非国民通信

ノーモア・コイズミ

イスラエルにとっては良い結果、シリア国民にとっては別の話

2024-12-15 21:33:43 | 政治・国際

 先般はシリアのアサド政権が瞬く間に崩壊してしまったわけですが、その後に待ち受けるものについて考えてみたいと思います。まず前提知識として、シリアには大別して5つの政権支配下に属さない勢力が割拠していました。ゴラン高原を不法占拠するイスラエル、クルド人問題を口実にシリア領内へ一方的に「緩衝地帯」を築いたトルコ、このトルコと対立するクルド人勢力、油田地帯に駐留するアメリカ軍とその傀儡勢力、そして以前はヌスラ戦線とも呼ばれていたシャーム解放機構(タハリール・アル=シャーム、HTS)です。ここでシャーム解放機構が驚くべき短期間で主要都市を制圧、アサド大統領はロシアへ亡命し新政権が樹立されようとしているのが今ですが、これから先はどうなるのでしょうか。

 シャーム解放機構が専らアサド政権の残党狩りに精を出している一方で、イスラエルはゴラン高原からさらに兵を進めて占領地を拡大しており、これに抵抗する勢力は見られません。トルコの傀儡勢力もまたクルド人勢力の支配地への攻勢を強めている他、アメリカ軍もISの残党云々を口実に要所への攻撃を行っており、シリアを取り巻く3つの外国勢力にとっては絶好機が訪れていると言えます。もしシャーム解放機構がシリア全土の支配を目論んでいるのならば外国勢力の侵略にも抵抗する必要があるはずですが、今のところその様子は垣間見えず分割統治を前提に裏で話が付いているのかと疑わしく思えるところすらあります。

 このシャーム解放機構はアルカイダに起源を持ち、国際テロ組織にも指定されています。イスラエルやアメリカ、トルコに好都合な現状を肯定的に見せかけようとする人々からは、既にアルカイダとは決別化した、現在は穏健化していると評されるところですが、実態はいかほどのものでしょうか。取り敢えず明らかになっているのは、アサド政権崩壊を好機と支配地域の拡大を目論むイスラエルやトルコの動きには何ら有効なアクションを見せていない、ということです。

 一方でアサド政権を支援してきた国々からするとどうでしょう。ロシアからすると、基地の租借に関する前政権との合意を新政権が引き継ぐか次第です。ロシアがアサド政権から得ていたのは単純に中東における軍の駐留拠点という「場所」であり、それさえ維持できれば大きな問題にはなりません。逆にシリア側からするとロシアからの食料や肥料は今後も必要になるだけに、損得で言えばロシアとの関係は維持したいはずです。しかし裏でアメリカ・イスラエル・トルコと取引が成立しているとすれば、食糧危機のリスクを無視してでも新政権がロシア軍排除に動く可能性は否定できません。

 そして苦境に追い込まれたのがイランであり、イランが支援してきたヒズボラ、パレスチナです。これまでイランはイラクとシリアを経由してヒズボラに物資を供給してきた、そのヒズボラがパレスチナを援護してきたわけですが、この供給ルートが遮断されることでヒズボラも孤立、ガザも孤立を避けられなくなりました。アサド政権の崩壊によって、中東におけるイスラエルとイラン・パレスチナの争いは前者が劇的に優位に立ったと言えるでしょう。

 

ドイツ代表どころか国も揺るがす“エジルとギュンドアン”の禍根(footballista)

 ところが、5月にエジルとギュンドアンが独裁的なトルコの大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンと面会した後、その融合が本当にうまくいっているのか、疑問視されるようになっている。国家主義的な考え方が広まり、右翼的な「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第一党となっている現在、最も関心の高いテーマである。

 問題となったのは、トルコ企業が用意したロンドンでのレセプションで、エジルと一緒にエルドアン大統領と記念写真に収まったギュンドアンが用意していたマンチェスターCのユニフォームに入っていた「私の大統領へ。敬具」というメッセージだった。

 「人権を無視し、ジャーナリストを監禁するような独裁的政治家へのシンパシーを表明しながら、ドイツの最も重要なチームのためにプレーするなんてとんでもない」という批判の声が上がれば、『ターゲスシュピーゲル』紙も「2人は、国を一つにまとめるということの価値を疑問視している」と指摘。さらに、アンケートに答えた70%の人たちが、彼らを代表チームに招集するべきでないと答えたのだ。

 

