非国民通信

ノーモア・コイズミ

現在に目を閉ざす者は言うまでもなく盲目

2025-02-27 21:37:19 | 政治・国際

 ウクライナを舞台にしたNATOとロシアの戦争は開始から3年が経過し、今もなお日本のメディアには呆れるばかりのプロパガンダが書き連ねられています。一方アメリカでは大統領の交代があり、日本やヨーロッパ諸国からすると梯子を外された状態になりつつもあるのが現実です。これまではアメリカ側に立っている勢力を絶対の正義として、その反対側の国を貶めることに専念してきたのが日本の政治でありメディアであり、昨今は大学教員も大きく加担してきたところですが、しかるにアメリカ大統領が真逆の方向を向きつつある中で、彼らがどう現実と折り合いを付けていくのか興味深くもあります。

 この戦争で露になったのは「自分のことを平和主義者だと信じ込んでいる軍拡論者」の存在でしょうか。現代では右派から毛嫌いされているようなメディアでも、戦前は率先して開戦を煽っていたなんて話はよく知られるところですけれど、その辺は現代も変わらないように思います。平和を望む風を装いつつ、それでいて「敵」を理由にした軍拡はやむを得ないことなのだと積極的に肯定する、停戦案をウクライナの降伏であると強弁して罵倒し、ウクライナ人が最後の一人までロシアと戦うことを望んでいるかのように語り、自らの欲望の生け贄にしようとしている輩は枚挙にいとまがありません。

 そもそも日本国内の主要政党、大手メディア、論壇で活躍する現役大学教員の多くは徹底して現実から目を背け続け、アメリカに付き従って軍備を拡充する、アメリカに従わない国との対決に備えることだけが平和を保つ唯一の方法であるかのように喧伝を続けてきました。目の前で起こっている現実を都合良く塗りつぶすことに夢中となっているリアルタイム歴史修正主義の隆盛を前にすると、危機に陥っているのは日本国内の理性であるとも言えるのかも知れません。

 現実を直視するのであれば、今回のウクライナを舞台にした戦争ほど「軍事力ではなく外交によって解決できる」ことを証明しているものはないでしょう。この戦争は避けられずに発生したものではなく、望んだから起こったものです。遡ればロシアとウクライナ両国には長い歴史がありますけれど、大きな転機となったのは2014年の、アメリカの国務次官補も参加したクーデターです。ここでウクライナに、当時はネオナチ組織として認定されていた極右武装勢力を含む強固な反ロシア派政権が成立したことで両国の対立は決定的に深まりました。

 その後ウクライナの東部ドンバス地方ではクーデター政権と反クーデター派の未承認国家(ドネツク・ルガンスク共和国)による内戦が勃発、二度の停戦合意が結ばれるも合意破りの攻撃は激化し、またロシアが反対してきたNATOの東方拡大も止まるところがなく、とりわけウクライナはNATO加盟を憲法に定めるなど挑発姿勢を強め、事態は悪化の一途を辿ったわけです。そもそも非民主的な武装勢力によるクーデターを認めず、これに諸外国が制裁でも科して封じ込めに努めておけば戦争などは起こらなかったと言えますが、しかるに欧米諸国が選んだ道は真逆でした……

 ロシア側の第一の要求であったNATO加盟の阻止についてはウクライナもNATO陣営も一向に応じる姿勢を見せず、もう一つの要求であったドンバス地方の自治権と住民の恩赦についても、停戦合意違反の武力攻撃を繰り返すことで顧みるつもりはないとのメッセージを絶えずロシア側に送り続けていたのが2022年までの流れです。これは一種のチキンゲームで、どれだけロシア側を蔑ろにしても軍事侵攻までは踏み込まないだろうとの思惑が西側諸国にはあったと推測されますが、結果はご覧の通りで相手を舐めすぎたツケを払わされているわけです。

