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読書猿さんと対談した

 読書猿さんとお会いして、お話することができたので、さしさわりのない範囲でまとめる。

 濃厚かつ一瞬の2時間だったが、学ぶヒントや学び続ける勇気、そして大量のスゴ本を教えてもらえるという、かけがえのない時間でしたな。フォレスト出版さん、読書猿さん、ありがとうございます。ブログやってて良かった!

 自ら学ぶことを大切にしている人で、読書猿さんを知らない人はいないだろう。一言なら、哲人(てつじん)。すぐれた知性と見識の高さ、的確すぎる筆致と高高度な調査能力を駆使する、教養の化物である。古今東西のあらゆる本を吟味し玩味し紹介するブログ[読書猿]の中の人で、メルマガ[読書猿]を発行しており、『アイデア大全』『問題解決大全』というスゴ本を著している。

 お会いするまで、そんな人は実在しないと考えていた。読むのも書くのも質量ともども桁外れ、文献調査や公開情報を用いた分析が研究機関レベルで、得られた知見を、読み手に読者に「分かる」「できる(使える)」形に咀嚼してツール化して提供する。きっと「読書猿」とは一種のブランドで、中の人は何人もいて、役割を分担して運営されていると思っていた(「シェイクスピア」のように)。

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これが本当の「猿の手」

 しかし、お会いして分かった。「読書猿」はワンオペだ。中の人はチャーミングなおっさんで、笑った目が完全に子どもの瞳をしている。しかし、ひとたび知の話題になると、ロゴスとエビデンスの鬼と化す。ものすごい勢いで固有名詞と年代と方法論が出るわ出るわ。その一つ一つを、完全に覚えているのが凄まじい(後で聞いたところによると、「頭の中に図書館がある」らしい)。

■『アイデア大全』と『問題解決大全』の使い方

 この2冊、もとは一つだったらしい。

 最初にまとめたとき、2冊を合体させたよりも莫大になり、「このまま出すと厚さと価格がシャレならん」ことが明らかになったという。そのため、2つに分けるとともに、アプローチと構成を練り直したとのこと。すなわち、アイデアを求める人向けのアプローチと、問題解決を模索している人のためのアプローチである。

 さらに、アイデアを求める人向けに、「0→1にする」と「1→nにする」の2部構成に分けたという。ここが凄いところだと思う。いわゆる世のアイデア本は、「1→nにする」は大量にあるが、「0→1にする」については皆無といっていい。つまり、与えられた何かを元に膨らませる方法論は満ち溢れているが、そもそものとっかかりすらない状態からどうすれば良いかはほとんど無い。これに応えたのが、『アイデア大全』になる。

 同じことが、『問題解決大全』にも言える。「リニアな手法」と「サーキュラーな手法」の2部構成に分かれている。世の問題解決本は、「リニア」がほとんどである。つまり、理想と現実、原因と結果が直線的につながっており、その差を埋めたり原因をあれこれする方法だ。ビジネス書との親和性の高さから、腐るほどある。だが、「サーキュラー」は稀だ。問題を構成する因果ループの中に解決者が取り込まれており、「原因」「結果」が判然としない。さらに問題を解決するリソースもその中でやりくりしなければならない。これに応えたのが、『問題解決大全』である。

 現実を振り返ってみよう。なんとかしたいのに、何をどうすればよいか、アイデアどころか、手がかりすら分からずに困ってる方が多いのではないか? あるいは、問題と原因がぐるぐるして、しかもそのループに自分自身が入っていて途方に暮れている方が多いのではないだろうか? より根が深い、現実に近い、そうした状況に対し、適切なアドバイスが得られるのがこの2冊なのである。


 『アイデア大全』と『問題解決大全』を立てて見てみよう。こんな構成である。

       アイデア大全 ||    問題解決大全
0→1にする | 1→nにする || リニアな手法 | サーキュラーな手法


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コアの部分(「1→n」「リニア」)と、周辺の部分(「0→1」「サーキュラー」)


