風吹き抜ける島にて(後編)
プラムのジャムが出来上がったところから後編です。
気がついたら窓の外は薄青く染まっていました。
対岸の博多の街が煌めいています。
その輝きの下の喧噪を思うと、
島のこの部屋の静けさが奇跡のように感じられてくる。
今夜は太郎さん、東京に出張中で留守なのです。
つまり女3人(しかも熟女・・・というか初老)だけの
楽しき夜の始まり始まりってわけなのです。
わくわくします。
私と弘さんの島を訪れた本当のお目当ては晴子さんのお料理なので、
今晩何を作ってくれるのか、
母の料理を待つ子供のようにそわそわと
お手伝いを口実に
うるさくまとわりついてしまいます。
晴子さん、葉っぱ類はこんな感じ?
晴子さん、モロヘイヤ叩いてますよ。
食卓に少しずつお料理が並び始めました。
いんげんと油揚げのクタクタ煮、ラタトゥイユ、
野菜と小鰺のマリネ、牛すね肉のワイン煮・・・etc.
唯一のヨシモト作モロヘイヤの梅たたきも参加させて貰いました。
太郎さんから美味しいワインのプレゼントもあり。
やったね!
仕上げにこれでもか、って感じで出て来たのが
畑の収穫物の天ぷら。
採りたて野菜の優しい甘味が
ふかふかのお布団に横たわったときのような幸福感を与えてくれ、
いやあーマイッタ、マイッタ、なのです。
小鰺は太郎さんが近くの浜で釣ったものだから、
牛すね肉とワイン以外
今夜の食卓を飾るのはほとんど”自分たちで得た惠み”。
誰にでもできることではないけれど、
この有機的な循環の中に生きるのは
心の平和にとても効きますね。
晴子さんは言います。
できることはできるかぎり自分たちで、とは思いながらも、
島に来てこの秋で4年、
毎日の暮らしがどれほどの人の力で支えられているか、
日々実感する暮らし、だと。
晴子さん!ごちそうさまああああー。
晴子さんはもとはと言えば美大で彫刻を学んだのですが、
太郎さんとの結婚を機に、
食通の義父・檀一雄氏の薫陶を受けて料理の道に入りました。
だから晴子さんの作る料理は
ちまちましていない、豪快なのです。
熊本に帰ってきてから2年半経ちました。
その間知り合い仲良くなった人はと言えば、
お食事処「なが田」の女将より子さんとそのご主人、
そして「なが田」の常連さん以外は、
み〜んなみ〜んな年下なのです。
若いンです。
いつも一番の長老という立場になるので
あんまりバカはやれずに寂しかったのですが、
この夜は熟女(というか初老)の女3人なので、
ここぞとばかり夜中までどっぷりと
年季の入ったおしゃべりにうつつを抜かして過ごしました。
翌日の朝食は晴子さん手作りの天然酵母のパン4種類!
そこらへんのパン屋より数段美味しいハード系です。
こういうものを食べて育った息子さん、そしてもちろん太郎さんも、
幸せ者ですよねえ。
献立はこのパンに、
モッツアレラチーズとトマトとバジルのサラダ、
キュウリのピクルス、
さまざまな果物のジュレとジャム、
そしておいしいコーヒーです。
豊かだなあ。
ここが九州の、何てことない小さな島であることを、
完全に忘れた朝でした。
丘の上のお花畑まで散歩するつもりで出かけたものの、
急な土砂降りに急いで引き返しました。
檀さんちは
たとえ雨が降っていても
庇やテントがあるから窓は開けっ放しのままで平気なのです。
滝のように降り落ちる雨の音を聞きながら濡れることなく、
風に乗って吹き込んでくる雨の匂いに包まれながら濡れることなく、
心地良い部屋の中で
バッハなど聴いていられることの贅沢を・・・どうする。
自分には不相応のこんな贅沢、
今働いている、今過酷な状況にいる、
全ての人に申しわけない気持ちになっている自分が哀しい・・・
など、
スコールのような雨を見ながら夢想していると早くもお昼の時間で、
弘さんと2人多少のお手伝いはしたというものの
晴子さんの凄腕は
6月に収穫し冷凍してあった空豆のポタージュと
ふっくら大きい浅蜊と野菜のパスタを
アッという間にテーブルに並べてしまいました。
まっこと、魔法使いの晴子さんです!