 そもそもクーデター政権の成立がなければ戦争の理由すらなかった、その後もNATO加盟がなければロシア側のレッドラインを超えることはなかった、ドンバス地方のロシア系住民に対する殺戮がなければ、それをロシアが守ろうとする意義も存在しなかったはずです。戦争は決して急には始まりません。そこに至るまでには長い道のりがあり、戦争回避の選択肢を斥け続けた結果として開戦に至るものです。だから戦争は常に外交によって回避できる、軍事力に頼る場面は望まない限りは訪れないと私は断言しますが──そこで何らかの欲望を持って現実から目を背け続けているのが我が国の現状なのかも知れません。

 ともすると軍拡には否定的で、外交による解決が可能であると従来は主張してきたはずの人でも、今回の戦争を前に宗旨替えしているケースは少なからず見受けられます。ウクライナを部隊にした戦争が始まるまでの経緯から徹底して目を背け、邪悪なロシアが一方的に攻め込んできたのだと、そうした世界観に浸って自らを慰めている人が自称ハト派の中にも目立つわけです。しかし「急にロシアが攻めてきた」という日米欧のプロパガンダを認めるならば、その帰結は軍事力による防衛しかなくなってしまいます。戦争の前段を「なかったこと」にしてしまえば、後は開戦あるのみなのですから。

 真に平和を希求するのであれば、ウクライナひいてはそこに干渉してきた国々の過ちをこそ反省すべきではないでしょうか。そもそも何故ウクライナがこれほどまでにロシアを敵視するようになったかと言えば、ソ連崩壊後の経済停滞の中で都合の悪いことを隣国のせいにしてきた、ナショナリズムを不満のはけ口として政治が利用するようになったことが挙げられます(結果として2014年のクーデターに繋がったわけですが、しかるに日本では2022年の戦闘開始から全てが始まったかのようなミスリードが続けられています)。こうした点は日本も同様で、国民の不満を排他的ナショナリズムへと昇華させようとする動きは既に深く根付いているところです。隣国を憎み、隣国への警戒感を強めることが国是になったならば、そこで「平和」のために必要なのは何になるのでしょうか?

 ウクライナではロシア寄りと見なされた大統領が、暴動によって追放されました。そして日本でも、少しでも中国寄りと見なされた政治家がどのような扱いを受けているかは思い起こされてしかるべきでしょう。隣国を嘲り敵視することで国民の喝采を集める、国内の反対派を攻撃し、隣国からの抗議は無視してひたすらにアメリカへすり寄る──これがウクライナのやってきたことであり、日本にも少なからず共通するところです。そんなウクライナの政治が日米欧の庇護によって成功を収めることは、世界にとってプラスでしょうか? むしろ誤った政治は罰されるべきで、そうなる前に日本はウクライナを他山の石とすべきなのだ、というのが私の考えです。

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トランプ政権を支持します

2025-02-09 21:34:59 | 政治・国際

 トランプ大統領は就任前より世間を騒がせており、このブログでも定期的に言及しているところです。そこでまず、私はアメリカ国籍でもなければアメリカ在住でもない人間としてトランプを支持することを表明しておきます。これまでアメリカのやることには平和の為だの民主主義の為だのと何らかの形で常に正当化が行われてきたわけですが、トランプは己の欲望であることを全く隠そうとしません。トランプはアメリカ史上で最も誠実で嘘偽りのない大統領だと思います。後は、トランプと対峙する各国がどうするかの問題でしょう。

 先のアメリカ大統領選挙では、幾つか政党間のねじれが見えました。共和党でもネオコンの最右翼と言うべきチェイニー親子がハリス支持を表明した一方、民主党に所属していたロバート・ケネディ・ジュニアはトランプ政権の保健福祉長官に収まったわけです。このケネディについても、アメリカ国籍でもなければアメリカ在住でもない人間として私は強く支持しています。ケネディが過去に主張した米軍撤退論には全面的に賛同しますし、彼の誤った理解によってアメリカ人の健康が損なわれるであろうことも、私は一向に構わんとしか言いようがないですので。

 

イーロン・マスク氏へ批判高まる…「アメリカ国際開発局」解体を進めていることに対し TIME誌最新号表紙では大統領の椅子に座る姿が(FNNプライムオンライン)