 両者が接しているコアの部分になる、「1→nにする」「リニアな手法」は、どちらかというと馴染みのある方法論だ。そして、このコアの両サイドに、より現実的な手法である「0→1にする」「サーキュラーな手法」が準備されているという構造だ。

 つまり、「どうしたらよいか」へのアプローチとして『アイデア』『問題』の2ルートがあり、さらに問題がある現実との親和性で、コアか両サイドかの2方向ある。どのように解決したいかという観点と、現実との親和性によって、使い方を変えることができる。ちなみにこの見方は、わたしが編み出したカスタマイズだ。辞書的に引いて使うのが主だろうが、並べて立てることで、より立体的に攻めることができる。

■頭の中に図書館を持て!

 世の中に「頭のいい人」がいる。1をいうと10伝わる人、頭の「回転」が速い人、いわゆる「地頭力」がある人、引き出しを沢山もっている人、緻密に語れる人、とっさに適切な一言が返せる人、知識がある人、勉強ができる人など、様々な言い方がある。

 もちろん読書猿さんも「頭のいい人」なのだが、上記のどれもうまく当てはまらない。知識があり、緻密に語り、回転が速いのは確かだが、そんな人は沢山いる。しかし、読書猿さんが凄いのはそんな即興的な所から離れたところにあることに気づいた。

 何か―――例えば「自転車」について調べるとしよう。わたしなら、辞書から意味を汲み、イメージされる分野を調べ始める。たとえば、「自転車の仕組み」や「自転車の歴史」といったテーマから始める。だが、読書猿さんは違う。調べたい「何か」について、図書館の十進分類表に放り込み、そこから照射しはじめるのだ。つまりこうだ。

 自転車の総記(00)
 自転車の哲学(10)
 自転車の歴史(20)
 自転車の社会科学(30)
 自転車の自然科学(40)
 自転車の技術・工学(50)
 自転車の産業(60)
 自転車の芸術・美術(70)
 自転車の言語(80)
 自転車の文学(90)

 十進分類表は、いわば、知りたいことへの「知り方」を分類したものだ。言い換えるなら、人類の知を分類したものだから、そこには必ず自転車について知りたいことへの道筋が存在する。読書猿さんの頭の中に、この十進分類表が入っており、そこから抽象度を徐々に下げてゆく。

 たとえば、文学(90)>英米文学(930)>小説(933)と行くと、きっとそこに「自転車」に言及した小説が見つかるだろう。あるいは、産業(60)>運輸・交通(680)>交通政策(681)と絞っていくと、間違いなく「自転車」に関する行政施策が見つかるだろう。重要なのは、数字の左に行くほど抽象度が上がり、右に行く抽象度が下がり具体性が増すところ。この抽象度を上げ下げを駆使することで、「自転車」を文学からも行政からも絵画からも調べることができる。

 そして、図書館に行くと、この抽象度の並び順に並んでいるのだ。十進表の通りに並んでいるのは知っている。でないとどこで何を知ることができるか分からなくなるから。重要なのは、抽象度の並びで書棚が構成されているのだ。だから、実際に図書館の書棚で、左へ目を向けると、より抽象度の高い本が見つかり、右を見ると、より具体性のある本が出てくる。何年も図書館に通い、何度も見てはいたものの、これは気づかなかった。

 読書猿さんの頭の中には、図書館があるという。十進分類を駆使して、抽象度の高いところから俯瞰したり、より詳しく知りたいときは拡大して具体的な目で見始める。頭の中の図書館で目星がついてから、やおら腰を上げてリアル図書館に行くという。やみくもにGoogleったり、図書館や書店に突撃するよりも、はるかに効率的・網羅的なり。いつでも図書館を召喚できるということは、いつでも知の巨人の肩に乗れることなのだ。

 読書猿さん自身は、もちろん博学だが、それだけではない。自分が何を知らなくて、どうすれば知ることができるのかを知っている。いわゆる、「知り方を知っている」という点で、頭のいい人なのだと思う。もっというと、スピード重視なのか、深さ重視なのかによって、「知り方」を使い分けながら図書館にアクセスできる。つまり、読書猿さんは、図書館という人類知を味方につけている人であり、知の巨人たちを自由に召喚できる人なのである。

■図書館では返却棚を見て!

