膠着状態に入った「橋下新党」のジレンマ、「橋下新党と政界再編の行方(3)」、(大阪ダブル選挙の分析、その18)

 このところ、政界再編の動きが鈍っている。というよりは、“膠着状態”に入ったという方が正しいのかもしれない。野田首相と谷垣自民党総裁との秘密会談に続いて、岡田氏が自民党幹部に接触して大連立を持ちかけたというが、民主・自民の双方からその動きを打ち消そうとする声が上がっている。与野党とも内部に強力な反対勢力を抱えているためだろう。この膠着状態はいったい「橋下新党」の今後に対してどんな影響を与えるのか、それが今回のテーマである。

 この問題を別に主題としたわけではないが、先週、私も参加して大阪で府市関係者との突っ込んだ意見交換の機会を持つことができた。懇談の内容は主として大阪市政改革に関するもので、関市長のもとでの市政改革の成果、平松市長が目指した市政改革の方向、主要政策における改革の現状と到達点など、数時間にわたって具体的な資料に基づき討論が行われた。

私はもともと大阪市政批判の急先鋒だから、当局側の立場からの説明には疑問や違和感を持つ点が多く、とりわけ同和問題(部落解放同盟問題)に対する総括には「大甘だ」と思うところが多かった。それでも「区制改革」「行財政改革」「経済成長戦略」の3項目にわたる包括的な説明の中で、とくに大阪府と比較しながらの財政改革に関する内容については知らないことも多く、大阪市政全般の問題点を理解するうえで大いに参考になった。

その一例としては、橋下氏は知事時代に「大阪府の財政立て直しに多大な成果を挙げた」と喧伝されているが、大阪市政との対比においてはむしろ各種の財政指標を悪化させている。つまり自治体の借金(地方債残高)、税収に占める借金の返済負担の割合(実質公債費率)、国の基準により将来の借金返済に備えて毎年積み立てる基金(減債基金残高)の全ての指標において、この間、大阪府は財政状況を悪化させ、大阪市は財政状況を好転させたとの説明だった。

●地方債残高(2005年度末と2010年度末の比較)
大阪府:5兆7300億円 → 6兆900億円(3600億円増)
大阪市:5兆5000億円 → 5兆1000億円(4000億円減)

 ●実質公債費比率(2007年度末と2009年度末の比較)
  大阪府:16.6% → 17.2%(0.6%増)
  大阪市:11.8% → 10.4%(1.4%減)

 ●減債基金残高(2010年度末見込みと2011年度末見込みの比較)
  大阪府:5189億円不足 → 5707億円不足(518億円不足増)
  大阪市:3112億円 → 3432億円(320億円増)

 こんな数字を挙げだすと切りがないので止めておくが、8頁にわたる詳細な資料に基づく説明の後、議論は今後の「橋下新党」の動向に移った。結論から言うと、橋下氏自身は国政に出て行かないと「言明」しているが、知事選出馬をめぐっての「2万パーセントない!」とのウソにもあるように、「彼は必ず国政に出る」というのが参加者の一致した観測だった。ウソか本当かは知らないが、国のトップか国際舞台での活躍が彼の次の目標なのだという。

 しかしその一方、「橋下新党」は国政に打って出た瞬間から“失速する”というのも、また参加者の一致した意見だった。その内部要因としては、杜撰きわまる「維新八策」の内容にもみられるように、政策面で既成政党との差別化ができず、民主・自民と異なるフレッシュな政治路線を打ち出せないからだ。もし差別化を図るとしたら、石原新党のように極右路線をとる以外に道がないが、ブレーンの上山氏(国際派・新自由主義者)や堺屋氏(開発主義者)の意向からして、目下そのような兆候は見られないとのことだった。

 となると、“大阪市解体”で大ナタを振るっている現在の勢いが衰えないうちに「劇場選挙」を仕掛けるしかない。「教育・職員基本条例」の強行採決、区長公募、「維新政治塾」の開設、テレビに露出しているタレントの「顧問就任」の乱発など、「橋下新党」が劇場選挙の大道具・小道具集めに必死なのはそのためだ。しかし、国会解散のイニシャティブが橋下氏にあるわけではなく、「橋下新党」は“オポチュニスト政党”であることが本質である以上、実はこの外部要因が「橋下新党」の最大の弱点になるということでも、参加者の意見は一致した。

現在の政界再編の膠着状態は、たしかに民主・自民内部の反対勢力の抵抗もあることはあるが、その実、大連立を標榜している両党の主流派が意識的につくり出しているとの見方が有力だ。理由は「橋下新党」に漁夫の利を与えないこと、つまり「橋下新党」が失速する頃を見計らって総選挙を仕掛けるのが算段で、そのためにはもう少し「時間稼ぎ」が必要だからだ。

私は以前から主張しているように、橋下氏の危険な言動には注意しなければならないが、「ハシズム現象」や「橋下新党」は決して長続きはしないと考えている。「橋下新党」は所詮“線香花火”のような存在であって、橋下氏は危険なマッチ遊びに熱中する幼稚な“コドモ大人”にすぎない。だから、彼の周りから着火しそうな燃草を取り除けば、「ハシズム」や「橋下新党」は消える他はないのである。

 最近、「橋下新党」の行方を象徴するような世論調査があった。3月19、20両日に行われた共同通信の全国電話世論調査だ。次の衆院選後に望ましい政権との問いに対して、「政界再編による新たな枠組み」との回答が38・3%で最多、次いで「民主、自民両党の大連立」、「自民党中心」、「民主党中心」の順だった。しかし、そこには「橋下新党」に関する回答は出てこない。世論調査の項目設計の段階で、「橋下新党」の選択肢はネグレクトされたのである。

 また衆院解散・総選挙の時期に関しては、「任期満了に近い来年夏の衆参ダブル選挙」を求める回答がトップで、これに「今年前半までのできるだけ早い時期」、「今年後半以降」が続いた。来年夏まで「橋下新党」の勢いは持続するだろうか。政界再編は、当分の間「嵐の前の静けさ」に入ったようだ。