トランプ大統領から政府の効率化を目指す組織の責任者に任命されたイーロン・マスク氏が、効率化の一環として外国への援助を行うアメリカ国際開発局の解体を進めていることについて批判の声が高まっています。

アメリカのTIME誌は、最新号の表紙に大統領の席に座るマスク氏の写真を使用し、マスク氏が国際開発局の解体に取り組んでいることについて、「1人の民間人が、アメリカ政府の機構に対して、これほどの権力を振るったことはない」と批判する記事を掲載しました。

 

 そしてイーロン・マスクについても、アメリカ国籍でもなければアメリカ在住でもない人間として、そして彼が所有する会社の従業員でもない身として、支持を表明したいと思います。マスクの標的になっているアメリカ国際開発局を筆頭に全米民主主義基金など、「非軍事的で民主的な」支援活動は世界に親米政権を樹立する上で重要な役割を果たしてきました。2014年のウクライナで起こったクーデターも、アメリカの支援なくしては起こり得なかったことでしょう。そんなアメリカの覇権のために欠かすことの出来ない機関を、マスクは効率化の名の下に解体しようとしていることが伝えられています。実に素晴らしい!

 その財力と自身が所有するSNSでの影響力を駆使してトランプの勝利に貢献したであろうマスクは、ドイツやイギリス等でも「極右」と呼ばれる政党への支持を隠すことなく表明しており、ヨーロッパの政治情勢にも関与しようとしています。そしてこの「極右」と呼ばれる勢力は軒並みEU懐疑派、NATO懐疑派でもあるわけです。これまでアメリカの覇権に協力的な中道政権がヨーロッパを支配してきた中で、アメリカ主導の国際秩序への貢献よりも自国第一主義を掲げる人々を当のアメリカの政府首脳が応援している──もし私がアメリカ人であったなら話は別ですが、そうではない身としては大いに結構だと思いますね。

 まぁ日本では自国第一主義とアメリカ第一主義が分化していない、アメリカの覇権こそが日本にとっての利益であり、それが脅かされることは平和を損なうものだとの認識が与野党間でも共有されている段階です。そうした意味では日本こそが最後までアメリカのために尽くす、民主主義の砦=アメリカの前線基地であろうとし続けるのかも知れません。トランプやマスクのおかげで世界は少しだけ良くなると私は信じていますが、日本がどうなるかは別の話になりそうです。日本でもアメリカ第一ではなく自国第一の勢力が伸びたら面白い、それもマスクの支援で伸びたりしたら二重に面白いのですが。

 

対米投資150兆円に引き上げ 首脳会談、石破氏がトランプ氏に表明(朝日新聞)

 石破茂首相とトランプ米大統領は米東部時間7日(日本時間8日)、ワシントンのホワイトハウスで初の首脳会談を行った。首相は日本から米国への投資額を1兆ドル(約151兆円)に引き上げる考えを表明。トランプ氏は日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画について、「買収ではなく投資だ」と述べ、取引の容認に前向きな姿勢を示した。両首脳は日米同盟の抑止力・対処力を強化することでも一致し、「日米関係の新たな黄金時代を追求する決意」を盛り込んだ共同声明を発表した。

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ナチズムを否定するようでいて、否定できていないもの

2025-02-02 21:47:27 | 政治・国際

 医師・薬剤師の国家試験には「禁忌肢」というものがあり、1回でも禁忌肢を選んでしまうと他の問題が全て正解でも不合格になるそうです。他の設問に正答していたとしても、まさに致命的な場面で間違いを犯す受験者は落とす仕組みになっているわけですね。そこで政治的な方向に話を向けると、ナチズムへの評価もこのようなものだと言うことができます。個々の政策を切り取ってみると肯定的な結果を得られたものがあったとしても、禁忌肢を何度か踏んでいる……ぐらいが客観的な評価になるでしょう。

