田母神俊雄は、産経新聞のインタビューに答えて、
と発言した。民主主義だったら核武装すべきだという意見もあっていい。核兵器を持たない国は、核兵器を持った国の意思に最終的には従属させられることになりかねない
これについて、河村建夫官房長官は28日午前の記者会見で、「退職後の発言なので政府はコメントする立場にない。言論の自由は保障されている」と述べた。
また「言論の自由」かよ、と思った。誰よりも言論の自由を制限したいと内心思っている人たちに限って、右翼的言論については「言論の自由」を振りかざす。建前と本音が全然違うのは、あまりにもミエミエだ。
田母神俊雄に300万円を贈ったアパの元谷外志雄も、当然ながら核武装論を大々的に展開している。しばしば当ブログにコメントいただくjunkoさんが、産経新聞出版から出ている元谷の『報道されない近現代史』を読んで、内容を一部紹介して下さったので、それを以下に紹介する。
アパの元谷外志雄著『報道されない近現代史』を読んでみました。
283ページの長文です。どこかで内容について田母神論文との共通点が指摘されていたと思いますが、そのとおりです。それでも、こちらは情報量が多く、文章もはるかに洗練されていてすらすらと読めますし、また主張の論拠とか検証とか面倒なこと、小難しいことは著者にとって問題にならないようですので、大変勇ましくて、読めばスパイ小説のようにおもしろく感じる人もいるかもしれません。重要なのは、副題に「戦後歴史は核を廻る鬩ぎ合い」とあるように、この本の主題は日本における「核保有の必要性」の主張であるということです。
目についた文章をいくつか引用しておきます。>日本はこれからの情勢に備えて現在の憲法を廃止して独立自衛の出来る新憲法を作り、現在の日米安保条約を対等で平等互恵の新しい日米安保に改正するとともに、戦争抑止のための攻撃力を装備し集団的自衛権の行使の権利も当然認めなければいけない。
>今や日本はロシア、中国、そして北朝鮮という核保有国に包囲されてしまった。この東アジアの安定のためには、それらの国が核を破棄しない以上(そんなことはあり得ない)、日本の核武装が必要である。今の日本ではそれが現実的でないというのなら、一歩引いて、ニュークリア・シェアリングが望ましいと私は強く主張する。
>米下院は戦争中の従軍慰安婦問題を巡って、日本政府に公式の謝罪を求める決議をした。この問題は、1993年に河野洋平官房長官が旧日本軍の関与を認めるという事実ではない見解を発表したことがアダとなって一人歩きしていることは、国内の良識ある人は知っている。
>私も(略)、日米戦争を仕組んだのはアメリカだという確信を持っていたが、それを物的証拠と証言によって裏付けてくれた、「真珠湾の真実?ルーズベルト欺瞞の日々」(ロバート・B・スティネット著)には、我が意を得ると同時に、その綿密で周到な組み立てに圧倒された。
>真珠湾攻撃はハル・ノートによって暴発させられたものだが、これはやはりソ連の作為戦争謀略だったことが証明されたのである。(最近公開された米陸軍電信傍受機関のソ連暗号解読資料によって)
このくらいにしておきますが、本をひらくとまず6ページにわたってずらずらとカラー写真が出てきて、これにはちょっと面くらいました。米国のアーミテージ、韓国の金泳三、台湾の李登輝、森元総理など国内外の著名人と一緒の写真、またF?15戦闘機に搭乗しひとりVサインをしている写真も掲載されています。
(当ブログ11月26日付「佐藤優のダブルスタンダード ? 久々のコメント特集」にいただいたjunkoさんのコメントより)
なるほど、元谷外志雄が田母神俊雄に300万円を贈ろうという気になるのも理解できるようなトンデモ本のようだ。
私は、核兵器の保有や使用を容認する発言というと、6年前に安倍晋三が講演会(司会は田原総一朗)でしゃべった「核兵器の保有も使用も違憲ではない」というトンデモ発言や、一昨年の安倍内閣外相時代に麻生太郎がしゃべった「核武装について議論すべき」という発言を思い出す。
だから、田母神や元谷を増長させてきたのも、安倍や麻生といった無能な世襲政治家たちであったということは絶対におさえておかなければならない。つまり、こんな政府あっての田母神「論文」(笑)なのであり、「文民統制」以前に、政治権力が腐っているのだ。自民党の政治家全員が核武装論者ではないどころか、極右は自民党でもほんの一部だということはわかっているが、「コクミンテキニンキ」(笑)をあてにして極右を総理大臣に担ぎ上げたのも自民党の政治家たちなのだ。安倍と麻生の間に挟まれた、比較的ましな福田康夫にしたって、6年前にコイズミ内閣官房副長官の安倍がトンデモ発言をした時、内心舌打ちしながらかもしれないが、「非核3原則は今までは憲法に近かったけれども、これからはどうなるのか。憲法改正を言う時代だから、非核3原則だって、国際緊張が高まれば、国民が『持つべきではないか』となるかもしれない」(2002年5月31日付毎日新聞より)と発言して物議をかもした。後年コイズミや安倍晋三に対する反発からハト派へと転向したが、もともとは福田もタカ派の政治家だったのだ。
