オレンジの白玉さん。
熊本市内には“上通”(かみとおり)、“下通”(しもとおり)、
というふたつの長いアーケード街があります。
九州でトップに君臨する鹿児島の“天文館通り”にも負けないくらいに
活気のある商店街です。
電車通りを境に、
北上する方を“上通”、南下する方を“下通”と呼びます。
地図で見ると上に向かうから“上通”、下に向かうから“下通”と呼ぶのだろうか、
とか、あるいは、
武家屋敷方面に向かうのを“上通”、しもじもの住居方面へ続くのを“下通”と呼んだのか、
などと、どうでもいいことですが
熊本に帰ってからはこんな具合に
市内地図を広げてはうつつを抜かす時間がけっこう増えました。
何しろお侍さんの町なので、
町名、筋名、通り名にもひとつやふたつ、
隠し味があるだろう、と、ついつい深読みしてしまうのです。
おっと、また、前置きが長くなりそうなので町名話はここでストップ。
さて、その“下通”の長い長いアーケードを
南へ10分(足の速い私は5,6分)も歩き進めば、
東西に走る“新市街”という短いアーケード街に出ます。
そこが“下通”の終点です。
私の子供の頃(包み隠さずに言えばそれは半世紀ほど前ってことになりますが)、
熊本市は九州で最も映画館の多い町だったそうです。
中でも新市街にはいくつもの映画館が軒を連ね、
別名映画館街と呼ばれていたと聞いています。
しかし時の流れと共にその栄華はパチンコ店やゲームセンターに移っていき、
現在は今年で開館101周年を迎えた歴史的映画館「Denkikan」が
一軒だけ頑張っているという寂しい状況になっています。
といってもパチンコ店やゲーセンが悪いのではなく、
非は映画館に行かなくなった我々にあるわけですが、
長くなりそうなのでこの話もここで止めて、
新市街のぼんやりしていたら見落としてしまうような
小さな路地の入り口へと進みましょう。
入り口には“玉屋通り”と書かれた看板があります。
その下をくぐって
太った人なら一人しか歩けない幅の細道を12歩ほど進むと、
軽くカーブした右側にガラス引き戸の小さなお店が登場します。
ちょっとレトロな雰囲気の居心地良さそうな店内の
そこが知る人ぞ知る「カフェ・オレンジ」です。
入り口付近には店主の田尻久子さんが選んだ様々な雑貨が並んで、
雑貨屋さんとしても客を呼んでいます。
このお店と久子さんのことは、
東京住まいの頃から知っていました。
原宿「Zakka」のオーナーである眸さんとご主人でカメラマンのkitaさんから、
「オレンジの田尻さんはみどころあるよ。
そこいらの“お店やりたい人間”とはちょっと違うよ。
熊本に帰ったらよろしく言ってね」と聞いていたのです。
久子さんは「オレンジ」を始める前だからおよそ10年ちょっと前、
「Zakka」に勉強に来ていたそうなのです。
で、去年の3月熊本に帰って、
5月に「オレンジ」に行ってみたら、
店内に大きくて白くてきれいな猫がいました。
猫好きなお客さんがベタベタしてもさらりと受け流し、
マイペースで店を仕切っている(ように見える)その姿は年季をつんだマダムが如きで、
「素敵なご婦人ですね−」と讃えたら
「いやオスです」とのことで、ははははは。
名前は“白玉”、白玉さん。
きっと玉屋通りの白猫だからだろうなあ。
あるいは白いタマタマの持ち主だからかも知れぬ。
いずれにせよ猫には目がない人間ゆえ、
週一くらいの頻度で通うようになりました。
たまたま2回ほど白玉さん不在の時に出向いたことがあり、
それがとても残念だったので、
念のため、
事前に電話確認することもあります。
もちろん久子さんにですが・・・。
「もしもし、ヨシモトです」
「あ、こんにちは」
「今日、しーちゃん(白玉さんのこと)お店に出てる?」
「あ、出てますよ。今、横にいます」
「じゃ、あとで行きます」
「えー、私に会いに来てくれるんじゃないんですか−?」
オレンジのレジ横で客の支払いをチェックする
ある日のしーちゃんです。
滑り台のように滑らかで広い背中が魅力的。
え? 呼んだ?
何かご用ですか? るるるるー。(用もないのに気安く呼びやがって)
えいッ、ガブになっちゃうぞい!
(ガブとは、化けの皮が剥がれたり怒り心頭に発したときなどに使われる
きれいな娘顔がいきなり口が裂け金色の目をむく文楽人形の頭)
いけん、いけん、元に戻っておすまし顔。
えっ、まだ飲むと?
ええい、こちとら、酔っぱらいに付き合ってられるほどヒマじゃなし。
うるさい下界から離れて上に行きたくなったなー。
上ったって天井の梁くらいのもんだけど、ほらね、猫はラクラク上がってしまえる。
やれやれ、久子さんが店じまいする時間までここで静かに夢を見ていよう。
最後に突然ですが手前広報させてください。
大正時代創刊され、幾度かの戦争も乗り越えて紆余曲折、
この1月20日の発売号で1002号を迎えた旅行雑誌「旅」ですが、
残念なことにこれで幕引き、最終号となりました。
1000号を越える歴史もですが、
地味でも“旅”という一つの個性にくくられた雑誌が消えていくのを
とても寂しく思います。
この雑誌には「動物園と水族館をめぐる旅」という
自分の中では最高に楽しかった連載仕事をさせてもらいました。
今月の最後の号でも再び
“吉本由美のわが町、熊本案内”という嬉しいページをいただいています。
昨年3月に熊本に帰ってきてから知り合った“人”と“場所”の案内です。
よろしかったら見てください。
そして興味を持たれたら、
ぜひ熊本に遊びに来て下さい!
