自分ならぬ他人を描く
「もし自分が“今の自分”ではなく、違う環境に生まれていたら…」そんなことを考えたこと、ありませんか?
今の家族とは違う家族、今の街とは違う街、今の顔とは違う顔…そんな人生を想像してみたこと、ありませんか?
そして、ある時ふっと街ですれ違った人や、電車で隣りに立った人を見て「もしかしたら、自分が“この人”として生まれていた可能性もあるんだろうか?」なんて、思ったこと、ありませんか?
自分はしょっちゅうあります。
ふと時間を持て余した時、目に映る場所にいる見知らぬ人間に、そんな自分の「あったかも知れない可能性」を重ねて想像してみるのが好きです。
育ってきた環境が違っていたなら、今とは違う性格になっていたかも知れない。
同じ物を見たとしても、今とは違うことを感じていたかも知れない。
そんな“別の可能性”を想像して、自分の中に“今の自分とは違う自分”を――疑似的な人格を創り出して、様々な状況を脳内でシミュレーションしてみるのが好きです。
そんな疑似人格によるシミュレーションが最大限に活かされているのが、今回習作として創ったオムニバスSSシリーズ「まるで純度の高い恋の結晶のような…」(略して「純恋結晶」)です。
このSSシリーズのベースは一人称です。
(二人称も混在していますが…。)
つまりは“自分ではない誰か”に「なりきって」物語を語っているということです。
シリーズを構成する1つ1つのSSは、全て架空の物語ですが、これまでに自分が脳内に積み上げ溜め込んできた疑似人格、疑似人生を、小説という形で吐き出したものでもあります。
所詮は“疑似”ですので、本当にそういう人生を味わってきたわけではありませんし、本当の人格でもありません。
ですが、この世界で様々な人間を観察し、その生きざまを見聞きして、知らず知らずのうちに育ててきた“何か”が、この小説には籠められている気がします。