 ところが、ナチズムを全否定する人もいます。曰く「ナチスは良いこともした、は間違い」とのこと。これは非常に危険な考え方で、ともするとナチズムを否定しているようでいて、その実はナチスの何が問題であったかを分からなくするものであると言えます。つまり政策ごとに当否を判断するのではなく全てを否定することで、どれが禁忌肢であるかを曖昧にする効果を発揮しているわけです。○○がダメとのことであれば答えは明確ですが、全てがダメというのであれば本当にダメだったのが何であるかは理解されなくなることでしょう。

 

米国務省の海外援助 一部を除き一時停止し ウクライナで影響も(NHK)

首都キーウに事務所があるウクライナのNPO「ベテラン・ハブ」は、前線から帰還した兵士やその家族などを対象に、社会復帰や心理サポートなどの支援を行っています。

団体によりますと、このうちカウンセリングや法律相談などの事業については、活動資金の3分の2をアメリカ政府からの援助で賄っていましたが、今月25日、援助が突然停止され、西部ビンニツァ州で行っていた活動を休止する事態になったということです。

29日、NHKのインタビューに応じた代表のイボナ・コステイナさんは「支援を受けていた多くの人たちが悲しみました。あまりにも急なことで、われわれも選択肢がありませんでした」と話していました。

 

 バイデン政権はアメリカ陣営の覇権を維持すべく諸外国への徹底的な介入を続けてきたわけですが、そんなアメリカのためのコストを惜しむトランプ政権へと移行したことから、各国の出先機関が悲鳴を上げている様子が伝えられています。そこでNHKが取材した団体が上記ですけれど、ここではエージェントの発言ではなく、その後ろに映っている旗の方が物事を雄弁に語っているのかも知れません。

 一つは立花孝志のNHK党でおなじみの黄色と水色の旗で、こちらは現在のウクライナ国旗の配色です。ではもう一つの、上が赤で下が黒の旗はどこのものでしょうか? これはUPA、ウクライナ蜂起軍などと訳される武装組織の配色です。日本での知名度は低いもののUPAは第二次世界大戦期に勢力を築いたウクライナの「英雄」とされ、彼らの創設日は「祖国防衛者の日」として2014年からウクライナの祝日と定められているものだったりします。

 では、このUPAとは何をした組織だったのでしょうか? 彼らは侵攻してきたナチスと協調し、ソ連からの分離独立を目指して現地の共産主義者やユダヤ人、ポーランド人の虐殺を行いました。最後にはドイツとも仲間割れを起こしたことから「ナチスの協力者ではない」と、とりわけ2022年以降は強弁されるようになって現在に至りますが、それまではロシアだけではなくポーランドからも強く非難されてきた存在です(なお2022年からポーランドは考えを改めた模様?)。

史実のウクライナ

 どこの国にも異論はあります。全ての国民が同じ方向を向いていることはあり得ません。ところが、しばしば都合の良い片方の声だけが国民の声として取り上げられ、異論はなかったことにされてしまいます。ドイツ「統一」は誰にでも歓迎されたかのように語られ、祖国の消滅を嘆いた東ドイツ国内の異論が顧みられることはありません。旧ユーゴスラヴィア諸国の「独立」は悲願が叶ったようにしか報じられず、祖国の分裂を嘆く声は存在しないものとして扱われます。赤い旗の下で共産主義革命への参加を望んだフィンランド人やエストニア人、ラトビア人の声に耳を傾ける人がいるでしょうか? 語り継がれるのは専ら、勝者の側に都合の良い声だけです。

 そしてウクライナの場合はどうでしょう。史実としては上記の通り、今も昔もウクライナは長らく分裂した国家です。常にロシアを憎み、その敵と手を組んできた勢力に同調する人々もいれば、反対にロシアと共に歩もうとする人々もいるわけです。いずれも異論自体は認められるべきものと思いますが、問題なのは正しい歴史認識が行われていないこと、史実通りではなく都合良く捻じ曲げられて語り継がれているところにあると言えます。とりわけ日本では、以下のように認識されているのではないでしょうか?

