない。しかし医療への過度の負担を避けるため、予防的に感染リスクの高い「一部地域」に限って「一時的対策」をとるという姿勢なのである。そこには、感染が収束していないにもかかわらず、自らが旗振り役となって開始したGoToトラベルが〝感染第3波〟を引き起こした政治責任をあくまでも回避しようとする魂胆が透けて見える。この人物にとっては、国民の命と健康よりも政権維持の方が大事なのである。

 

 菅首相のこの見解は、多くの専門家が指摘しているように、新型コロナウイルスに関する科学的認識の決定的欠如(無知)によるものだ。新型コロナの直ちに症状は現れないが感染力は抜群に強いという特性、すなわち「無症状」の感染者が市中感染によって広範に拡散しているという傾向を無視し、「発症していない状況」を「発生していない状況」と読み違えているだけなのである。ヨーロッパでは、10月になってから顕在化した大規模な〝第3波“の原因が、夏のバカンス旅行によるものだと誰もが認識している。日本のGoToトラベルがその後を忠実に追っていることは、いまや世界の常識なのである。

 

 多くの国民はすでにその危険を察知している。共同通信が11月14、15両日に実施した世論調査によると、コロナ感染者が過去最多を記録した現状への不安を尋ねたところ「不安を感じている」は「ある程度」を含め84.0%だった。来年1月末までを実施期間としている観光支援事業「GoToトラベル」を延長する政府方針に対しては、反対が50.0%、賛成は43.4%だった。 新型コロナへの取り組みで政府が感染防止と経済活動のどちらを優先するべきかを尋ねたところ「どちらかといえば」を含め「感染防止」との回答が68.4%だった(共同通信11月16日)。

 

 この世論調査が行われた11月14、15日時点の1日新規感染者数は1690人台、まだ1700人に届いていなかった。しかし、1週間後の11月22日時点の新規感染者数は早くも2500人を突破している。「過去最多記録」は日々更新されているのであって、この先どのような事態が待ち受けているか、今のままでは誰も予測がつかない。「一部地域」を対象とした「一時的対策」は、もはや実施する前から破綻することが目に見えている。この程度の対応で菅首相が「国民の命と暮らしを守る」と繰り返しているようでは、「お先真っ暗!」といわれても仕方ないのである。

 

 首相がこの程度なら担当大臣もその程度(あるいはそれ以下)でしかない。西村経済再生担当相は、北海道を中心に感染者が急増していた11月13日、政府の旅行支援策「GoToトラベル」の活用を国民に促すかを問われると、西村担当相は「それを使って旅行されるかは国民の皆さんの判断だ」とまるで他人ごとのように回答した。また初めて新規感染者が2千人を超えた11月18日には、「GoToトラベル」をめぐり、「それぞれの都道府県に聞いているが、制限をするという意向は聞いていない」と答え、自らがどう判断しているかについては態度を示さなかった。極め付きは11月19日夜の記者会見だろう。今後の感染者数の広がりについて「神のみぞ知る」「予測困難」と答えたのである(朝日11月19日電子版)。そして11月22日のNHK日曜討論では、「GoToトラベルを中止するかどうかは知事の判断だ」と、再度政府の責任を回避した。

 

 かくまで政府が責任を回避しようとするのはなぜか。西日本新聞(東京支社取材班)はこの点を次のように明確に分析している(11月14日電子版)。

「政府が『GoToキャンペーン』の見直しや緊急事態宣言に消極的な背景には、営業や移動の自粛要請で感染を抑え込むやり方ではなく、経済回復を重視する菅義偉首相の姿勢がある。ただ新型コロナウイルスの感染者数は11月13日、2日連続で過去最多を更新した。拡大の一途をたどれば『手をこまねいた』と批判が一気に高まり、政権が揺らぐ恐れも出てくる」

 「GoToキャンペーンは、首相が第2次安倍政権の官房長官として旗を振って推進してきた経済対策の柱だ。『移動による感染リスクは少ない』などと就任後もたびたび効果を強調。実際、共同通信社の10月の世論調査では、コロナを巡る政府対応を『評価する』とした割合が3月以降で初めて5割を超えた。GoTo人気が押し上げたとみられている。政府がGoToにこだわる背景にあるのが、4~5月に実施した緊急事態宣言の副作用の大きさだ。2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は戦後最悪のマイナス成長に陥った。観光や飲食業は深刻な影響を受けた中小事業者が多く、支援への期待は膨らんだ。『日本学術会議の会員任命拒否問題を批判されても支持率が大きく落ちないのは〈GoTo〉のおかげだと首相は思っている』と官邸関係者は指摘する」

 

 事態は刻々と急変している。だが、政府の対策会議の後、菅首相は記者団に「政府としてできることは速やかに実行する。会食の際も含めてマスク着用を心からお願いしたい」と呼びかけたという。これは「アベノマスク」に勝るとも劣らない迷言だろう。菅政権の「会食マスク」は、安倍政権の「アベノマスク」とともに国民の間で長く語り継がれるに違いない。(つづく)