「ローマ人の物語」を10倍楽しく読む方法:ローマ人へ質問
「ローマ人の物語」は長い。完結すれば全15巻におよぶので、読む方も気長に付き合うしかない。だいたい1992年から始まっているので、読む方も書くほうも大変だ。
だから、それだけ長いと濃淡が出てくる。どれも読み始めたら巻措くあたわず、というワケにはいかない。面白いトコと、そうでないトコが出てくる。例えば「ハンニバル戦記」は独立でオススメ、めがっさ夢中になることを保証する。いっぽう他の巻では「つなぎか? つなぎなんだろっ」と叫びたくなるような箇所もある。
そんな中、美味しいところを抜き出したのがコレ。しかも「ローマ人になりきっている塩婆が、ローマ人を代弁して回答しますよ」という分かりやすい企画で、ローマおたくの本領がいかんなく発揮されている。
「悪名高き」代名詞が冠せられるローマの弁護人にでもなったつもりか、読まされるほうは辟易するかもしれない。それでも、「パンとサーカス」「パクス・ロマーナ」といった片言隻句に囚われていたローマ観がガラリと変わったことは事実。リドリー・スコット監督の「グラディエーター」をもう一度観たくなった。あとキューブリック監督「スパルタカス」を観たくなった。
わたしに響いた問いと答えは次のとおり。「ローマ人の物語」の随所で具体例を見ることができる。
- 【なぜローマが栄華を誇ったか?】
⇒ユリウス・カエサルの弁――ローマ人は、他民族から学ぶことを拒絶する傲慢は持ち合わせていない。良しと思えば、たとえそれが敵のものであろうと、拒否するよりは模倣するほうを選んできた
- 【パクス・ロマーナとは何か?】
⇒ドイツの歴史家モムゼンの弁――ローマ人が他民族を支配したのではなく、他民族をローマ人にしてしまったのだ
- 【なぜローマが滅亡したのか?】
⇒「ローマ帝国衰亡史」であまりにも有名なギボンの弁――ローマの衰退は、並はずれて偉大な文明のたどり着く先として、ごく自然で不可避な結果であった。(中略)…ゆえに、人口によるこの大建造物をささえていた各部分が、時代か状況かによってゆらぎはじめるや、見事な大建築は、自らの重量によって崩壊したのである。ローマの滅亡は、それゆえに、単純な要因によってであり、不可避であったのだ。だから、なぜ滅亡したかと問うよりも、なぜあれほども長期にわたって存続できたのかについて問うべきなのである
歴史のタブー「もしも…」を使うために、自らを「シロウト」と呼ぶのはいいとして、歴史家を十羽ひとからげにしてダメ出しをするのは、筆勢ありすぎ。ギボンさえ傲慢の罪に問おうとする塩婆の"オトナ気のなさ"も、楽しみの一つ。
真贋はおいといて、面白けりゃ万事OKなので、歴史小説と歴史書の間にある本書は読んでて気持ちがいい。「ローマ人の物語」のウォーミングアップとしても良い本だと思う。
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