先日は兵庫県知事選が行われたわけですが、斎藤元彦前知事が再選を果たしました。日本人はパワハラ気質の人が好き、第二・第三の斎藤元彦は必ずや登場するであろうと予想はしていましたけれど、まさか支持母体の維新からも明白に切り捨てられた前知事がこれほどの短期間で権力の座を取り戻すことは、流石に私も読めなかったです。かの権力闘争の天才・毛沢東ですら失墜から返り咲きまでは少なからぬ歳月を要したことを鑑みれば、この辺は率直に感嘆すべきところでしょうか。
10~20代は7割が斎藤氏を支持 兵庫知事選、投票者ネット調査(毎日新聞)
前知事の失職に伴う兵庫県知事選を巡り、毎日新聞社と神戸新聞社は17日、投票を終えた有権者を対象にインターネット調査を実施した。再選を確実にした前知事の斎藤元彦氏(47)は幅広い層から支持を集めた。特に若い世代に浸透し、10~20代の投票先の7割近くは斎藤氏だった。
世代によって支持傾向が大きく異なる政党・候補者は以前よりいるもので、先の都知事選の石丸伸二、衆院選の国民民主、そして兵庫県知事選では斎藤元彦と「若者に人気」の候補が世間の注目を集めています。選挙への関心が低く投票率が下落すると、それでも選挙に行く割合の高い中高年層の票が結果に反映されやすくなり当該世代の支持が厚い立憲民主などに有利となるわけですが、前回の衆院選、今回の兵庫県知事選はいずれも投票率が上昇、若者が投票所に足を運ぶようになったことで大きく結果が左右されたと言えるでしょう。
無投票や白票は意味がないとムキになって否定する、必ず誰かに票を投じるべきなのだと主張する人もしばしば見かけます。投票率が低いままの選挙は番狂わせも起こりにくく無風に近いところがありましたけれど、若者が選挙に足を運ぶようになった、投票率が大きく上がったことで今までとは異なる勢力が伸びてきているのが現状です。まさに選挙に行けば世の中が変わるのだと言えますが──今の「結果」は無投票や白票を否定してきた人の望んだ状況なのでしょうか。
いずれにせよ、若者の力で斎藤元彦は再び選挙で勝ちました。少し前までは斎藤批判を繰り広げていたメディアや政治家の一部は早くも自己批判を行い、復権した知事にすり寄る動きを見せています。維新の開祖である橋下は収まりが付かないのか今でも斎藤勝利に苦言を呈しているところですが、周囲の政治家は口を噤み始めている等々、今後の維新と斎藤の関係がどうなるかは大いに気になります。若き信奉者を後ろ盾に斎藤元彦が我が国の政治文化に大革命を起こしていくのかどうか、そこは目が離せません。
斎藤元彦が若年層の強い支持を得た背景としては、動画配信やSNSの影響が挙げられています。いわゆる闇バイトに応募するような精神を持ってすれば、立花孝志を怪しいなどとは感じない、むしろYoutuberは信用できる、エスタブリッシュメントの書いていることこそが嘘で自分が見たことこそが真実と、そういう考え方になるのでしょう。流行は繰り返すとも言われますが、ネット右翼の全盛期にブログを書き始めた身からするとまさに「ネットde真実」の再来といった印象を受けます。
もっとも既存メディアも誠実ではなかった、信頼を損ねる原因はあったはずです。そして政治家も然り、たとえば中国やロシアを非難する文脈で「法の支配」というフレーズが好んで使われますけれど、一方でアメリカやイスラエルの国際法違反に対して同じ基準が適用されることはありません。大手メディアの敵、アメリカ陣営の敵に対しては不当な非難を向け、「味方」に対しては罪を問わない、そんな姿勢は既存メディアも既存政党の政治家も、Youtuberもインフルエンサーも、どれも同じようなものであったことは確かです。
こうした中では事実というものは意味を持たなくなります。刑死したキリストが復活したかどうか、その真偽を明らかにすることで考え方を変える人がいるでしょうか? 何を信じるかは事実関係に左右されるものではない、むしろ何を信じることに決めるか自己決定の問題でしかありません。「事実に沿って自分の行動を変える」という人は実は昔から決して多くない、むしろ「何を信じるか」はあらかじめ決まっており、その教えに沿って生きるのは過去の人間も現代の人間も大差ないのだ、と思います。
参考:兵庫県知事選挙における戦略的広報:「#さいとう元知事がんばれ」を「#さいとう元彦知事がんばれ」に
※魚拓 https://megalodon.jp/2024-1121-0124-57/https://note.com:443/kaede_merchu/n/n32f7194e67e0
一方、選挙期間中に斎藤陣営の宣伝を請け負っていた業者が自らの活動内容を嬉々として披露するなど、公職選挙法違反の証拠が万人に公開されていたりもします。基本的に日本の政治文化はカネが絡むと厳しくなる、昨年末には法務副大臣であった柿沢未途までもが逮捕されるなど、この辺は従来であれば許されないところです。もし公職選挙法が全ての候補者に等しく適用されるのであれば斎藤知事もまた処罰を免れることは出来ませんが、どうなるのでしょうか。先述のように国際法の適用される基準をロシアや中国と、アメリカやイスラエルとでは別々に設けているのが我が国でもあります。人気者にはあやかりたい、という精神で公職選挙法違反も有耶無耶に……という可能性があり得ないとは言い切れません。