暗黒物質、1分に1個が人体に衝突? April 25, 2012
数種類の暗黒物質(ダークマター)の検出実験から、平均的な人間の体にはおよそ1分に1個、暗黒物質の 粒子が衝突しているという計算結果が発表された。
暗黒物質とは、宇宙に存在すると考えられている目に見えない物質。銀河や銀河団への重力の影響が観測 されることから、その存在が推定されている。科学者の推定によると、この謎めいた物質が宇宙全体の物質の80%近くを占めるという。
現在まで、暗黒物質を構成する粒子は特定されていない。最も有力とされる候補は、WIMP(ウィンプ)
と呼ばれる仮説的な粒子のグループだ。WIMPとは、“物質との電磁気的な相互作用がほとんど無い重い粒子(weakly interacting massive particles)”の頭文字。
名前が示すとおり、この仮説的な粒子は、バリオンと呼ばれる通常の物質に対して、ごく弱い影響しか
及ぼさない。人間の体も含め、宇宙のほとんどの物質を素通りしてしまうのが普通だ。
ところが一定の質量を持つWIMPは、ときおり原子核と衝突することがある。そして、その衝突はこれまで考えられていたよりも頻繁に起こっている可能性が出てきた。
ミシガン大学のミシガン理論物理学センター(MCTP)教授、キャサリン・フリーズ(Katherine Freese)
氏は、「この研究を始める前は、WIMPが人間の体内の原子核にぶつかる率は、一生に1度くらいだと思っていた。ところが1分に1回の可能性の方が高いことがわかった」と話す。
◆WIMPと通常物質の衝突
WIMP理論によれば、WIMPはほかの物質と同じように、宇宙の誕生時に生まれた。通常の物質とはあまり相互作用しないが、WIMP同士が衝突すると、両方とも消滅してすべての質量がエネルギーに変わる。
今回の研究論文の著者の1人で、スウェーデンにあるストックホルム大学オスカル・クライン・センター
の研究員、クリストファー・サビッジ(Christopher Savage)氏は、「宇宙が(膨張して)冷えるにつれ、
(WIMPは)非常に広範囲に広がって、もはや消滅しなくなり、ただそこにあるだけになった」と話す。
理論モデルによると、現在、地球とその住民たちを毎秒何十億というWIMPが通り抜けているという。
ゲルマニウム結晶など特定の物質にWIMPが衝突すると見込まれる確率と、その衝突から発生するはずのエネルギーの量に基づいてWIMPを検出しようとする実験が、いくつか考案されている。
今回の研究でも、フリーズ氏とサビッジ氏はこのような計算方法を用い、何種類かのWIMPの質量と数を
調べ、その粒子が、人体に多く含まれる原子の核とどのくらいの頻度で相互作用するかを試算した。
「計算方法はわかっていたけれども、人間の体といった具体物について実際に計算したことはなかった」と
サビッジ氏は言う。
計算の結果、酸素と水素は比較的WIMPと衝突しやすいことがわかった。人体は大量の水(H2O)を含んでいるため、WIMPと相互作用をする可能性が高い。
今回の研究によると、60GeV(600億電子ボルト、GeV=ギガ電子ボルト。1GeVは陽子1個の質量に閉じ込められているエネルギーにほぼ等しい)の質量を持つWIMPは、体重70キロの人の体に含まれる原子核に、年に約10個ぶつかるという。
質量が10〜20GeVのWIMPだと、平均的な人体の原子核に、年に10万個単位で衝突すると推定される。
(>>2以降に続く)
▽ナショナルジオグラフィック ニュース
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120425001&expand#title
▽英語原文 Dark Matter Hits the Average Human Once a Minute?
