たとえば毎日新聞が「安全保障関連法案への対応で内閣支持率が急落したことを受け、首相と距離を置く議員らが色めき立っているという状況だが、対抗馬擁立は容易ではなさそうだ」などと(毎日に限らず)新聞特有の表現で無責任に書く9月の自民党総裁選くらいは最低限、無投票ではなく有力な対抗馬が立って行われなければならない。それによって自民党という政党に生命力が残っているかどうかが問われる。
というより、安倍晋三が日本という国に決定的なダメージを与える前に日本政府から排除できるかどうかに、今世紀前半のこの国の命運がかかっているといっても過言ではないと私は考えている。
昨夜遅くに書いた『kojitakenの日記』に、7月12日付朝日新聞4面に掲載された前田直人編集委員のコラム「政治断簡:政治と芸術 全体主義の教訓」を紹介した。1992年に武蔵野美大視覚伝達デザイン学科卒という学歴を持つ前田記者は、崩壊直前のソ連を訪問した学生時代にスターリンの前衛芸術弾圧を知り、それをきっかけにナチスドイツの同様の蛮行を知ったことを、
と書く。私は20世紀ソ連の作曲家、ドミートリー・ショスタコーヴィチの音楽に親しむことを通じて、スターリンの「社会主義リアリズム」の悪逆非道さを痛感した。やはりソ連崩壊直前の頃だった。政治権力が気にくわない芸術を「難解」「退廃」と排撃。意に沿う芸術家の表現力を権威の宣伝に使う――。全体主義の弾圧・統制プロセスを学び、背筋が寒くなった。
前田記者は、「文化芸術懇話会」と銘打った自民党議員の勉強会で、報道威圧発言が飛び出したことに「ゾッとした」。そして母校・武蔵野美大の柏木博教授に取材した。下記はそのやり取り。
「気味悪くないですか」(前田)
「不気味です。言っていることが、スターリニズムやナチズムの道と同じ。言論の自由は権力の側ではなく、個人の表現者のためにあるのに逆転している。いちばん怖いのは、政治的な力で個人の表現を圧殺することなんですよ」(柏木)
安倍晋三の「親衛隊」とはこんな連中なのである。
思えば、安倍が自らの政権を長期化したあとの後継者として思い描いているといわれる稲田朋美も、2008年に映画『靖国 YASUKUNI』を検閲して公開を中止させようとした。そしてそれに応じて公開を取り止めた情けない映画館が続出した(結局一部の映画館が上映し、私は2008年の憲法記念日に東京・渋谷の映画館でこの映画を見た)。
こんな稲田朋美への政権禅譲を許してはならないし、それ以前に一刻も早く安倍政権に終止符を打たなければならない。
支持率低下に苦しむ安倍晋三は、ついに安保法案制定の本音を出してきた。ホルムズ海峡への言及を止めて、代わりに「中国脅威論」を打ち出してきたのである。
安倍晋三の「9月訪中」が報じられてから3週間しか経っていない。その訪中予定を前に国会論戦で安倍が中国脅威論を打ち出したことを「政権の焦り」と断じ、「禁じ手」として批判するのは、近年「リベラル回帰」が著しい岸井成格だ。しかし一方で「中国脅威論」がそこそこ通用することは、「中国脅威論」を持ち出されるとすぐにそれに靡きそうになる古舘伊知郎を見てもよくわかる。だからこそ安倍晋三はこの危険な「禁じ手」を切ってきたのだ。
そもそも、安倍内閣の支持率がどんなに下がっても、安倍晋三が最後の最後に最強の切り札を持っていることを忘れてはならない。それは中国との戦争である。
既に国会論戦で、安倍政権は先制攻撃を可能にしようとしているのではないかと指摘されている(民主党の大塚耕平)。もちろん日本がおおっぴらに中国に先制攻撃をかけるはずはない。謀略によって中国に仕掛けられたという形をとって先制攻撃を仕掛けるのである。
欧米では、政府の支持率が下がると政権が軍事行動に走り、それを国民が支持して下がっていた支持率が跳ね上がることがよくある。たとえばビル・クリントンは1998年、モニカ・ルインスキーとのスキャンダルが発覚して支持率が下がるや、アフガニスタンやスーダンへの空爆を実施した。ミエミエの目くらましだったが、これでクリントンの支持率が上がったと報じられた時、「やっぱりアメリカ人は戦争が好きな、ダメな国民なんだなあ」と呆れたものだ。しかし今年、ISISが引き起こした日本人人質事件に安倍晋三が強硬姿勢をとって人質を見殺しにした時、日本でも安倍政権の支持率が上がった。人質事件ですら支持率が上がるのだから、対中戦争ともなればさらに支持率が上がることは間違いない。そして、表向き「中国の挑発」の形をとった(偽装した)場合でも、それは容易に偽装であるとはわからないから(たいてい後世の史家によって事実が暴かれる)、その時には民主党や維新の党が政権に靡くことは当然だろうし、領土問題では一貫した強硬派である共産党も戦争を止める方向に動くかどうかは大いに疑問だ。
以上が杞憂であれば良いが、安倍晋三というのは追い詰められればそういうことを平気でやりかねない政治家である。だからこそ安倍晋三は絶対に総理大臣にしてはならない人間だった。不幸にして総理大臣の座についている今は、絶対にこれを引きずり下ろさなければならない。
このブログのコメント欄にも、たとえば総理大臣が野田聖子になっても安倍と同じような政治が続くぞ、と主張される向きもある。確かに平時の政策は安倍晋三だろうが野田聖子だろうがいくらも違わないだろうし、仮に野田聖子政権が誕生したとしても、私は一貫して批判するだろう。
しかし、安倍晋三と野田聖子で決定的に違うのは、政権が本当に追い詰められた時に対中戦争に踏み切るような狂気を持っているかどうかだ。私は野田政権ならそんな可能性は低いが、安倍政権が続いた場合はその可能性が無視できないほど大きいと考えている。