さらに問題なのは、元谷の著書を絶賛する佐藤優を、岩波書店などが重用し、「リベラル・平和系」を自称する一部のブロガーも崇め奉っていることだ。そういう人たちは、「レイシスト」といったら本当のレイシストに失礼にあたるらしい城内実を絶賛していたりする。この城内は、日本国憲法は改正するのではなく、明治憲法のような精神を持つ自主憲法を新たに制定すべし、教育勅語があるのだから教育基本法の改正は無意味だ、などと主張していた元政治家(笑)で、国会議員在任中は、すべての代議士の中でも、安倍晋三や平沼赳夫らよりももっと「右」の、究極の極右ともいえるスタンスをとった人物である。
こんな状況では、確かに「右」も「左」もない。みんながみんな、田母神俊雄、元谷外志雄、安倍晋三、それに麻生太郎らが目指している「核武装」路線を翼賛しているようなものだと思う今日この頃なのである。
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11月は土日や祝日が多かったせいもあって、当ブログの新規公開エントリも20件にとどまったが、月間アクセス数は138,288件(FC2カウンタによる計数)に達し、ブログ開設以来最多を記録した。特にアクセスが多かったのが11月7日公開の「田母神俊雄、渡部昇一、元谷外志雄、佐藤優らに呆れる日々」で、このエントリに月間で4000件以上のアクセスをいただいた。次いで、11月5日付エントリ「田母神俊雄の「痴的生活の方法」 ? 日本の右翼は大丈夫か」が3000件以上のアクセスをいただいている。3位は11月20日の「テロ行為と極右政治家・城内実だけは絶対に許せない」で、2800件を超えるアクセスのうちかなりの数(952件)は、元政治家(笑)・城内実のブログから張られたリンクを経由したものだ。
先月の当ブログへのアクセス数を押し上げたのは田母神俊雄の論文だが、今朝(12月1日)の朝日新聞1面トップは、懸賞論文の選考において、アパの元谷外志雄会長が当初から田母神氏の論文と知り得る立場で審査に加わり、メンバーで唯一最高点を与えていたことを報じている。
http://www.asahi.com/national/update/1201/OSK200811300062.html
審査委員の一人・花岡信昭は、「審査は筆者名を伏せて進んだ」と主張していたが、朝日新聞は、少なくとも元谷外志雄はあの駄文が田母神の手になるものだったことを知っていたと報じている。
以下、朝日新聞の記事から引用する。
4人の審査委員のうち、取材に応じた3人によると、応募作は事前にアパ側が絞りこみ、委員が実際に目を通した論文は全体の1割程度の25作品にとどまった。委員に知らされたのは受理番号のみで、応募者名や職業は伏せられていた。
委員は作品を「5点」「3点」「2点」「選外」の4段階で評価し、ファクスで送るようにアパ側から求められ、アパ側は10月16日の審査会で集計結果を一覧表にして配った。まだ最優秀作は決まっていない、この時点で応募者名、年齢、職業が委員に明かされた。元谷代表だけが、1作品に限って付けることができた最高点の5点を田母神論文に与えていた。
委員の一人、花岡信昭氏によると、審査の後、元谷代表が審査前から田母神氏の論文応募を知っていたことを明かしたという。元谷代表は審査委員に名を連ねておらず、アパ側は元谷代表が採点に加わっていた事実をこれまで公表していない。
山本秀一氏は「元谷代表が、他の委員が高く評価した論文をおしなべて低く評価したことに不自然さを感じた」と話す。
一覧表では、田母神論文と大学生、近代史研究家の論文が合計点数で同点に並んでいた。元谷代表の提案で大学生の論文をまず優秀賞に落とし、残った2作品のうち、元谷代表が田母神論文を推した。「異存ありませんか」と元谷代表が各委員に確認したが、反対意見は出なかったという。
小松崎和夫氏は「今思えば、元谷代表は初めから田母神氏の応募を知っていたのだから、トップにしようと思えばできたはずだ」と話す。山本氏は「田母神氏に賞金を贈るための懸賞論文と見られても仕方がない」と語る。
アパグループの広報担当者は「審査の内容に関しては一切お答えしていない」と話す。元谷代表個人にも取材を申し込んでいるが、11月30日現在、応じていない。(武田肇)
(asahi.com 2008年12月1日)
ここで花岡信昭は「審査の後、元谷代表が審査前から田母神氏の論文応募を知っていたことを明かした」と言っているのだが、花岡はこの重要な情報をこれまで自分の記事には書かなかった。実にふざけた態度であり、花岡にはジャーナリストの資格など全くないと言わざるを得ない。
朝日新聞の紙面では、この件はもう少し詳しく報じられており、田母神らの論文が3点同点で並んだ状況で、元谷は「学生には賞金30万円で十分だと思う」という趣旨の発言をして、これを学生部門の最優秀賞(賞金30万円)とすることを提案したそうだ。
さらに、社会面では元谷の呆れた言動が報じられている。以下引用する。
また、中山泰秀衆院議員によると、元谷代表は中山議員本人や、代理で審査委員を務めた山本秀一氏に審査経過の公表について抗議の電話を入れていたという。田母神氏が更迭された後の11月上旬、山本氏がテレビ番組のインタビューに応じ「(田母神論文に)私は0点をつけた」と話したところ、元谷代表から電話があり「事実と違う」と強く抗議されたという。
山本氏によると、田母神論文に一時5点満点中「2点」をつけたが、誤ってアパの指示より1作品多い論文に点数を付けていたため、2回目の審査会の席上、点数のない「選外」に変更したという。