というふたつの長いアーケード街があります。
九州でトップに君臨する鹿児島の“天文館通り”にも負けないくらいに
活気のある商店街です。
電車通りを境に、
北上する方を“上通”、南下する方を“下通”と呼びます。
地図で見ると上に向かうから“上通”、下に向かうから“下通”と呼ぶのだろうか、
とか、あるいは、
武家屋敷方面に向かうのを“上通”、しもじもの住居方面へ続くのを“下通”と呼んだのか、
などと、どうでもいいことですが
熊本に帰ってからはこんな具合に
市内地図を広げてはうつつを抜かす時間がけっこう増えました。
何しろお侍さんの町なので、
町名、筋名、通り名にもひとつやふたつ、
隠し味があるだろう、と、ついつい深読みしてしまうのです。
おっと、また、前置きが長くなりそうなので町名話はここでストップ。
さて、その“下通”の長い長いアーケードを
南へ10分(足の速い私は5,6分)も歩き進めば、
東西に走る“新市街”という短いアーケード街に出ます。
そこが“下通”の終点です。
私の子供の頃(包み隠さずに言えばそれは半世紀ほど前ってことになりますが)、
熊本市は九州で最も映画館の多い町だったそうです。
中でも新市街にはいくつもの映画館が軒を連ね、
別名映画館街と呼ばれていたと聞いています。
しかし時の流れと共にその栄華はパチンコ店やゲームセンターに移っていき、
現在は今年で開館101周年を迎えた歴史的映画館「Denkikan」が
一軒だけ頑張っているという寂しい状況になっています。
といってもパチンコ店やゲーセンが悪いのではなく、
非は映画館に行かなくなった我々にあるわけですが、
長くなりそうなのでこの話もここで止めて、
新市街のぼんやりしていたら見落としてしまうような
小さな路地の入り口へと進みましょう。
入り口には“玉屋通り”と書かれた看板があります。
その下をくぐって
太った人なら一人しか歩けない幅の細道を12歩ほど進むと、
軽くカーブした右側にガラス引き戸の小さなお店が登場します。
ちょっとレトロな雰囲気の居心地良さそうな店内の
そこが知る人ぞ知る「カフェ・オレンジ」です。
入り口付近には店主の田尻久子さんが選んだ様々な雑貨が並んで、
雑貨屋さんとしても客を呼んでいます。
このお店と久子さんのことは、
東京住まいの頃から知っていました。
原宿「Zakka」のオーナーである眸さんとご主人でカメラマンのkitaさんから、
「オレンジの田尻さんはみどころあるよ。
そこいらの“お店やりたい人間”とはちょっと違うよ。
熊本に帰ったらよろしく言ってね」と聞いていたのです。
久子さんは「オレンジ」を始める前だからおよそ10年ちょっと前、
「Zakka」に勉強に来ていたそうなのです。
で、去年の3月熊本に帰って、
5月に「オレンジ」に行ってみたら、
店内に大きくて白くてきれいな猫がいました。
猫好きなお客さんがベタベタしてもさらりと受け流し、
マイペースで店を仕切っている(ように見える)その姿は年季をつんだマダムが如きで、
「素敵なご婦人ですね−」と讃えたら
「いやオスです」とのことで、ははははは。
名前は“白玉”、白玉さん。
きっと玉屋通りの白猫だからだろうなあ。
あるいは白いタマタマの持ち主だからかも知れぬ。
いずれにせよ猫には目がない人間ゆえ、
週一くらいの頻度で通うようになりました。
たまたま2回ほど白玉さん不在の時に出向いたことがあり、
それがとても残念だったので、
念のため、
事前に電話確認することもあります。
もちろん久子さんにですが・・・。
「もしもし、ヨシモトです」
「あ、こんにちは」
「今日、しーちゃん(白玉さんのこと)お店に出てる?」
「あ、出てますよ。今、横にいます」
「じゃ、あとで行きます」
「えー、私に会いに来てくれるんじゃないんですか−?」
オレンジのレジ横で客の支払いをチェックする
ある日のしーちゃんです。
滑り台のように滑らかで広い背中が魅力的。
え? 呼んだ?
何かご用ですか? るるるるー。(用もないのに気安く呼びやがって)
えいッ、ガブになっちゃうぞい!
(ガブとは、化けの皮が剥がれたり怒り心頭に発したときなどに使われる
きれいな娘顔がいきなり口が裂け金色の目をむく文楽人形の頭)
いけん、いけん、元に戻っておすまし顔。
えっ、まだ飲むと?
ええい、こちとら、酔っぱらいに付き合ってられるほどヒマじゃなし。
うるさい下界から離れて上に行きたくなったなー。
上ったって天井の梁くらいのもんだけど、ほらね、猫はラクラク上がってしまえる。
やれやれ、久子さんが店じまいする時間までここで静かに夢を見ていよう。
最後に突然ですが手前広報させてください。
大正時代創刊され、幾度かの戦争も乗り越えて紆余曲折、
この1月20日の発売号で1002号を迎えた旅行雑誌「旅」ですが、
残念なことにこれで幕引き、最終号となりました。
1000号を越える歴史もですが、
地味でも“旅”という一つの個性にくくられた雑誌が消えていくのを
とても寂しく思います。
この雑誌には「動物園と水族館をめぐる旅」という
自分の中では最高に楽しかった連載仕事をさせてもらいました。
今月の最後の号でも再び
“吉本由美のわが町、熊本案内”という嬉しいページをいただいています。
昨年3月に熊本に帰ってきてから知り合った“人”と“場所”の案内です。
よろしかったら見てください。
そして興味を持たれたら、
ぜひ熊本に遊びに来て下さい!
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