http://news.nationalgeographic.com/news/2012/04/120424-dark-matter-collisions-humans-wimps-physics-space-science/
>>2辺りに続く巨大太陽嵐:10年以内に起こる確率は「12%」
今後10年間で巨大太陽嵐が起こる確率は12%だとする論文が発表された。GPS衛星システムや通信ネットワークのほか、送電網を始めとするインフラ等へ幅広く影響する可能性があるという報告書も提出されている。
今後10年間で太陽からメガフレアが放出される確率はおよそ12%だとする論文が発表された。こうした巨大太陽嵐によって、人間社会には数兆ドルに上る被害が生じ、復興には最大で10年かかる可能性があるという。
記録に残っている限り最も巨大な太陽嵐は、「キャリントン事象」と呼ばれる。これが起こったのは150年以上前の1859年だ。
この事象に匹敵する太陽風が今後10年間に発生する確率が10%以上あるということに、宇宙物理学者のピート・ライリーは驚いた。ライリー氏はカリフォルニア州サンディエゴにあるPredictive Science社の上級科学者で、2月23日付の『Space Weather』にこの予測を発表した。
太陽の活動は、11年周期で活発と不活発を繰り返している。太陽活動極大期には、多くの黒点が見られ巨大な磁気嵐が表面から吹き上がる。時折、こうしたフレアが太陽から外に向かって爆発し、大量の荷電粒子を宇宙に噴出する。
小規模な太陽フレアは頻繁に起こるものの、巨大な太陽フレアはめったに起こらず、べき乗則として知られる数学的分布を見せる。ライリー氏は過去のデータベースを調べ、太陽フレアの規模と頻度の関係を計算することによって、巨大太陽フレアの発生確率を推定した。
[例えば南極の氷床コアを調査することにより、荷電した粒子が大気中の窒素と反応してできる、窒素化合物の濃度が上昇している部分を見つけることができ、これをそれぞれの年代の大気の状態の記録として利用することができる(日本語版記事)]
キャリントン事象が発生した1859年9月1日の朝、[それまで5年間にわたって太陽黒点の観察を続けていイギリスの]天文学者リチャード・キャリントンは、太陽表面に異常を観測した。巨大な太陽フレアが発生し、時速およそ640万kmで移動する粒子の流れが地球に向かって放出されたのだ。通常は極地地方でしか見られないオーロラが、ニューヨークのほか、キューバやハワイ、チリ北部でも観測された。
大量の荷電粒子は、オーロラを生じさせるだけでなく、電気的システムに対して破壊的な影響がある。キャリントン事象の場合は、電信局では火災が起こり、通信網は大規模な障害に見舞われ、磁気観測所は文字通りメーターの針が振り切れるほどの乱れを記録した[キャリントン事象についてより詳しく紹介した日本語版記事はこちら]。
電気への依存度が非常に高くなった現代社会では、キャリントン事象と同規模の太陽嵐が生じた場合、破局的な結果につながる可能性がある。GPS衛星システムに障害を与え、無線通信が完全に途絶える可能性すらある。
さらに、たとえば1989年の磁気嵐のときには、カナダの水力発電会社Hydro-Quebec社の送電網が90秒以内に破壊され、9時間以上にわたって数百万世帯に電力を供給できなくなった(日本語版記事)。こうした停電は、石油やガスのパイプラインにも影響するかもしれない。[さらに、原子力発電所の核燃料は(炉の停止後も長い期間にわたって)崩壊熱を発し続けるので、長時間冷却が滞ると過熱を起こし事故につながる]
米国学術研究会議(NRC)が2008年に出した報告書(日本語版記事)によると、キャリントン・クラスの太陽嵐が生じた場合に米国が被る被害総額は、最初の年だけで1〜2兆ドルに上り、完全復興までには推定で4〜10年かかる可能性があるという。
TEXT BY Adam Mann TRANSLATION BY ガリレオ -天野美保/合原弘子
WIRED NEWS 2012年3月2日
http://wired.jp/2012/03/02/massive-solar-flare/
国立天文台などの研究チームは24日、すばる望遠鏡(米ハワイ島)を使った観測で、これまでで 最も遠い127.2億光年先に、銀河が集まる銀河団を見つけたと発表した。約137億年前の 宇宙誕生から10億年に満たない時期の「原始銀河団」の発見は、宇宙の構造が形成される過程を解明する手掛かりになるという。論文は近く、米天文学誌アストロフィジカル・ジャーナルに掲載される。
宇宙には、銀河団のように銀河が集中する場所が点在し、相互につながった網目状の「大規模構造」があるとされる。宇宙誕生直後の物質分布のわずかなむらがこうした構造をもたらしたとされるが、形成過程の解明には、遠方の銀河団の観測が必要になる。
総合研究大学院大博士課程1年の利川潤さんと国立天文台の柏川伸成准教授らは、すばる望遠鏡の広視野と高い集光能力を生かし、かみのけ座の方角に約30個の銀河が集まっている領域があるのを発見。
このうち15個の距離を詳しく測ったところ、8個が127.2億光年先に集中していた。原始銀河団としては、これまで2005年に同望遠鏡が発見した126.5億光年が最も遠いとされていたが、今回の観測はそれを7000万光年上回った。
すばる望遠鏡では、今年末以降、さらに7倍視野の広い新カメラが稼働する予定。利川さんは「原始銀河団をより多く発見し、一般的な性質を知ることで、銀河の進化や宇宙の構造形成の様子が分かる」と話している。研究チームには、京都大の研究者も参加している。
(2012/04/24-18:03)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2012042400746