中山議員によると、元谷代表から携帯電話に電話があり、「あなたの秘書は2点から最低点ではなく、最高点に付け直したんだ。ウソをつくと選挙に落ちる。政治生命を失う」と語ったという。中山議員を審査委員に選んだのは、論文募集時、外務政務官だった肩書きがほしかったからとも明かしたという。中山議員はこうした経緯を大阪府警に相談しているという。
(朝日新聞 2008年12月1日朝刊より)
なんと元谷は、中山議員の肩書きを利用しようとしていながら、同議員秘書が田母神論文に0点を付けたことに怒り、中山議員を脅していたらしいのだ。
朝日の記事には、中山議員の秘書・山本秀一氏のコメントも掲載されている。
審査では元谷代表が田母神論文を強く推し、審査委員もそうした空気につられた感じがする。私自身は、日米安全保障条約と、日本が朝鮮半島を植民地にした条約を同一視する田母神論文には違和感があり、論文では低い評価にした。審査では元谷代表が自分の意向を反映させる機会が数多くあり、田母神氏に賞金を渡すための懸賞論文だったと見られても仕方がないのではないか。
(朝日新聞 2008年12月1日朝刊掲載の山本秀一氏のコメント)
この山本秀一氏に対しては、花岡信昭が罵詈雑言を投げつけていたことを思い出しておこう。JanJanの記事によると、東京・豊島区で11月15日に開かれた「日本文化チャンネル桜支援講演会」で花岡が「政局の動向と日本の行方」と題して講演し、その中で山本氏を罵倒した。以下引用する。
中山議員の秘書が0点をつけたというのは全くの嘘
政治的に保身に走って嘘を言ったのだろう。そもそも中山議員というのは、まったくけしからんヤツ。渡部昇一先生が委員長を務める審査会の委員に選ばれただけでも大変なことなのに、こともあろうか審査の場に本人が来ない。秘書に来させた。挙げ句にその秘書に嘘をつかせて保身に走った。
私は頭にきたのでその嘘を週刊誌で暴露した。が、その後、先方から何ら抗議はない。後ろめたいから何も言えないのだろう。私も保身のためにその時の書類はとっている。いつか機会を見つけて、公衆の面前でヤッツケてやる。
(JanJan 2008年11月21日 「花岡信昭氏、田母神論文審査の裏側を語る」より)
果たして嘘つきは山本秀一氏なのか、それとも花岡信昭や元谷外志雄なのか。今後明らかにしてほしい。
朝日新聞の紙面には、花岡信昭や審査委員長・渡部昇一のコメントも掲載されている、花岡は、「田母神論文に書かれた歴史的事実は、先の戦争でのコミンテルンの力を過大視するなどの難点があり、採点では最高点を付けなかった」と釈明しながら、審査は公正であり、「あらかじめ田母神論文が最優秀と決まっていたという勘ぐりは、審査委員の名誉を傷つけるものだ」と開き直っている。また渡部は、極右雑誌「WiLL」2009年1月号に「最高点を取った論文を開けてみたら、空幕長が執筆者だった」と書いているらしいが、「審査はスムーズだったので、特に記録に残っていません。雑誌「WiLL」に書いた審査経緯が私の記憶です」などとすっとぼけたコメントをしている。
だが、花岡信昭や渡部昇一の開き直りにもかかわらず、田母神論文事件にはますます「贈収賄」の匂いが濃厚になってきた。
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本当にこの男は単独犯なのか、背後関係はないのかということに関しては、当ブログでは議論しない。ただ、怖いと思うのは、このような暴力が肯定される空気があることで、それだけ日本の社会がすさんできたということだ。
ファシズムがいつやってきてもおかしくない、そんな時代だと思う。マスコミでも大騒ぎになった田母神俊雄の「アパ懸賞論文」問題も、ネットの一部だけでしか問題になっていない城内実ブログのトンデモエントリも、底流をなす思想は同じで、渡部昇一や「新しい歴史教科書をつくる会」、メディアでは産経新聞が主導してきた過激な国家主義、すなわち極右思想が台頭しつつあるということだ。ちなみに、渡部昇一は統一協会系の日刊紙『世界日報』ともかかわりが深いことで知られており、一昨年ネットを中心に話題になった、安倍晋三をはじめとする大勢の政治家が統一協会系団体の大会に祝電を送った件も、一連の流れと密接な関係を持っている。
今朝(11月25日)の朝日新聞3面に、「検証・前空幕長論文の底流」と題した記事が掲載されているが、それによると、航空自衛隊のOB会「新生つばさ会」や、10万人を超す自衛隊OBの最大組織「隊友会」には、田母神俊雄に対して、「彼ひとりを孤立させてよいのか」、「会をあげて彼を応援しよう」という意見が相次いでいるそうだ。一方で、隊友会副会長でもある冨澤暉(とみざわ ひかる)・元陸上幕僚長は、「今、私たちが考えるべきことは、田母神氏の言動に同調することではない」と戒めたそうだから、暴走一方という状態でもないようだ。
しかし、上記朝日新聞の記事によると、田母神は、統幕学校の校長時代の2003年、「日本の歴史と伝統への理解を深めさせる」として、「幹部高級課程」の一部カリキュラムに「歴史観・国家観」の講義を新設したそうだ。そして、その講師陣は「つくる会」のメンバーら、田母神と同じ歴史観を持つ極右が多く、これまでに幹部390人が受講した。
さすがに、これは国会で批判を浴び、防衛省は来年度からの見直しを明らかにしているというが、ここで見逃してはならないのは、これまで田母神俊雄のような人物を引き上げてきた政治家たち、具体的には森喜朗、安倍晋三、石破茂らの責任だろう。朝日新聞などのメディアは、田母神までは批判しても、森や安倍らをまともに批判しようとする姿勢さえ見せない。
