見えない仕事がイノベーションを起こす「シャドーワーク」
「シャドーワーク」について、豊富な実践例+網羅的な考察をした一冊。ヒット商品やイノベーションの陰には「シャドーワーク」が必ず存在する。ルーティーンワークからの変革なんてありえないし、創造的な価値は管理者の目の届かないところから生まれる。これはわたしのような兵隊ではなく、人事部の将校クラスが肝に命じておくべき。
「シャドーワーク」とは、通常業務から外れた、個人の自主的な意志と裁量で創造的に編み出した仕事のこと。仕事そのものへ結びつかないまでにしても、その準備活動も含まれる。いわゆる「やってみなはれ」「渦は自分で起こせ」というやつ。
たとえば、日産の例。新型マーチのコンセプトづくりにあたり、設計開発ラインの「外」で「こっそり」人を集め、意見を出し合う。あるいは、リコーの場合。GR DIGITALの専用Blogを提供するにあたり、「業務外で」「手弁当で」組織横断的に立ち上げる。仕事として「決まっていない」ところがポイント。
- 「バンダイというステージを利用して、会社を私物化せよ」とするバンダイ流プロフェッショナル人物像と、上司を感動させる論文を募集する取り組み
- シマノの人材開発プログラムSLD(Shimano Leadership Development)と全米キャラバン
- 3Mのブートレッギング(bootlegging):密造酒造りのことで、上司に内緒で勝手に社内ボランティアを募ったりして製品開発を行ってもよい
- Googleの「20%ルール」と3Mの「15%ルール」――両者の違いは数字ではない。3Mは「15%は業務以外のことをしてもよい」だが、Googleは「20%は業務以外のことをする」
- KOSEの新製品「モイスチュアスキンリペア」の社内テストの確執と成功
- スターバックス(米国)のハッピーホリデープロモーション
個人レベルで言うならば、新しいLifehackを試して良さげならアナウンスする。こっそりwikiを立ち上げて暗黙知を共有化したり、バーチャルな勉強会を開く。社内決裁プロセスをHackしてショートカットする(←これは冗談)…が挙げられるだろう。
シャドーワークを行うほうとしては、仕事と好きなことをつなぐ方便ともいえる。フォーマルな業務、予定調和のパラダイムから「外れた」ところに、価値創造の源泉があるという主張は説得力がある。
もともと「シャドーワーク」はイヴァン・イリイチの造語で、「無報酬とされているが、経済基盤を維持するために不可欠の仕事」として定義されている。主婦の家事・育児などが該当する(シャドウ・ワーク、影法師の仕事)。会社で行うシャドーワークは、「好きだからヤる」「仕事の報酬は仕事」に近いため、意味合いが違うような気がするが、見えない価値創造の仕事に名前がついた意義は大きい。
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