 これは2018年の記事ですが、ドイツ代表のサッカー選手でトルコにルーツを持つ二人がエルドアン大統領と記念写真を撮影したところ、ドイツ代表からの追放論が沸き起こりました。今では考えられないことですが、当時はエルドアンこそが欧米の認定する「悪」であり、そんな「独裁者」との関係は忌まわしいものと扱われていたことが分かります。しかし現在のエルドアン及びトルコの欧米からの扱いはどうでしょうか。今でもアサド政権崩壊を好機と隣国で支配地域を拡大しようとする国の大統領のはずが、非難らしい非難を受けることもなくなっているわけです。

 かつてエルドアンが非難されてきた理由の一つには、クルド人問題があります。エルドアン側の言い分としては、あくまでテロリストに限定して取り締まっているだけ、しかし欧米からはクルド人全般を見境なく弾圧しているものと、昔はそう扱われていたものです。とりわけ北欧のスウェーデンなどは、トルコからテロ組織として指定されたクルド人武装勢力(PKK)の関係者を数多く受け入れており、相互に非難し合う間柄でした。

 転機が訪れたのは2022年で、ここから欧米(及び日本)にとってロシアが最大の悪に変わったのは記憶に新しいところかと思います。さらにスウェーデンとフィンランドがNATOというロシア包囲網に加わるに当たり、既存加盟国の承認が必要になった=即ちトルコが首を縦に振る必要が出てきたわけです。その結果としてクルド人問題で欧米は折れた、エルドアン側の言い分が全面的に受け入れられ、スウェーデンは亡命してきたクルド人勢力の構成員をトルコに引き渡す結果となりました。ロシア包囲網を強化するため、クルド人は欧米から切り捨てられてしまったと言えます。

 この後、エルドアンを糾弾する声は欧米からは全く聞こえなくなりました。日本でも俄にクルド人バッシングが盛り上がり現在に至ります。かつては悪の独裁者であったエルドアンはNATOの価値観を共有する同志となり、国外のクルド人は迫害から逃れてきた民族から治安を乱す不法な移民へと変わりました。しかし変わったのはエルドアンでもクルド人でもないはずです。変わったのは欧米からの目線であり、二重どころでは済まないレベルで基準が動いた過ぎません。

 今、シリアではトルコの傀儡勢力がクルド人の支配地域攻略を目論んでいます。かつてはアメリカがクルド人勢力を支援しており、これが2022年よりも前であったら決して起こらなかったことでしょう。しかしトルコがスウェーデンのNATO加盟を承認するための取引として、クルド人は切り捨てられました。自称・国際社会こと欧米諸国の間では、今やエルドアン側の言い分が正しい、トルコが攻撃しているのはクルド人の中でもテロリストだけであり、決してクルド人全般を弾圧しているのではない、そういう風に決まってしまったわけです。

 アサド政権だってそんなものだろうな、と思います。アサドが強権的に取り締まってきた対象にはISILの構成員や外国の工作員もいる、ただイスラエルと対立しロシアやイランと協力関係にある、パレスチナを支援するヒズボラの補給ルートでもあったが故に、より大きな「悪」として描かれてきました。これが逆にアメリカやイスラエルの傀儡であったなら、評価は変わっていたように思います。もしアサド政権がアメリカに協力してヒズボラの供給ルートを断つ上で重要な役割を果たしていたのなら、彼が人道面で非難を受けることはなかったはずです。

 何はともあれアサド政権は打倒され、元・アルカイダのシャーム解放機構が首都を占拠しました。そしてイスラエルが南部から侵攻を続け、トルコがクルド人支配地域を自身の勢力圏に収めようとしている、油田地帯は引き続きアメリカ軍が駐留したままです。勝者(イスラエル、トルコ、アメリカ)と敗者(イラン、ヒズボラ、パレスチナ)は明確になりましたけれど、ではシリア国民は果たしてどちらに入るのでしょうね?

 イスラエルやアメリカにとって好都合な現状を肯定的に見せかけるべく、ここぞとばかりにアサド政権の非道を糾弾するメディアや論者は少なくありません。イスラエルやアメリカにとって良いことは、その国の住民にとっても良いことであると、そう信じている人もきっと多いのでしょう。ただまぁ独裁者が打倒されて欧米諸国から大いに賞賛されたはずのリビアなどでは、カダフィ時代よりもずっと酷い混乱状態が続いていたりします。アサド政権に問題がなかったとまでは思わないですが、その打倒がシリア国民にとって良いものであるかどうかは、少なくとも今の時点では保証できませんね。

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目次

2024-12-15 00:00:00 | 目次

 