ただ救いは、右派メディアでも田母神を擁護する動きは少なく、産経は本家本元だし、そもそも花岡信昭なるゴロツキがアパ懸賞論文の審査員を務めていたくらいの確信犯だからどうしようもないが、文春も新潮も田母神を批判する側に回っている。それほど田母神の妄動は危険すぎるのだ。
たとえば、「週刊文春」11月27日号は、「田母神支持「ヤフー・アンケート」はヤラセだった」という記事を掲載している。この記事は、「調布史(ふみ)の会」世話人の松木國俊なる人物が、ヤフーが実施した「田母神発言は是か非か」というアンケートに対して、投票先のURLを明記して田母神への支持を呼びかける「指示メール」を送ったことを暴露している。さらに、このメールを受け取ったある女性がネット右翼が運営するブログにメールを送り、そのブログがアンケートへの投票を呼びかけた。これが他のブログにも広がり、ついにアンケートは田母神支持派が58%を占めるに至ったのである。
当ブログは、この種のネット世論調査は無作為抽出にはなりえず、煽りによって偏った結果が出るのは当たり前と考えているので、アンケートへの投票を呼びかけることはしていないが、この種の呼びかけはもちろん右でも左でもやっていることだ。だが田母神の滑稽なところは、今月11日に行われた参議院外交防衛委員会の参考人招致で「ヤフーの『私を支持するか』『問題があると考えるか』(という意識調査)では、58%がですね、私を支持しております」と堂々と語ったことだ。こんな頭の悪い人物に航空幕僚長が務まったこと自体が、私には信じられない。
ま、田母神の頭の悪さは放っておくことにして、城内実応援の動きについて最後っ屁をかますが、どこか城みちるにも似た、ソフトなムードを漂わせる風貌と、社民党の政治家かと思わせるような主張が並ぶウェブページを持つ城内は、「リベラル・左派」をたぶらかそうとしていたのであろうか。かなり前から、アクセス数の多い著名な「リベラル・平和系」(と思われている)ブログが、右派民族主義者である常連コメンターの勧めに従う形で、かなり前から大々的に城内実応援キャンペーンを張っている。それに積極的に応じて城内の写真をバナーとして貼りつけるブログもあれば、何も言わずに城内と関係のない記事で当該のブログにリンクを張って持ち上げるような、いわば間接的に城内を助けているブログもある。もちろん、中には当該ブログとの友好関係を保ちながらも、城内実を厳しく批判する筋の通ったブログもあるが、それはあくまで例外であって、当該ブログとつるんでいる大部分のブログは、城内実批判を腫れ物に触るように避けているのが実情だ。
ファシズムとは、こんな雰囲気の中から生まれてくるのではないかと思う今日この頃なのである。
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11月8日付のエントリ「田母神俊雄、渡部昇一、元谷外志雄、佐藤優らに呆れる日々」は、当ブログでも有数の人気エントリになっていて、特に「元谷外志雄」を検索語にしたネット検索で訪れてくださる方が多い。
ところが、その私がうかつなことに元谷外志雄の著書『報道されない近現代史』が産経新聞出版から出ていることを知らなかったのである。普通ならブログで本を紹介する時はアマゾンあたりのサイトにリンクを張るのだが、それすらけがらわしいと思ってネット検索もしていなかった。
産経新聞ウォッチャーのvanacoralさんは、11月2日付の「ちょっと陰謀論」というエントリで、田母神俊雄や元谷外志雄の画像やフジサンケイビジネスの宣伝文も盛り込んで紹介してくれているのだが、どうしたわけかこの良エントリを私は見逃していた。
上記フジサンケイビジネスの宣伝文を見ただけでは、元谷の著書は、ちょっと怪しげだなと思わせる程度で、しかもアパのサイトでは佐藤優が絶賛している。だから、ダマされる人も大勢出てくるかもしれないが、本の中身が田母神論文と共通点の多いトンデモであることは、昨日のエントリで紹介した「週刊新潮」の記事にも書かれている。
なんと言っても田母神論文のキモの1つは、コミンテルン陰謀論なのである。産経新聞はこれを広めようと躍起になっているが、この陰謀論は保守派の歴史家からも相手にされていないことはたびたび指摘してきた通りである。
そして、コミンテルン陰謀論に関して、こんなのを見つけた。
http://www.meiseisha.com/katarogu/rekishi-no/kakikae.htm
これは、日本会議という日本最大の右翼団体が発行している「日本会議ブックレット」の中の「日本の息吹ブックレット」シリーズに含まれる、小堀桂一郎と中西輝政による『歴史の書き換えが始まった!?コミンテルンと昭和史の真相』という小冊子である。
自ら歴史修正主義を高らかに謳い上げた小冊子で、小堀と中西はコミンテルン陰謀論を開陳しているのであろう。東大名誉教授の小堀桂一郎は大昔からの著名な極右イデオローグで、私は30年近く前から名前を知っている。また京大大学院教授の中西輝政は、言わずと知れた安倍晋三のイデオローグで、安倍内閣時代に「5人組」と呼ばれたうちの1人だ(当ブログ2006年11月16日付エントリ「安倍晋三につながる極右人脈」参照)。この2人が書いた小冊子の宣伝文句を以下に引用する。
