非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本よ、これが政治主導だ

2012-11-05 23:04:25 | 政治・国際

文科相 3大学新設認めず 審議会の答申を覆す(産経新聞)

 田中真紀子文部科学相は2日、大学の設置認可制度を抜本的に見直す考えを表明し、平成25年度に大学の新設を予定していた秋田公立美術大(秋田市)、札幌保健医療大(札幌市)、岡崎女子大(愛知県岡崎市)の申請を不認可とした。大学設置・学校法人審議会は「新設を認める」と答申していたが、田中文科相が政策的判断として覆した。答申通りに認可されないのは過去30年間で初めてといい、極めて異例。

 3大学はいずれも短大や専門学校からの改組で、申請に不備はなかったが、来春の開校は不可能となる。

 田中文科相は閣議後の記者会見で「大学が全国で約800校ある中、大学教育の質がかなり低下しており、就職ができないことにもつながる」と述べた。

 同省によると、同審議会の委員は、計29人中22人が学長や教授ら大学関係者で構成されている。田中文科相は「大半の委員が大学(関係者)で、大学同士がお互いに検討している」と述べ、委員の構成に問題があるとの認識を示した。

 

 一つ前に取り上げた河野太郎もそうですが、この田中真紀子も同様、単に親が偉かっただけの人に権力を持たせるべきではないとの思いを今まで以上に強くさせられる事態が起こっています(伝説の勇者の子孫とかじゃないんですから!)。同時に政治主導の弊害もまた痛感させられるところでしょうか。「官」の仕事に難癖を付けることで政治家が働いている風を装ってきた民主党政治の象徴とも言えるところですが、巻き込まれる人間はたまったものではありません。でも、こんな連中を与党にしてしまったのもまた我が国の有権者です。

 

田中文科相考え直して…編入希望絶たれた短大生(読売新聞)

 「到底承服できない」――。文部科学相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」が認めていた大学3校の来春開校に2日、田中文科相がストップをかけたことに、大学の地元から強い反発が噴き出した。

 「大学が多すぎ、質が低下している」。不認可決定はそのような理由だったが、3校に落ち度はなかった。開校を見込んで準備を進めてきた学生や大学側は突然の決定に振り回され、激しい動揺が広がった。

(中略)

 秋田市の穂積志市長は記者会見し、「我々は審議会から示された審査基準を一つひとつクリアしてきた。審議会は大臣の諮問機関であり、そこで許可したものを大臣が覆すのは行き過ぎだ」と怒りをぶつけた。近く文科省を訪ね、不認可の撤回を求めるという。

 3年前から札幌保健医療大(札幌市)の新設準備を進めてきた学校法人「吉田学園」には1週間前、文科省から「認可に少し時間がかかっているが、手続きに問題はない」と説明があったばかりだった。それだけに鈴木隆・大学設置準備室長は「不認可」の連絡を受け、「あまりに唐突。とても受け入れられない」と憤る。教員約30人は既に内定済み。現在の職場に退職届を提出した人もいる。

 来春、4年制大学の岡崎女子大(愛知県岡崎市)を開設予定だった学校法人「清光学園」の長柄孝彦理事長は2日夕、緊急記者会見を開き、「文科省が示している基準をすべてクリアしているのに認可されないのは理不尽。はい、わかりましたとは言えない」と語気を強めた。校舎の改修や備品の購入費としてすでに2億7000万円を投じ、来春から専任教員として新たに12人の採用を内定していた。

 

 似たようなことは、電力……というより原発周りでも繰り返されてきました。国が示した基準を電力会社がクリアしても、政府は首を縦に振らずに基準を作り替えては再稼働への認可を先送りにするばかり、もはや電力会社側にはどうにもならない状況を作ってきたわけです。今までは民主党政権の無責任さに振り回されるのが専ら世間の憎悪の対象であった電力会社だけに、このアンフェアな対応が批判に晒されることはありませんでした。しかし、対象がいつまでも電力会社に限られていると、そう考えるのは浅はかと言うものではないでしょうかね。今回のように文科省が示してきた基準をクリアし、諮問機関による許可が下りていたにも関わらず政治判断で決定が覆されてしまう、似たような事態は今後とも起こりうる、他の領域でも起こりうるものと身構えておいた方が良さそうに思います。

 「大学が全国で約800校ある中、大学教育の質がかなり低下しており、就職ができないことにもつながる」と、田中真紀子は述べました。ただ日本の大学は多いのか、日本の大学進学率はようやく50%を超えた程度、必ずしも大学進学者の多い国ではありません。「一握りのエリート(大卒)と多数の単純労働者(高卒以下)」という社会を目指すのならいざ知らず、「普通の」先進国であろうとするのなら大学新設はまだまだ足りないと言えます。教育の質に関しては数値化が難しい分野ではありますが、では大学新設を抑えることで質の向上が見込まれるものなのか、むしろ大学を増やして互いに競わせることで質が向上云々という意見があっても良さそうなものです。競争賛美の社会において、大学の新規参入が阻まれるというのも矛盾した話でしょう。

 そして就職面ではどうなのか。高卒の方が4年制大学の卒業者よりも就職に有利というのならいざ知らず、大学で学んだことは問われずとも大卒であることは求められるような社会において、大学進学の道を閉ざされることの影響は甚大です。大卒1~2年の段階で採用を決めてしまうユニクロが象徴するように、日本の企業は大学で学んだことなど問いません。ただ大卒であることを条件とするのみ、です(まぁ大学のネームバリューもまた無視できませんが)。教育の質なんて関係ない、大学を出ることが重要――そういう雇用(採用)慣行が根付いている中で大学教育の質を問うのも順序が違うのではないでしょうか。ちなみに開校を阻まれた札幌保健医療大は「看護学部」です。これは就職先が完全に限定されてしまう一方で就職率は高い学部なのですが……

 田中真紀子のような生まれながらの特権階級にしてみれば、下々の人間が大学に入って知恵を付けるような事態は苛立たしい、大学進学率の急増には忸怩たる思い出もあるのでしょうか。同時に経済誌を読んで「分かったつもり」になった人が陥る典型的な過ちを踏襲しているとも言えます。確かにコンサルの類が書く記事では、それもこれも大学生が増えすぎたせいなのだ!みたいな主張が繰り返されている、そして田中真紀子も経済誌(≠現実!)で活躍するコンサルタント張りの見解を披露しているわけです。「分かっているフリ」をするならそれで良いのかも知れません。しかし上で書いたように日本の大学進学率は必ずしも高くないですし、大学進学率が急増したのはバブル崩壊と歩調を合わせてのことです。大学に進む人が増えたのは、高卒でも採用(企業)側からチヤホヤされた時代が終わってからだということを直視すべきでしょう。

 大学設置・学校法人審議会は「大半の委員が大学(関係者)で、大学同士がお互いに検討している」とのこと。では、大学とは縁もゆかりもなければ専門知識もなく実情にも全くもって疎い、例えば田中真紀子みたいな素人を起用すれば事態は改善されるのでしょうか? これまでの審議会の在り方が完全無欠なものであったとは思いませんけれど、少なくとも無関係な人間の床屋政談よりは信頼の置けるものであったはずです。エセ科学とか代替医療とか、そして昨今の原発問題とか、とかく専門家を敵視しては客観性に欠けた空想の産物を称揚するノリも強いですが、彼らにできるのは世間を惑わし混乱させることだけ、それは言うまでもなく教育分野においても同じことです。

 

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