社会       最終更新  2024/10/27

雇用・経済    最終更新  2024/ 9/15

政治・国際    最終更新  2024/12/15

文芸欄      最終更新  2024/12/14

編集雑記・小ネタ 最終更新  2024/10/ 9

特集:ロシアとウクライナを巡る基礎知識、現在に至るまでの経緯

序文 第一章 第二章 第三章 第四章 おまけ

 

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自由律俳句10

2024-12-14 21:15:55 | 文芸欄

 

たとえ組合が許しても 我は許さじ

― 管 理人 ―

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ネオコン勢力の反攻

2024-12-08 21:41:21 | 政治・国際

 日本の政治を巡っても話題は尽きない昨今ですが、ただ主立った野党も政策面では与党と大きな隔たりがない、結局のところ日本の政治は安定しているのだ、というのが私の評価になります。一方で諸外国に目を向けると危機的と呼んでもおかしくない事態が相次いでいるようです。変わらない日本の政治と、何かの拍子に激変してしまう国の政治、日本の企業文化では「変化」を称揚しがちですけれど、変わることそのものに価値を置いてしまうのはどうなんだろうな、と思わないでもありません。

 どこから触れていけば良いのか迷うところですが、まずはアメリカでしょうか。こちらはバイデンという古典的政治家からトランプという支離滅裂な御仁への大統領交代が迫っているわけです。今後に向けてアメリカ国内の混乱も予想されますが、より先に影響が見込まれるのは国際戦略面で、積極的な介入を好むネオコンの理念に忠実だったバイデンとは異なり、アメリカの覇権のためであろうとも国外への支出を厭うトランプへの代替わりによって、勢力図が変わってくる地域も出てくることでしょう。

 一つはロシア・ウクライナ方面で、アメリカの鉄砲玉として戦ってきたウクライナは梯子を外されようとしています。アメリカを皮切りにイギリス・フランスと衛星国が次々と長射程兵器の使用制限を緩和し始めたのは、トランプ政権発足を控えて事態を不可逆的にエスカレートさせる思惑あっての決断と言うほかありません。アメリカ陣営に敗北があってはならない、そのためにはどんな犠牲をも厭わない、それがネオコン=中道の理念ですから。

 そんな欧米を支配してきた中道勢力ですが、昨今は右派層との分離が顕著です。中道派が推し進めてきたアメリカの覇権と資本家の優遇、つまりネオコン・ネオリベの理念に欧米では右派が強い反発を見せ始め、アメリカ陣営の勝利ではなく自国単独の利害を、富裕層の利益ではなく移民を排した自国民の利害を重視する政治勢力が、時には中道派を凌ぐ票を獲得するようになっています。ヨーロッパで自国第一主義の右派勢力が権力を掌握するようになれば、NATOの覇権も終わる、パクス・アメリカーナの時代も終焉を迎えることでしょう。

 ただ中東に目を転じると、シリアではアルカイダ系の反政府勢力による大規模な攻勢を前に、アサド政権は抵抗らしい抵抗も出来ないまま終焉を迎えました。これは協力関係にあったロシアやヒズボラがシリア支援まで手が回らなくなったからとも言われるところですが、アメリカやトルコが支援している反政府勢力も呼応する動きを見せるなど、別の国が糸を引いているところもあるでしょう。シリアはウクライナよりもずっと昔から、代理戦争の舞台でした。ロシアがシリア政府の許可を得て行動している一方でアメリカはシリア政府の許可なく軍を駐留させてきた等々、しかしこうした状況が注目されるのは稀で、ウクライナとの「国際社会」の扱いの違いは際立っています。

 そしてお隣の韓国では大統領が突然の戒厳令を発するなど、軍政時代に時計の針を巻き戻そうとするかのごとき動きがありました。これは与党議員の支持も得られず大統領自身によるクーデターは1日と持たずに終わりましたけれど、現体制の存続は大いに危うくなったと言えます。今後、日本と歩調の合いやすい親米保守政権から革新系が権力を握るとなれば日本の立ち位置も再考が再興が必要になるところですが──それでも日本の政治は変わらない、隣国をあしざまに罵り続けながら、ひたすら米国に追従し続けるのかも知れません。

 ルーマニアでは先の大統領選でNATO懐疑派の候補が最多得票を集めるも、これに危機感を抱いた憲法裁判所が投票は無効との判断を下すなど、諸外国の介入が強く疑われる事態が起こっています。そして州じゃない方のジョージア(以下、グルジアと略)でも中立路線の与党が勝利を収めたわけですが、親NATO派の大統領や野党が結果に強く反発、欧米諸国の支援を受けて政府への抗議活動が活発化しています。この辺りは前々から予見していたことではあるものの(参考:ロシア・ウクライナを取り巻く往年の連邦構成国)、当たらない予想であって欲しかったですね。