歴史資料公開の「五十年ルール」に伴い、先の大戦にまつわる重要な歴史資料が続々と公開され、その真相が明かされつつある。
謀略に満ちた世界の現実を直視し、いかにして国家の存続を図るか。 それは、幕末明治以来、日本の先人たちが直面し続けた課題でもある。
その対応を困難にしたのは、ほかならぬコミンテルンの国際謀略だったことを明らかにしたのが本書である。
しかも、その根底にある人間不信の原理は、冷戦崩壊後の現在も進行中であり、GHQの占領政策とその固定化としての「戦後レジーム」に入り込み、日本の歴史、伝統、文化を破壊し続けているのである。
そして、小冊子の推薦人には渡部昇一が名を連ねている。
http://www.meiseisha.com/katarogu/rekishi-no/kakikae-suisen.htm
「コミンテルン陰謀史観」は「日本会議」公認のものといっても良いわけだ。
この団体の名前は滅多に新聞に載らないが、改正教育基本法の成立を報じた2006年12月16日付の毎日新聞1面に掲載されたことがある(当ブログ2006年12月16日付エントリ「毎日新聞の報道?改正教育基本法は「改憲へのステップ」」参照)。画期的な報道と思ったが、極右の安倍内閣が倒れた後は、再び「日本会議」の名前は新聞にあまり載らなくなった。だが、極右的人士たちの野望は決して潰えたわけではなかったことが、今回の田母神論文騒動で明らかになったわけだ。
日本会議の関連組織として、超党派の国会議員が所属する日本会議国会議員懇談会があり、その会長を務めているのは平沼赳夫である。この会のメンバーは詳らかではないが、2005年8月時点でのメンバー一覧が、ブログ『ホドロフスキの記録帳』の2008年5月31日付エントリ「平成17年8月時日本会議国会議員懇談会加盟衆議院議員リスト」に出ている(下記URL)。
http://d.hatena.ne.jp/Jodorowsky/20080531#1212214474
これは、『日本の息吹』2005年9月号に掲載されていたリストらしい。貴重な資料である。現首相・麻生太郎や元首相・安倍晋三は当然のごとく名を連ねている一方、前首相・福田康夫やコイズミの名前はない。Wikipediaでは福田康夫もメンバーであるように書かれているが、これは間違いかもしれない。意外にも、森喜朗の名前もない。加藤紘一の名前ももちろんないが、山崎拓はあってもおかしくなさそうなのに名前がない。民主党では、前原誠司、藤井裕久、松原仁、長島昭久らが名を連ねているが、小沢一郎や鳩山由紀夫の名前はない。原口一博や河村たかしら、あっても不思議なさそうな名前もない。国民新党では亀井静香、綿貫民輔らの名前がある。無所属では、郵政造反組の名前が多く、巨魁・平沼赳夫のほか、小林興起や、自称「中道左派(リベラル)」(爆)の城内実の名前がある。
延々と政治家の名前を挙げたが、要は「コミンテルン陰謀論」とは、この人たちが属している極右組織のイデオロギーに則った考え方だということだ。つまり、「文民統制」ができていないのではなく、「文民」があらぬ方向を向いて軍(自衛隊)を「統制」している。だから、私は田母神論文事件は「文民統制」以前の問題だと主張しているのである。
さて、以上を結論にして本エントリを締めくくる予定だったが、2003年以降、小松基地の宿舎の実に3分の1がアパと契約していたというニュースが飛び込んできた。
http://www.asahi.com/national/update/1118/TKY200811180178.html
上記URLの朝日新聞記事から引用する。
防衛省・自衛隊では、他基地から長期で隊員が派遣された際などに、基地外で民間のアパートやホテルなどを宿舎として借り上げている。
防衛省が03年度から08年11月までの小松基地の契約状況を調べたところ、同基地の地元周辺での契約額計約337万円のうち、アパとの契約が106万円で3分の1を占めた。05年度は小松基地の契約額の7割以上をアパが占め、03年度も5割にのぼっていた。原則、随意契約という。
また、アパグループが全国展開するホテルチェーンと、陸海空自衛隊全体の契約では、03年6月から08年11月にかけて、計32件約466万円の利用があり、小松基地の106万円は全体でも2割を占めていることが判明した。演習時などに、基地内の宿舎で間に合わない際に利用されたという。同ホテルチェーンは、防衛省共済組合を通じた契約先の一つで、組合員の自衛隊員は割引があるという。
(朝日新聞 2008年11月18日)
ますます「贈収賄」の匂いを強く漂わせる報道だ。これは「サンデー毎日」が書くように、本当に「第二の守屋事件」に発展するかもしれない。
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朝日や毎日は産経新聞の仇敵だ。だから目を吊り上げて怒るのだろうが、もっと強烈な記事を書いているのが、右翼週刊誌の「週刊新潮」(11月20日号)だ。
そのタイトルも、"「田母神」「国会招致」では解明できなかった「森元首相」と「アパ夫婦」の異様な関係」"という、「サンデー毎日」や「週刊朝日」よりずっとセンセーショナルなものだ。
「週刊新潮」の記事によると、田母神は1998年から99年にかけて第6航空団司令として小松基地に勤務していた頃に首相になる前の森喜朗と知り合った。そして、森はなんと12月8日に明治記念館で行われる田母神らの懸賞論文の表彰式で、発起人代表に就任する予定になっていたというのだ。