フィクションのウクライナ

 つまり、「昔からウクライナは誰もがロシアとの縁切りを望んでいた」⇒「ナチスと戦って勝った」⇒「ロシアに勝つまで戦いを続ける、そのための支援を必要としている」ぐらいに日本では語られているわけです。その中ではいずれも反対派がホワイトウォッシュされている、それも正しく系譜を継ぐのではなく都合良く対立陣営の成果を横取りしていることが明らかです。反ロシア派の系譜の中にはナチスと組んでソ連と戦った(その過程でユダヤ人やポーランド人をも虐殺した)歴史があるのに、そこだけ連邦の構成国としてナチスと戦ったかのごとくに経歴を偽っている、これはあまりにも不誠実と言えます。

 そんなホワイトウォッシュされた歴史の象徴であるウクライナ蜂起軍の旗を、NHKでは恐らく意味を解さぬまま大きく映し出しています。いったい何の旗であるのか、それを視聴者に伝えなくても良いのでしょうか? アメリカの側に立っている以上はウクライナが正しいに決まっている、疑義を呈するようなことなど何もない、そんな観点で公共放送が垂れ流されているとしたら、まさに自国の教育水準の低さを嘆くしかないのかも知れません。

 2022年まではネオナチ系の団体と認定されていた武装勢力がウクライナには複数存在し、政府にも深く浸透していました。その後に西側諸国で評価が改められたことは記憶に新しいわけですが、しかしユダヤ人虐殺の当事者でもあったUPAの旗は今でもウクライナの体制側の団体で公然と掲げられ続けています。ただ現在と昔とで違うのは、「浄化」の対象がユダヤ人ではなくロシア系住民に変わったことぐらいですね。

 そこで冒頭の「禁忌肢」の問題に戻ります。果たしてナチズムの何が問題だったのでしょうか。単にユダヤ人への憎悪をナチズムと見なすのであれば、日米欧各国で言われているようにウクライナの武装勢力はネオナチではないことになるのかも知れません。そして彼らはナチスではない以上、何ら問題はない、ロシア側からの糾弾は不当である、と。しかしナチスはナチスであることによって悪であるのではなく、ユダヤ人に限らず国内の「異分子」を排除する姿勢にあると見た場合はどうでしょうか?

 単純にナチスを全否定するだけ、せいぜいが「ユダヤ人」の扱いを基準にするだけであれば、ユダヤ人を称しイスラエルとの連帯を口にするゼレンスキーの政権がナチズムであるはずがない、ナチスではないのだから国際社会が支援して最後の一兵までロシアと戦えるようにすべきだ、と言うことになるのでしょう。一方で、ナチスであるかどうかではなく、その協力者を英雄として祀って旗を掲げているところや、国内の少数派を弾圧し排除しようとする姿勢に悪を見出すのであれば、道義的に正しいのはロシアの方です。

 ドイツ政府は、ユダヤ人の虐殺については深く反省する姿勢を続けています。一方でパレスチナ人の虐殺に関しては真逆でイスラエルの擁護に終始しています。彼らはナチスを悪いものとして否定こそしていますが、しかしナチスが踏んだ禁忌肢に関しては何ら意識していません。ユダヤ人を殺すのは悪かったが、パレスチナ人を殺すのは正当防衛である──それがナチスを単純に否定するだけでナチスの何がダメだったのかを理解しなかった末路です。

 本当に否定しなければならないのはナチスそのものではなく、ナチスが踏んだ禁忌肢の方にあります。概ねナチズムの否定自体は共通認識となっている現代かも知れませんが、しかし真に問題となるべき禁忌肢の方はどうなのでしょうか? ナチスでないから許される、標的がユダヤ人でないから許される、それもまた現代の西側諸国の共通認識です。単純なナチス全否定論の上に、ナチスが踏んだのと同じ禁忌肢を選んだ勢力が日米欧各国の支援を得ているわけで、これは明らかに間違った方向に進んでいると言えます。

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少しだけ、世界が良くなる

2025-01-19 21:39:34 | 政治・国際

米企業 多様性など実現見直す動き 大統領就任前に政治的配慮か(NHK)

DEIと呼ばれる多様性などの実現に向けた取り組みを見直す動きがアメリカの企業の間で広がっています。DEIに対しては保守層の反発もあり、トランプ氏の大統領就任を前に政治的な配慮も背景にあるものとみられます。

