ケースワーカーが精神障害がある男性に「知能が足んない」 市が陳謝(朝日新聞)
東京都八王子市の30代のケースワーカーの男性職員が、精神障害がある男性(41)から相談を受けた際、「自殺未遂したからって容赦しねえぞ」「知能が足んない」などと発言していたことがわかった。男性は20日、市に対応改善などを求める意見書を提出。市は陳謝した。
男性の代理人弁護士らによると、男性は11月、受給する生活保護の法解釈などをめぐって市役所窓口で職員と話した後、パニック発作を起こし、庁舎内で自殺を図った。12月1日、男性は改めて市に電話し、職員とのやりとりを録音した。
職員は「何、うそついてるんだよ。いい加減にしろよ、お前よう」「自殺未遂したからってな、容赦しねえぞ」と繰りかえした。「自分に頭が足んないって分かってるんだったら、おとなしくしてなよ」「知能が足んないってことだよ」とも述べた。凶悪犯罪者と男性を結びつけるような発言もあった。
職員は生活保護受給をめぐる収入認定についても、「自殺未遂しようと何しようが変わんない」として、誤った解釈を押し通した。
男性は「間違った説明をされた上、人格を否定され、あおられ、精神的苦痛を感じた」と話す。市側は「申し訳ない発言だった。あらためて職員に対して研修を行いたい」と述べた。(高田誠)
色々と思うところはありますが、この30代のケースワーカーは正規職員なのか非正規なのかも気になりますね。生活保護の打ち切りや申請の拒絶など、水際作戦の成果次第で次年度の契約が左右される立場であったなら、同情しないでもありません。生活保護の給付を阻止できず自治体の財政に損害を与えたとして、評価を下げられ職を失う非正規職員も結構いるでしょうから。
「市は陳謝した」「職員に対して研修」云々とのこと、生活保護受給者を巡る処遇であれば、これぐらいが相場のようです。過去には小田原市で職員が生活保護受給者を罵倒する文面の入ったグッズを製作・販売し、受給者訪問時の着用も10年ばかり続けていたなんてことがありました。これが問題視されるようになったのは2017年のことですが、市はグッズを製作した職員を処分しない方針を表明するなど、生活保護受給者相手であれば許される、というのが行政の認識なのだと思われます。
参考、【改善させました!】「保護なめんなジャンパー」の小田原市ホームページは制度を利用させない「仕掛け」が満載だった。(稲葉剛公式サイト)
この小田原市でも当時、生活保護制度について誤った説明を市の公式ホームページに掲載しており、上記のグッズ製作が報道され問題視されてから慌てて正しい記載に修正するなどあったようです。小田原固有の問題でないであろうことは、今回の八王子の事例からも窺われます。虚偽の説明を行ってでも生活保護は退けたいというのが自治体の統一見解なのでしょう。
何らかの事件で関係者の「人となり」が報道されることはよくあります。しばしば被害者側の故人が、ちょっと気持ち悪いレベルで肯定的に持ち上げられていたりするものですけれど、今回のケースワーカーの場合はどうだったのか興味深いところです。水際作戦のエースとして市からは高く評価されていなかったか等々、報道各社にはそこまで突っ込んで欲しい気がします。
なお「知能が足んない」と市の担当者が受給者を評価しているわけですが、本当にそうであるならば生活保護受給にふさわしいと言えます。有能なら就職してくださいという話になりますが、逆なら拒む理由はないでしょう。ただ、実際には代理人弁護士を立てたり発言を録音したりと、それだけの行動力があって始めて生活保護受給にたどり着けたんだろうな、という解釈も出来ます。
本当に無能なら、役所の窓口を突破できないのが現状です。結果として生活保護水準以下の──健康で文化的な生活を送るには無理のある──賃金で働く人もいれば餓死する人もいる、これが我が国の社会保障です。そして行政サイドが水際作戦に励む一方、民間でもあれやこれやと不正受給のエピソードを語り伝えては生活保護受給者の社会的評価を貶めていくことで、行政を間接的に支えてきたとも言えないでしょうか。
先日は、まず日本は「普通の資本主義」を目指すべきと書きました。我が国の普通ではない資本主義の特徴の一つに著しい失業率の低さが挙げられます。日本という不思議の国では、不況なのに失業率は低いまま、失業率は低いけれど国民の所得水準は高くない、完全雇用に等しい状況が続く期間ですらGDPも給与も全く伸びない等々、資本主義の常識は全く通用しないのです。
原因の一つに、生活保護水準を下回る低賃金の仕事が市場に溢れており、そこで働く人が多いことが挙げられます。中には生活保護の申請を申請を拒まれた人もいる、生活保護受給者に向けて作られたネガティブなイメージを信じ、そうなりたくないと思って、より取り分の少ない職を選んでしまった人もいることでしょう。取り敢えずこれが健全であるとは、私は思いませんね。