表彰式の案内には、「発起人を依頼している方々」として、森のほか、予想通り安倍晋三をはじめとする国内政治家約40人の名前が挙がっているほか、金泳三・韓国元大統領や、李登輝・元台湾総統の名前もあり、合計で120人以上の著名人の名前が列挙されているという。しかし、案内状には発起人を辞退したい場合にはファックスで返信するよう用紙がついていて、用心深い政治家などは辞退したそうだ。だが、森は「田母神論文」が騒動になってから急遽発起人を辞退することにしたそうだし、おそらく安倍晋三も同様なのではないか。
記事は、田母神、元谷、森の三者の親密な関係についてたっぷり書いている。元谷は、1971年に小松市内で不動産関連業を始めたが、小松は石川2区、つまり森の選挙区の町だ。アパグループが発行する雑誌「アップルタウン」の2003年2月号にも森と元谷夫妻の対談が掲載されている。元谷はケチで有名だが、森には政治献金をしているそうだ。森が支部長を務める自民党石川県第2選挙区支部に、2003年から05年にかけてアパホテルと元請設計会社から計72万円の献金がなされていた。
さらに、昨年11月に千葉県幕張の「アパホテル&リゾート東京ベイ幕張」で行われた元谷夫妻の次男の結婚披露宴に、森は主賓として出席した。また、今年6月2日に同じホテルで行われた元谷の著作『報道されない近現代史』の出版記念パーティーでも、森は出席こそしなかったものの、発起人としてお祝いのビデオレターを会場に流した。これには田母神も出席していたという。
この元谷の著書を佐藤優が絶賛していることは、11月7日付エントリ「田母神俊雄、渡部昇一、元谷外志雄、佐藤優らに呆れる日々」にも書いたが、その内容の一端が「週刊新潮」の記事からうかがえる。以下引用する。
ところで、先の元谷代表の著作と田母神論文とでは共通点が多数ある。
日米開戦はルーズベルトの陰謀で、背後にコミンテルン(共産主義の国際組織)の影響があったこと、戦前の日本のアジア進出は、欧米諸国のような植民地ではなく、教育やインフラ整備を施すなど「内地化」であったことなど。論文審査には元谷代表も関わっているが、はたして額面通りの最優秀賞だったのか。防衛省関係者はこう話す。
「田母神氏の論文が最優秀賞を取ったのは疑問に思う。他にも航空自衛官94人が論文に応募していたのが分かったわけですが、応募総数は235人ですから、自衛官の論文はそのうちの4割を占めることになる。しかも佐官や尉官などの幹部ばかり。彼らは、自身の階級を上げるため常日頃から勉強している、現役バリバリです。が、田母神氏以外の自衛官は1人として佳作すら受賞していない。4割も応募しているわけですから、1人ぐらい受賞してもおかしくないはず。だから省内でもアパによる田母神氏への "利益供与" ではないかと囁かれているのです」
(「週刊新潮」 2008年11月20日号掲載 "「田母神」「国会招致」では解明できなかった「森元首相」と「アパ夫婦」の異様な関係」" より)
佐藤優が絶賛した元谷の著書とは、やはり陰謀史観に満ち満ちたトンデモ本のようだ。これを、常日頃佐藤を持ち上げている人たちはどう申し開きするのか、それを聞きたい。
また、花岡信昭大センセイには、是非とも「週刊新潮」も厳しい批判の対象とすることをオススメするとともに、「週刊新潮」の記事に書かれている「防衛省内の声」に対しても、ご見解を賜りたいと思う今日この頃である。
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こういう問題に関しては、まだまだ朝日新聞と毎日新聞も生きているとも思う。両紙は、経済問題についてはまるでダメだが、安全保障の問題では、まだ「連盟よさらば!我が代表堂々退場す」という見出しで朝日新聞が日本の国際連盟脱退をほめたたえた翼賛報道の段階にはきていない。「いつか来た道」を警戒する論調が紙面では支配的だ。
一方、昭和初期の段階に踏み込んでいるのは自民党の議員たちである。nesskoさんのコメントで教えていただいたのだが、自民党参議院議員・佐藤正久が、自民党国防関係合同部会における紛糾の模様を描いた文章をウェブサイトに公開している(下記URL)。
http://east.tegelog.jp/?blogid=24?catid=164&itemid=1934
以下引用する。
また自衛官の教育に関しては、防衛省側から「歴史教育をしっかりやりたい」との発言に、「政治将校をつくるのか」「憲法違反の恐れがある」と批判が集中した。
本日の部会において、最も紛糾したのは、11月9日付の毎日新聞に掲載された五百旗頭真・防衛大学校校長の論文だった。この論文では、今回の田母神さんの空幕長解任に触れ、「これに関連して想起するのは、1928年の張作霖爆殺事件である」として、「軍部に対するブレーキが利かないという疾患によって、日本は滅亡への軌道に乗った<中略>このたびの即日の更迭はシビリアンコントロールを貫徹する上で、意義深い決断であると思う」と綴られている。
ある議員が問題視したのは、今回の田母神論文事案と張作霖爆殺事件を同一視しているという点と、あわせて、この五百旗頭論文は「部外への意見発表」であるが、その手続きがなされていたのか、という点だった。