 教えてもらうことばかりだったけれど、唯一、合致してたポイントがあった。「図書館で返却棚を見る」という所である。「きょう返された本」という掲示がされている棚やワゴンである。

 もちろんそこから借りていってもいい。その棚は、誰かが借り出しして、カウンターに返却された本であり、次に借り人がいなくて、いずれ本来あるべき棚に戻る前のバッファみたいなものである。

 ちょっと見方を変えてみよう(『問題解決大全』のリフレーミング)。その棚にある本は、いわゆる人気本ではない(そういうのは、予約が入っており、返却処理時に予約本として回される)。だが、世の中の人が何がしかの興味を持ち、「貸し出し」までして手に取ろうとした本である。その集積は、世の人の興味の集積になるのではないか?

 よくある、「書店に行って、面陳されている本のキーワードを見ているだけで、世間がいま何に興味を持っているか分かる」というライフハック(?)の、もっと生々しいものが、図書館にあるのだ。なぜなら、書店に並んでいる本は、「世間の興味」というよりも、出版社が「世間はこれに興味を持っているのだろう」もしくは「これに興味を持って欲しい」もので埋め尽くされている。いわばノイズが入っている状態である。図書館の返却棚は、そうしたノイズが自動的にフィルタリングされた、本当に興味のあるもので埋め尽くされているのだ。

 たとえば今行ってみるといい。「確定申告」と「介護」が必ずあるはずだ。前者は、年度末に向けて早めに準備したい人が借り出したものだし(年を越すと予約でいっぱいになる)、後者は特に近年顕著に見られるキーワードになっているから。

 図書館で世間を知るというこの技、読書猿さんと一致したのは大きい。

■読書猿さんの今年のスゴ本は?

 わたしの今年のNo.1は『アイデア大全』『問題解決大全』だけど、読書猿さんにとっての一番は? という質問をぶつけてみた。

 返ってきたのが、『愛とか正義とか』(平尾昌宏著、萌書房)。これは、読書猿さんが唯一、嫉妬した本だという。たとえば正義。「正義」と「正義についての主張」は異なるのに、両者を混交して議論するから迷走する。これは、両者の違いを、誰にでも腹に落ちるように、しかも厳密に書いており、ここまで書けるのは素晴らしいとともに悔しいとのこと。「正義」「愛」「自由」など、誰もが知っていて、誰もその正体を言い表せえないものを、『鋼の錬金術師』や『ライアーゲーム』で学べるらしい。

 速攻でゲットした(丸善ラスト1冊だったw)。読み始めてすぐに気付いたが、これ、倫理学の主要なテーマである自由意志、価値論、功利主義、認知主義、実在論、生命倫理学をものすごく分かりやすく書いている。そして凄いのは、答えを導くのではなくて、考え・プロセスを辿っているところ。考える行為そのものが哲学することが、分かるように書いている。「自分で考える」とは何かを、自分で考えさせることで伝える、読むことが実践になる一冊なり。

 4つ紹介したが、まだまだ足りない。他にも、本屋でオフ会や、読書会、本の「並べかた」についてのウンチク、調べかたのあれこれ、ホワイトボードで講義形式で聞きたかったですな。読書猿さんの次のテーマは、「図書館」だ。全裸待機して待ちます。

 最後にもう一度、読書猿さん、貴重で、濃密な時間をありがとうございました! またお会いしたいです。そしてじっくり(ホワイトボードを傍らに)お話を伺いたいです。

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