だからこそ安倍政権を早期に終わらさなければならないし、その観点からも自民党総裁選がどうなるかを注視している。
差し当たっては、総理補佐官の礒崎陽輔の首を取れるかどうかだ。今日行われる予定の礒崎の参考人質疑はわずか15分とのことだから大して期待はできないが、公明党がかなり強気だし、やはり自民党総裁選への出馬が取り沙汰される石破茂も礒崎を批判している(但し石破政権になった場合の安全保障政策のリスクは、安倍ほど巨大ではないが野田聖子と比較するとかなり大きいと私は考えている。なお誤解なきように付言しておくが、私は野田聖子をハト派であるとは全く考えておらず、タカ派政治家の一員であると認識している。それでも安倍や石破よりはリスクが小さいと思っているだけである)。
岸井成格は、安倍晋三が礒崎陽輔を更迭しないのならば、安倍の考えは礒崎と同じということになると繰り返し言っているが、もちろん安倍と礒崎の考えは同じに決まっている。
今にして思えば、衆院特別委の質疑で安倍が「我々が提出する法律の説明は正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」と言った時、私はその発言に呆れたが、「立憲主義にもとる」という言葉でそれを説明することはできなかった。それを知らしめてくれたのは、6月4日に3人の憲法学者が安保法案を「違憲」と断じてからのことであって、私はそれで長谷部恭男の書いた新書本を読んで、付け焼き刃の「立憲主義」の勉強をしたという情けないていたらくであった。
私自身の恥はともかく、この安倍発言を思い出せば、「法的安定性は関係ない」と言い放った礒崎陽輔の考えが「私が総理大臣だから私が正しい」と言い放った安倍晋三の考えと寸分違わず同じであることは自明だ。
礒崎陽輔の首は、絶対に取らなければならない。
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磯崎補佐官の他にもまたまた問題発言が飛び出しましたね。
自民党の武藤貴也議員のつぃーとです。
「SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は「だって戦争に行きたくないじゃん」という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ。2015年7月31日 01:17 」
戦争に行きたくないというのが、自己中心、利己的とは。ついにここまで来たかという感じです。
2015.08.03 08:55 URL | 南沢 #- [ 編集 ]
↑何しろ、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の日本国憲法3本柱を完全否定されている方ですから。
「日本国憲法によって破壊された日本人的価値観」
http://ameblo.jp/mutou-takaya/entry-11937106202.html
36歳だそうです。
2015.08.03 18:17 URL | ぽむ #mQop/nM. [ 編集 ]
こういう御仁には、どんなまっとうな言葉も通じないでしょう。36才だから、国会議員など辞めて、どうぞ、安倍晋三のわが軍に入隊してぜひとも、どこかの国に出かけて行ってお国のために尽力ください、というしかありませんね。
2015.08.03 21:54 URL | 負け組の矜持 #- [ 編集 ]
古舘や共産党へのコメントには笑わされてしまった。さっきも岸井さんは、内閣の責任だとバッサリと切り捨てていたが、古舘がどんな対応をしたのかは仕事中だったから知らない。ただ、あいつはダンマリするから、はなからあてにしていない。
共産党のポスターにも、違和感あり。ていうか、嘘はついてはいないけど、その分、国境紛争が発生した時に、第一次大戦時のドイツ社民党主流派みたいな振る舞いになりはしないかとも、少しだけ勘ぐりたくもなる。
とはいえ、こんな古舘でもアンチ安倍晋三一派への…脆弱極まりないが…反転攻勢、カードに使わなくてはならないし、アンチ安倍晋三の急先鋒である日本共産党は虎の子の政治勢力であることも間違いない。
戯けた左翼用語を延々と垂れ流すオールドタイプなのはスルーして(笑)、アベ政治を許さないの声を拡大させるべし!
因みに聖子ちゃんの話で、ふとよぎったのは、かなり前に伊東光晴先生が毎日新聞だったかで、比較していた、安倍晋三と(例えばという、前書きだったが!!)谷垣幹事長
の話。
伊東先生が谷垣たちが安倍晋三に靡き、狂気の秘密保護法案に賛同したこと、かつ、谷垣が、スパイ防止法にかつて反対したのに『裏切った』悪辣さを知らないわけもないし
断じて許すまじという立場なのも、すべて確認済みであるが(笑)(笑)、それでもこんな比較を述べざるを得ないというのは、いかに今の自民党が病んでいるかの一例だと思う。
2015.08.04 00:00 URL | axfxzo #ePfhgX1o [ 編集 ]
公明党は「礒崎氏続投を容認」するらしいですよ。
http://news.nifty.com/cs/domestic/governmentdetail/kyodo-2015080301002136/1.htm
金魚の糞になり切った公明党の面目躍如である。所詮、憲法違反の政党のこと、何でもありである。
2015.08.04 07:39 URL | 負け組の矜持 #- [ 編集 ]
このコメントは管理者の承認待ちです
2015.08.07 19:49 | # [ 編集 ]
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