防衛省は、手続きの有無について、即座に答えられず、また論文の内容については確認していない、との発言があり、議員の間からは、「これこそ懲戒の必要があるのではないか」との怒号にも似た声が相次いだ。
(佐藤正久オフィシャルページ掲載 「国防部会、田母神論文事案で紛糾す」より)
ここで言及されている、11月9日付毎日新聞掲載の五百旗頭真(いおきべ まこと)の論文は、同紙のウェブサイト「毎日jp」には掲載されていないようだ。五百旗頭は神戸大学名誉教授で、現在防衛大学校校長を務めており、猪木正道に師事した穏健保守の学者である。上記引用部分から読める五百旗頭の主張は、私から見ると正論としか思えないのだが、産経新聞の「正論」を信奉する右翼の自民党議員にとってはもってのほかなのだろう。
いずれにしても、朝日新聞や毎日新聞が保守派の論客による正論を掲載し、それに自民党議員が極右側から噛みつく構図になっている。もちろん、民主党にも同様の意見を持つ極右議員は結構多い。
さて、本エントリの後半では、「サンデー毎日」の記事を紹介する。いちおう、開店休業状態の「毎日新聞叩きに反対するキャンペーン」の一環にもなるかなと思う。「サンデー毎日」は編集長が交代してから鋭く権力を批判する記事が減ったのではないかと危惧しているのだが、11月23日号では久々に同誌らしく、前航空幕僚長・田母神俊雄とアパグループ代表・元谷外志雄の「F-15戦闘機体験搭乗」を批判する記事を掲載している。
この件は、先週、朝日新聞に報じられた。以下引用する。
元谷氏は07年8月、小松基地でF15戦闘機に体験搭乗。その時の写真は元谷氏の著書に収められている。航空幕僚監部広報室は「広報活動の一環で、小松基地金沢友の会の会長として搭乗してもらった」と説明する。
元谷氏は朝日新聞社の取材に対し、田母神氏に論文の応募を依頼したことはないと説明している。「毎月送っているアップルタウンの告知で気づいたのではないか。まさか航空幕僚長が応募してくれるとは思わなかった」。田母神氏の論文は8月に届いた。他の航空自衛官の応募作78編も含む235編が、執筆者名を伏せた形で審査されたという。その結果、元谷氏のペンネームを冠した最優秀賞に田母神氏が選ばれ、300万円の懸賞金を受け取ることになった。
(朝日新聞 2008年11月8日 10時4分)
「サンデー毎日」の記事はさらに踏み込んで、元谷外志雄らに小松基地の方から体験搭乗の案内をしたこと、そのお伺いを立てる「進達文書」という内部文書に最終決裁し、許可を与えたのが田母神俊雄であることを自衛隊関係者からの取材によって明らかにして、公務員が第三者に便宜を図り、懸賞金という名の現金を受け取る構図は、「贈収賄」に当たるのではないかと書く。そして、問題発覚直後に麻生政権が素早く田母神を更迭したのは、文民統制の問題のほか、「刑事事件に発展する恐れがある」とみなされたためではないかと推測している。
記事はさらに、航空自衛隊出身の参院議員だった田村秀昭(国民新党、小沢一郎の元側近)が今年1月に死去して(昨年の参院選に立候補せず引退していた)、自衛隊出身の国会議員が陸上自衛隊出身の中谷元(自民党)と前述の佐藤正久(同)の2人しかいなくなったため、田母神を次期参院選の候補者にしてはどうかという話まで持ち上がっていたと伝えている。まったくもってとんでもない話である。
この問題の背後には、森喜朗や安倍晋三もいる。彼らをも巻き込んで、「サンデー毎日」が書くように、「第二の守屋事件」に発展すれば面白いのだが、政治家まで到達しなかった守屋事件同様、どうせまた尻すぼみに終わってしまうのだろうと半ばあきらめている今日この頃である。
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http://mainichi.jp/select/today/news/20081111k0000m010078000c.html
リンクを張った毎日新聞の記事によると、
とのことだ。野党側は、田母神氏の在職当時の歴史観などを改めて問い、政治家が自衛隊を統制する文民統制(シビリアンコントロール)の観点から政府を追及する構えだ
今回の田母神の一件でよく引き合いに出されるのは、1978年に統合幕僚会議議長だった栗栖弘臣が「週刊ポスト」誌上で行った「超法規発言」だ。同誌のインタビューで栗栖は、「現行の自衛隊法には穴があり、奇襲侵略を受けた場合、首相の防衛出動命令が出るまで動けない。第一線部隊指揮官が超法規的行動に出ることはあり得る」と発言した。栗栖のこの発言が、文民統制(シビリアン・コントロール)の観点から不適切であるとして、防衛庁長官・金丸信(当時)に事実上解任されたのだが、福田赳夫首相(当時)は閣議で有事立法・有事法制の研究促進と民間防衛体制の検討を防衛庁に指示し、これがたいへんな議論を巻き起こした。当時高校生だった私にとっては非常に印象に強く残った一件で、「福田赳夫イコールタカ派」を印象づけたし、この頃から強まった日本の右傾化が、その後の30年の流れを決定づけたと私は考えている。だから、昨年から1年間政権を担った福田康夫前首相が、前任者・安倍晋三の極右路線を修正してアジア重視の外交に舵を切ろうとしたのを見て、親子で方向性が逆だなと思ったものだ。だが、絶対位置で見れば、福田康夫より父の福田赳夫の方がずっとリベラルであって、30年前には周囲と比較して福田赳夫は「右」、昨年から今年にかけては周囲と比較して福田康夫は「左」だったのだが、その「周囲」が30年前と比較して今はあまりにも右に偏っているということだ。