 グルジアで起こっていることは、11年前のウクライナで起こったことと酷似しています。中立路線の政府の元でEU加盟交渉が停滞したのを契機に反政府勢力が活発化し、当初は平和的なデモと伝えられるも次第にアメリカの政府関係者や武装勢力が合流していったのがウクライナで11年前に起こったことで、これは今まさにグルジアで起こりつつあることです。ウクライナでは大統領が煮え切らない態度を続ける内に首都の占拠を許しクーデターに繋がってしまいましたが、その教訓を踏まえてグルジア政府はどう行動するでしょうか。この辺も、トランプ政権の発足を前にネオコン勢力が第二戦線を作るべく背後で糸を引いているようにも思えるところ、多極化の元での平和か、アメリカの敵と味方で争い合う時代の継続か、その分かれ道にあるとも言えます。

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摘発されるライン

2024-12-01 21:55:54 | 政治・国際

 日本における犯罪検挙率は、年度や地域によって上下しますが概ね5割を下回るそうです。流石に殺人などは100%に近い検挙率が維持されていますが、その一方で認知されるだけで終わっているものも少なからずあることが分かります。もちろん「認知されない」不法行為も多々あることは容易に想像され、罰せられることなく犯されている罪もまた少なくわけです。そこで私は思うのですが、果たして公職選挙法違反の検挙率はどれぐらいなのでしょうか? もしくは認知されることなく終わっている違反はどれだけあるのでしょうか?

 昨年末には、法務副大臣を務めた柿沢未途が公職選挙法違反で逮捕されています。政府与党の閣僚であっても、一応は公職選挙法の対象外ではないようですが──ここで問われるのは柿沢氏の認識の方でしょうか。果たして柿沢氏は公職選挙法を知っていたのか知らなかったのか、政治家の家に生まれて所属政党を転々としながら国会だけでも当選5回という選挙のプロであるはずの氏が公職選挙法を知らないとしたら、それも首を傾げる話と言えます。

 2022年の北京オリンピックでは、スキージャンプの高梨沙羅選手が規定違反で失格となり世間を騒がせました。これはスーツの寸法に関する違反とのことで、どこのチームも飛距離が出るように規定ギリギリのラインを攻めている中、高梨選手の場合は僅かに規定をオーバーしてしまったようです。柿沢未途の場合もこれと同じ、公職選挙法を知らなかったわけではない、むしろ知っていたからこそ「公職選挙法が適用されない」ギリギリのラインを攻めようとした結果なのかな、と思います。

 そして現在は、斎藤元彦兵庫県知事の公職選挙法違反容疑が問われています。これも若者人気に忖度してか有耶無耶にされそうな気配が漂っているところですが、どうしたものでしょう。斎藤元彦は恐らく、関係者が余計なことを言わなければ何ら問題視されないと踏んでいたものと思われます。そして立花孝志は、制度の不備に意図して乗っかっている、そこで何かの違反に問われても斎藤元彦には連座されない、自身の目的(選挙荒し)は達成できると判断しての行動と推測されます。ただ一人、折田楓だけは本当に公職選挙法を知らなかったのだろうな、という印象です。

 何はさておき、摘発される前から公職選挙法違反が取り沙汰されるのは非常に珍しいことではないでしょうか。通常は、違反として摘発され初めて世間に知られる、摘発されなければ世の中の注目を集めることなく終わるのが公職選挙法違反(これに限ったことではないかも知れませんが)というものです。警察が動かなければメディアも動かない、メディアが動かなければSNSにも火は付かない、実際には公職選挙法違反があっても知られることなく闇に葬られている、しかし闇に葬られていること自体が知られていない、そんな気もします。

 ところが今回、警察が動く前から公職選挙法違反を強く疑われる内容が広く知られてしまったわけです。折田楓という、恐らくは違反であることを理解していなかったであろう関係者によって、まさに当事者の証言として内実が明らかにされたのは異例中の異例と言えます。通常は警察が動いてからの結果発表としてメディアからSNSへと伝播するものですが、今回は違います。これで客観的評価の通りに公職選挙法違反として摘発されるのであれば秩序は保たれますが、そうでない場合はどうなるでしょうか? これが一つの判例として、「ここまでなら公職選挙法違反に問われない」というラインが明示されてしまう結果に繋がることは言うまでもありません。そうなれば当然、今後の選挙では同じことをやる候補が続出することでしょう。

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