DEIは「多様性」「公平性」「包摂性」を意味する英語の頭文字をとったことばで、数値目標などを設けて多様な人材を集め、イノベーションなどにいかす取り組みとして注目されてきましたが、このところアメリカでは見直しの動きが相次いでいます。

このうち、IT大手の「メタ」が多様性に配慮した採用活動などを廃止する計画だとアメリカの複数のメディアが報じました。DEIを取り巻く法律や政策の状況が変化したことが要因だとしています。

 

 日本でも兵庫県知事選で斎藤元彦の再選が決まった際には、率先して自己批判を行い権力側にすり寄る動きが少なからず見られました。アメリカだって権力者が変われば、それに合わせて変節する人々が出てくるのは至って自然なことと言えるでしょう。ここで名前を挙げられている「メタ」は元より同社が提供するフェイスブック及びインスタグラムにおいて「ロシア兵とロシア人への暴力を呼び掛ける投稿を容認する」「ロシアのプーチン大統領ないしベラルーシのルカシェンコ大統領の死を求める投稿についても期間・地域限定で認める」方針を掲げるなど権力側に付き従う姿勢で知られているところですので、何ら驚くに値しません。
参考:FB、ロシア兵への暴力呼び掛けを一時容認 ウクライナ関連のみ(ロイター)

 もちろん同様の方針はメタに限らず他のアメリカの有名企業も先んじて多様性目標の見直しを表明しており、流行に敏感な経営層の間では一定の合意が形成されているものと判断されます。アメリカに限らず日本でも、深く考えずにとにかく流行を追いかけることで時代に適応したつもりになるのは普通のことですので、我が国の企業がこれに倣うようになっても不思議ではないでしょう。企業は決して善意や道徳心で多様性を尊重してきたわけではない、DEIだのSDGsだのDXだの、しかるべく合理的判断の上で進めてきたのではなく単純に流行に乗り遅れまいと努めてきただけであって、その流行に変化があれば企業だって当然ながら変わるわけです。

 しかし、ここで言われるDEIとはなんでしょうか。それらしき説明は存在しますけれど、ちゃんと意味を理解した上で実践してきた人や組織がどれだけあるのかは大いに疑わしいと思います。ただ単に、流行の歌を皆で合唱してきただけではないか、というのが私の見解ですね。結局はDEIに反発していたとされる「保守層」なんてのも、いわばK-POPを嫌うのと同じようなもので、どのようなファッションをするかどうかで好きな人もいれば嫌いな人もいる、ぐらいの争いに見えるところもあります。

 例えばある国では、大統領と立場を異にする野党の活動が禁止されています。それでも口を噤まなかった野党の政治家は身柄を拘束され、隣国に囚われた兵士との捕虜交換の弾にされました。民間人でも政府を批判したジャーナリストは投獄され、拷問によって殺された人もいます。隣国の言葉を使用することは禁止され、隣国にルーツを持つ住民は弾圧される、政府に反旗を翻した地域へは住宅地にも容赦なく砲弾が撃ち込まれる──これはウクライナのことですが、我が国の報道ではウクライナ人は誰もが大統領を支持し、ロシアとの戦争継続を望んでいることになっています。本当は逆の立場の人もいるはずですが、そこは今もなお黙殺されているところで、これは「多様性」の観点からはどうなのでしょう?

 性的嗜好に関する多様性は、これまでは認められるべきものとして扱われることが多かったわけです。それは結構なことと言えますが、しかし他の種類の多様性、例えば政治体制や外交姿勢の多様性は尊重されてきたのかもまた問われるべきではないでしょうか。統治形態がアメリカとは異なる国、国際政治の場でアメリカに同調しない国に対して日米欧各国がどのように接してきたかを考えてください。そこに多様性は認められていなかった、アメリカ型の統治、アメリカに従う外交だけが唯一の「民主的な」正しい在り方と規定され、それぞれの国の独自性が尊重されることが決してなかったのは明らかです。

