自民支持層は水と油の「安倍自民=吉村・松井支持層」と「大阪自民=柳本・栗原支持層」に分裂している、自民「大物」の投入は柳本・栗原支持層の拡大につながらない、ダブル選の帰趨は「大阪自民+共産・民主・公明=オール大阪」の連携に掛かっている、大阪ダブル選挙の行方を考える(その10)

 11月22日に迫った大阪ダブル選投開票日を前に、マスメディア各紙が16日朝刊で14日から15日にかけて行った大阪府民を対象とする世論調査結果を一斉に発表した。それによると、知事選、市長選ともに大阪維新候補が自民党推薦候補をリードしており、しかもその差が開きつつあるとの驚くべき結果が出た。具体的な数字は報道されていないが、各社の調査結果はほぼ一様に「知事選では松井氏が優勢、栗原氏が追う展開」、「市長選では吉村氏がやや先行、柳本氏が激しく追う」となっている。

私自身はこれら記事の微妙な表現の違いがわからないので関係者に問い合わせたところ、「松井氏が優勢」というのは10ポイント以上のリードを示し、「吉村氏がやや先行」というのは数ポイントぐらいのリードだろうと教えてくれた。いずれも無視できないほどの維新側のリードであり、このままいくとダブル選は「維新2勝0敗」という衝撃的な結果になりかねない。半年前に行われた大阪都構想住民投票の結果も、維新の党の分裂騒ぎもまるで何事もなかったかのようだ。

政党支持率については、産経が「大阪府全体で見た政党支持率では、11月2日に設立したばかりで、今回調査で初めて対象となった新党『おおさか維新の会』がトップとなった。政党交付金などをめぐる維新の党との分裂騒動の影響が注目されたが、自民党などを上回る支持を集めた」と伝えている。ちなみに各党支持率は、おおさか維新の会28%、自民24%、民主5%、公明・共産4%、維新の党2%などである。

また読売新聞によれば、「国政の支持政党別では、おおさか維新支持層の9割が市長選で吉村氏、知事選で松井氏と回答。自民支持層では、市長選で6割が柳本氏と答えたものの、知事選で栗原氏と答えたのは5割弱で、4割近くが松井氏と回答した」とある。つまり政党支持率第1位の「おおさか維新」支持層の大半がセットで吉村・松井氏に決めているのに対して、第2位の自民支持層は5割前後しか柳本・栗原氏に決めていない。これでは差が開くのは当然だろう。

問題はなぜおおさか維新支持率が自民支持率を上回り、しかもおおさか維新支持層の結束が固いのに対して、自民支持層の支持が割れているかということだ。私は、安倍首相・菅官房長官をはじめとする首相官邸が実質的に吉村・松井氏を支援していることがおおさか維新支持層を元気づけ、自民支持層を分裂させていると考えている。つまり自民支持層は均質ではなく「安倍自民」と「大阪自民」に分裂しており、「安倍自民」が吉村・松井氏の側に回っているのである。理由は以下の3点である。

第1は、自民党本部が首相官邸の意向を忖度(そんたく)して候補者決定を意図的に遅らせたことが、自民支持層の「迷い」と「分裂」を招いていることだ。自民党大阪府連は一刻も早く候補者を決めたいと党本部に再三再四要請したが、党本部が一日延ばしに決定を引き延ばし、安倍首相(自民党総裁)が柳本・栗原氏に推薦状を手渡したのは選挙戦が始まる僅か2週間前の10月20日のことだった。候補者の決定が遅れれば遅れるほど支持層の力も入らないし、選挙体制の準備もままならない。大阪ダブル選のような重要な首長選で告示2週間前にしか候補者が決まらないなど通常の政治感覚では理解できないが、そこには表面には表れない複雑怪奇な内部事情(党内政治闘争)があった。

第2はこのことと関連するが、自民党本部が候補者決定を引き延ばしている間、実はダブル選の候補者選びに関わって党本部と橋下氏らとの間で「密室の政治取引=裏取引」が模索されていたことだ。朝日新聞はそのことを「自民党の谷垣禎一幹事長は(10月)27日、11月の大阪府知事、大阪市長のダブル選の対策を協議する党内の会合で、党執行部内で一時、橋下徹・大阪市長側との協力を探ったことを明らかにした。『市長選は我々の候補者、知事選は向こう、という分担を模索された向きもなきにしもあらずだった』と語った」(10月28日)と報じている。毎日新聞も自民党大阪府連幹部の言葉として、「党本部は『ダブル選は市長選だけでいいのではないか』と言っていた。『松井知事はつぶすな』という官邸の意向だろう」(10月29日)と伝えている。官邸の意向に沿って橋下氏らと自民党本部が(知事選で)手打ちする可能性すらあったのであり、そんな裏取引話が柳本・栗原支持層に「嫌気」を与え、革新支持層を離反させたことは否定できない。

第3は、このような経過をたどって漸く自民推薦候補が決まったものの、都構想住民投票を「オール大阪」で戦った竹本大阪府連会長がダブル選直前になって官邸に近い超タカ派の中山泰秀氏に取って代わられ、中山氏が自民単独でダブル選を戦う方針を打ち出したことだ。その言い草は、「5月の『大阪都構想』の住民投票のように、イデオロギーが相反する政党と一緒に街宣活動をしてはコアなフアンを失う」というものだったが、中山氏の情勢判断は決定的な誤りだった。中山氏は自民支持層が「安倍自民」と「大阪自民」に分裂していることが理解できず、自民支持層さえ固めれば「勝てる」と思っていたのである(もし「勝てる」と思っていなかったのであれば、中山氏は官邸から送り込まれた「トロイの木馬」ということになる)。

「おおさか維新」支持層の側には「コアなフアン」がいても、自民支持層の側にはそんな「固い支持層」はいない。大阪都構想住民投票のときでも自民支持層の約半分が「賛成」投票をしていたことでもわかるように、国政レベルでの自民支持層の約半分は「安倍自民」であり、官邸が支援する吉村・松井氏に対して必ずしも違和感を持っていない。むしろ政治感覚はおおさか維新に近いのであり、自民支持層の中から少なくない部分が吉村・松井氏に流れるのはこのためだ。

11月22日の投開票日まであと僅かしか残されていない。栗原・柳本両陣営が本当にダブル選に勝利したいと思うのであれば、自民支持層に依拠するだけでは不十分だ。自民支持率はおおさか維新支持率よりも低く、しかもその中で「安倍自民」と「大阪自民」に分裂しているのである。「大阪自民」は都構想住民投票に結集した「オール大阪」体制に戻って共産・民主・公明支持層との連携を深め、都構想反対派の結集を図るほかはない。自民単独方針にこだわるか「オール大阪」体制に戻るか、いま栗原・柳本陣営は勝敗の岐路に立っている。