先日はBRICS首脳会議が開催され、既存5カ国に加えてアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEと6国の正規加盟が決まりました。元は2000年代に新興国とされた4カ国の頭文字を並べただけの造語であったBRICSが、今このように公式な首脳会議の場となったのを見るのは感慨深いものがあります。新加盟国を加えた11カ国は人口規模でアメリカとその衛星国の合計を大きく上回り、いずれは世界経済をも牽引していく可能性を秘めていると言えるでしょう。
アメリカの傘下にある国々とそうでない国々との陣営対立が深まっていく一方、中東で反目していたイランとサウジアラビアの国交が正常化されるなど独立国サイドでは平和を志向する動きも見られます。我が国はアメリカとその衛星国ばかりに目を向け、それを「国際社会」と呼んできました。しかるに日本の眼中にない本当の多数派である国々の間では緩やかな連帯の動きが広がっているわけです。地理的な塊でもある北米やヨーロッパ諸国はさておき、アジアにおける日本の孤立が少なからず心配ですね。
日米欧の排他的仲良しグループの強みは、技術や経済、軍事力において先行してきたことです。そして先行してきたが故に少ない人口規模でも世界における優越的地位を長らく保ってきました。ただ衰退が続き経済面で隣国の後塵を拝するようになった日本を筆頭に「先進国」と新興国の差は縮まる一方であり、それが将来的に維持されることはないでしょう。だからこそアメリカは経済制裁や禁輸措置を通してライバルとなり得る国家の発展阻止に力を注いできたと言えますが、これもいつまで保つかは怪しいものです。
ウクライナを舞台とした戦争において、短期的にはNATOが勝利を得ることは出来るのかも知れません。しかし将来的にはどうでしょうか。拡大を続けてきたNATOですが、アメリカを盟主と「しない」多数派の国々が経済力や技術力を高めていく中では、相対的な地位の低下を避けることは出来ません。今のまま排他的仲良しグループであり続けるのか、それともアメリカに服さない国々との共存を受け入れるのか、いずれは選択を迫られることになるはずです。
BRICS諸国には足並みの乱れが見られると、日本のメディアからは指摘されることが多いでしょうか。それは独立国同士なのだから当たり前と言えなくもありません。確かに我が国が属しているサークルは異なり、アメリカという明確な宗主が存在し、何事もアメリカの決定に従って行動する、アメリカの敵か味方かで善悪を決める価値観を共有しています。アメリカの衛星国から見ればBRICSの在り方は異質であり、バラバラの方向を向いた寄せ集め集団に思えてしまうのでしょう。
ただ、それがBRICSに限らぬ独立国の集まりの良さだと私は考えています。現在のNATOを中心とした覇権主義においては誰もがアメリカへの服属を求められる、アメリカに是認されればそれは裁けない存在となり、アメリカに敵視されればそれが「国際社会」における悪として扱われてしまいます。しかしBRICSに議長国はあっても盟主はいません。中国もインドもロシアも、いずれも自国の主権に拘り相互に牽制し合う間柄です。特定の国の一存で国際社会における善悪が決まるのではなく、大国が相互に尊重と牽制し合う中を是々非々で物事が判断される、それこそがあるべき姿ではないでしょうか。
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原発処理水の海洋放出を契機に、中国が日本製品の禁輸措置を強めたことが話題を呼んでもいます。野村哲郎農林水産相曰く「(全面的な禁輸は)全く想定していなかった」とのことですが、これはいくら何でも物事を都合良く考えすぎだったのではないでしょうか。以前にも書きましたとおり、中国政府が本音で安全面を懸念しているとは考えられません。ただ日本はアメリカの意向に沿って中国への敵視政策を続けている、軍拡や禁輸措置をエスカレートしているだけに、当然ながら中国政府としても黙認してはいられないわけです。
近海で米軍が軍事演習を行えば、それに応じてミサイル発射実験が行われるのと同じことです。中国側が輸入したがっているものを輸出規制の対象にしてきた以上は、その意趣返しとして日本側が輸出したがっているものに規制をかけられる、このぐらいは誰だって予想できていなければなりません。日本政府にとってアメリカの決めた反中政策は絶対的に正しいものであり、そこに反発を受けることなど想像も出来なかったとしたら、あまりにも間が抜けすぎています。もう少し日本は、欧米「以外」の国々へと真摯に向き合う姿勢が必要なのではないでしょうかね。