何とまあ、素敵な二日間であったことかと、
雨の上がるのを待ちつつ帰り支度をのたのたと。
ここでは時間がゆっくり流れ、
気の短い自分もやたらのたのたしてしまう。
風雨が激しいとフェリーの運航中止もあるというのに、
気にもならずにへらへら笑って。
島ではあたふたしても何も始まらないことが
少し判ってきたわけで。
今日は散歩に出られない、
りゅうちゃんも遊びに来ないということで、
ネロもだらだらと横になっている。
雨いつ止むの? と訊いても、
うっすら瞼を動かすだけ。
気がついたら窓の外は薄青く染まっていました。
対岸の博多の街が煌めいています。
その輝きの下の喧噪を思うと、
島のこの部屋の静けさが奇跡のように感じられてくる。
今夜は太郎さん、東京に出張中で留守なのです。
つまり女3人(しかも熟女・・・というか初老)だけの
楽しき夜の始まり始まりってわけなのです。
わくわくします。
私と弘さんの島を訪れた本当のお目当ては晴子さんのお料理なので、
今晩何を作ってくれるのか、
母の料理を待つ子供のようにそわそわと
お手伝いを口実に
うるさくまとわりついてしまいます。
晴子さん、葉っぱ類はこんな感じ?
晴子さん、モロヘイヤ叩いてますよ。
食卓に少しずつお料理が並び始めました。
いんげんと油揚げのクタクタ煮、ラタトゥイユ、
野菜と小鰺のマリネ、牛すね肉のワイン煮・・・etc.
唯一のヨシモト作モロヘイヤの梅たたきも参加させて貰いました。
太郎さんから美味しいワインのプレゼントもあり。
やったね!
仕上げにこれでもか、って感じで出て来たのが
畑の収穫物の天ぷら。
採りたて野菜の優しい甘味が
ふかふかのお布団に横たわったときのような幸福感を与えてくれ、
いやあーマイッタ、マイッタ、なのです。
小鰺は太郎さんが近くの浜で釣ったものだから、
牛すね肉とワイン以外
今夜の食卓を飾るのはほとんど”自分たちで得た惠み”。
誰にでもできることではないけれど、
この有機的な循環の中に生きるのは
心の平和にとても効きますね。
晴子さんは言います。
できることはできるかぎり自分たちで、とは思いながらも、
島に来てこの秋で4年、
毎日の暮らしがどれほどの人の力で支えられているか、
日々実感する暮らし、だと。
晴子さん!ごちそうさまああああー。
晴子さんはもとはと言えば美大で彫刻を学んだのですが、
太郎さんとの結婚を機に、
食通の義父・檀一雄氏の薫陶を受けて料理の道に入りました。
だから晴子さんの作る料理は
ちまちましていない、豪快なのです。
熊本に帰ってきてから2年半経ちました。
その間知り合い仲良くなった人はと言えば、
お食事処「なが田」の女将より子さんとそのご主人、
そして「なが田」の常連さん以外は、
み〜んなみ〜んな年下なのです。
若いンです。
いつも一番の長老という立場になるので
あんまりバカはやれずに寂しかったのですが、
この夜は熟女(というか初老)の女3人なので、
ここぞとばかり夜中までどっぷりと
年季の入ったおしゃべりにうつつを抜かして過ごしました。
翌日の朝食は晴子さん手作りの天然酵母のパン4種類!
そこらへんのパン屋より数段美味しいハード系です。
こういうものを食べて育った息子さん、そしてもちろん太郎さんも、
幸せ者ですよねえ。
献立はこのパンに、
モッツアレラチーズとトマトとバジルのサラダ、
キュウリのピクルス、
さまざまな果物のジュレとジャム、
そしておいしいコーヒーです。
豊かだなあ。
ここが九州の、何てことない小さな島であることを、
完全に忘れた朝でした。
丘の上のお花畑まで散歩するつもりで出かけたものの、
急な土砂降りに急いで引き返しました。
檀さんちは
たとえ雨が降っていても
庇やテントがあるから窓は開けっ放しのままで平気なのです。
滝のように降り落ちる雨の音を聞きながら濡れることなく、
風に乗って吹き込んでくる雨の匂いに包まれながら濡れることなく、
心地良い部屋の中で
バッハなど聴いていられることの贅沢を・・・どうする。
自分には不相応のこんな贅沢、
今働いている、今過酷な状況にいる、
全ての人に申しわけない気持ちになっている自分が哀しい・・・
など、
スコールのような雨を見ながら夢想していると早くもお昼の時間で、
弘さんと2人多少のお手伝いはしたというものの
晴子さんの凄腕は
6月に収穫し冷凍してあった空豆のポタージュと
ふっくら大きい浅蜊と野菜のパスタを
アッという間にテーブルに並べてしまいました。
まっこと、魔法使いの晴子さんです!
何とまあ、素敵な二日間であったことかと、
雨の上がるのを待ちつつ帰り支度をのたのたと。
ここでは時間がゆっくり流れ、
気の短い自分もやたらのたのたしてしまう。
風雨が激しいとフェリーの運航中止もあるというのに、
気にもならずにへらへら笑って。
島ではあたふたしても何も始まらないことが
少し判ってきたわけで。
今日は散歩に出られない、
りゅうちゃんも遊びに来ないということで、
ネロもだらだらと横になっている。
雨いつ止むの? と訊いても、
うっすら瞼を動かすだけ。
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