今回の田母神の一件を栗栖弘臣の「超法規発言」と比較するのは、私には抵抗がある。栗栖の時には文民統制が問題になったが、今回はもちろん文民統制の問題もあるけれど、それ以前の問題が噴出してきているように思えるからだ。
それ以前の問題というのは、今朝(11月11日)の朝日新聞2面で秦郁彦と保阪正康にも批判されている、幼稚な陰謀論を取り入れた田母神の妄想に満ちた歴史観のことで、あんな馬鹿なことは栗栖弘臣はもちろん言わなかった。だから、田母神俊雄を栗栖弘臣と比較するのは、栗栖に失礼だと私は思う。
さらに問題なのは、毎日新聞も指摘しているように、田母神が自説の「正しさ」を盾に、任命権者である防衛相の辞職要請を拒んだことだ。以下毎日新聞から引用する。
田母神(たもがみ)俊雄前空幕長(60)は10月31日に航空幕僚監部付に更迭され、併せて辞表の提出を求められたにもかかわらず、拒否し続けた。「辞めたら間違いを認めることになる」が理由だった。
浜田靖一防衛相や増田好平防衛事務次官らと押し問答が続く最中、田母神氏は「私の考えは理解されている」として唐突に元首相2人の名前を挙げた。
増田氏は、元首相らの支援があるかのような田母神氏の姿勢に身構えた。発言を伝え聞いた自衛隊首脳は「武人のすることじゃない」と激怒したという。ただ、政界との関係が焦点化しないよう、やりとりは封印された。
関係者によると、田母神氏が口にした一人は森喜朗元首相だという。森氏の地元、空自小松基地(石川県)に勤務したことで接点はあった。空自幹部は「森さんは歴代の小松基地幹部と親交がある。田母神さんの空幕長就任時にも森さんから祝い酒が届いた」と話す。
森氏は12月の懸賞論文授賞式に招待されていたが、今回の騒ぎでキャンセルした。森氏は、近隣諸国の植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」(95年)の取りまとめに自民党幹事長としてかかわった。
森氏周辺は「田母神氏との思想的なつながりはまったくない」と強調しており、田母神氏は自己の主張を正当化するために元首相の名前を利用し、抵抗したとみられる。
(毎日新聞 2008年11月9日 東京朝刊より)
この記事には田母神が名前を挙げたもう一人の元首相の名前が書かれていない。だが、11月10日の「きっこの日記」には、安倍晋三であると書かれている。アクセス数の多いきっこさんのところにはいろいろ情報が寄せられるようだから、おそらく間違いないだろうと思う。何度も書くが、アパの会長・元谷外志雄は安倍の非公式後援会「安晋会」の副会長であり、田母神はその元谷と十年来の深いつきあいがあった。
森喜朗と安倍晋三は、ともに幼稚な極右思想を持っている点で共通している。森は、首相在任中の2000年5月15日、神道政治連盟国会議員懇談会においてが行った挨拶で、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知していただく、そのために我々(=神政連関係議員)が頑張ってきた」という発言をした。また、安倍は森以上にエキセントリックな極右政治家で、首相在任中、国民生活が困窮の度を深めているにもかかわらず、憲法改定しか頭にないとしか思えないイデオロギー政治に邁進し、教育基本法を改定して「真正保守」たちの評価を得たものの大多数の国民からは総スカンを食らい、昨年の参院選で歴史的な惨敗を喫して退陣に追い込まれた。教育といえば、麻生太郎内閣が発足したばかりの頃、中山成彬が暴言を連発して辞任に追い込まれたが、中山の日教組批判は、森や安倍の持論とそっくり同じである。
以上のことを考慮すると、田母神が「私の思想は森元首相や安倍元首相と同じもので、この2人の元首相からも支持されている」と発言したことも、さもありなんと思えるのである。つまり、森喜朗と安倍晋三も、元首相でありながら政府見解を否定する思想を持っているということだ。
一方、自民党の政治家の中でも、石破茂あたりは戦争中の日本を「遅れてきた侵略国家」と見ており、アパの懸賞論文で審査委員長を務めた渡部昇一に雑誌「WiLL」6月号で「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」と批判されたとのことである。
当たり前のことを言ったに過ぎないこの石破のブログ記事には、田母神を支持するネット右翼の反論だとか石破をやたら持ち上げるお追従のコメントが多数ついていて、めまいがしてくるが、石破はイージス艦衝突事件の際に危機管理能力のなさをさらけ出した無能な世襲議員であることだけは思い出しておきたい。当ブログも2月29日付エントリ「危機管理能力ゼロの石破茂、福田康夫、それに自民党」で石破を批判した。
しかし、歴史観だけから言えば石破はまともで、田母神や森喜朗、安倍晋三らには問題がある。民主党をはじめとする野党は、文民統制の観点から質問をする予定とのことだが、それ以前に田母神のような人物がなぜ航空幕僚長にまで登りつめることができたのか、そこには極右思想を持ち、自ら政府見解を否定する元首相たちの影響力があったのではないか、そちらの方が重要だと思う。統制される側より統制する側の方がより深刻な問題を抱えているのである。
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