 フェアトレードという概念が専らチョコレートやコーヒーや手芸品に止まるように、DEIという流行り言葉において想定された多様性の範囲もまた至って限られたものでした。流行に乗って掲げられただけのスローガンなど、その程度のものでしょう。故にDEI某が見直されたところで大した意味はない、元から大した意味がなかったのだから、というのが私の見解です。もちろんLGBT云々に関しては冬の時代の到来ですが、一方では逆に認められるようになる、締め付けが緩くなるものも出てくることを期待したいと思います。

 バイデンという大統領はまさにアメリカ至上主義で、「アメリカに背く国」を断固として認めてきませんでした。それだけにアメリカ陣営の結束を重んじた、アメリカ国内の融和を目指してきたところもあります。一方でトランプは前任者に見られたような一貫性を期待できない、何事も自身の好き嫌いが最優先で行動や言動にもブレが大きい指導者です。この辺は政治的な影響力を強めているイーロン・マスクも同様で、いずれもアメリカの覇権を自壊させる可能性があります。ただ、それは国際社会における多様性が認められるためには良いことでしょう。アメリカに付き従う国だけが「民主的」ではない、そうでない国も尊重される、そんな多様な世界を実現するためにはネオコン一辺倒のバイデンよりも、トランプ&マスクの出鱈目路線の方が相対的にはマシです。

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星条旗よ永遠なれ

2025-01-13 21:40:12 | 政治・国際

 先般はロシアでYouTubeへのアクセスが遮断されたという怪情報が一部のメディアで流布されました。ただロシア在住者による新規投稿は普通に確認できますし、ロシア在住だが問題なくアクセスできるとの報告も相次いでいるようです。一方、私の環境からはgooサービスにはVPNを介して接続元を偽装しないと接続できない状況が本日もなお続いています。隣国を貶めるべくフェイクニュースを垂れ流す前に、自国で起こっている問題をどうにかした方が良いのでは、と私は思いました。(2025/1/14追記、ようやくVPNなしで繋がるようになりました……)

 

韓国 ユン大統領拘束の令状執行できず 警護庁が捜索許可せず(NHK)

「非常戒厳」の宣言をめぐり韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の拘束令状をとった合同捜査本部は、3日に令状の執行を試みましたが、大統領警護庁に阻まれて令状を執行できませんでした。拘束令状の有効期限は今月6日までで、合同捜査本部は「今後の措置は検討したうえで決定する」としています。

「非常戒厳」を宣言した韓国のユン・ソンニョル大統領について、警察などでつくる合同捜査本部は先月31日に内乱を首謀した疑いで大統領の拘束令状をとり、3日朝に捜査官らが令状を執行するため、ソウル市内の大統領の公邸の敷地に入りました。

しかし、大統領警護庁は現職大統領の警護を理由に公邸の捜索を許可せず、捜査官らは、公邸まで200メートルほどの場所で大統領警護庁の関係者ら200人あまりによって阻まれたということです。

 

 さて韓国では大統領の非常戒厳を皮切りに拘束令状が出るまでに至りました。ただ1月3日に執行を試みた時点では阻止されたことが伝えられています。勿論これで終わるものではなく令状の執行期限は過ぎても再請求によって再び発布されたとのこと、事態を長引かせることは出来ても幕を引くには至らないと言えます。ちなみに執行を阻止したのは大統領警護庁と伝えられているところですが、映像を見る限りは支持層も結構な人数が集まっているようです。

 ここで注目したいのは、大統領支持の集団が韓国の国旗だけではなく星条旗を同列に掲げているところでしょうか。これは他国でも時に見られる傾向で、「親欧米派」と呼ばれるデモ集団では一般的な行動ではあります。たとえば直近ですと州じゃない方のジョージアで発生した反政府デモにおいて星条旗が振られていました。ジョージアにはジョージアの旗がある、州じゃない方のジョージアは本家ジョージアへの敬意が足りないと思わないでもありませんが、なぜ自国の問題においてアメリカの旗が掲げられるのかは問われるべきものがあると言えます。

 「国際社会」における善悪は何によって判断されるか、ここで「アメリカ」を基準として採用している国は欧州を中心に少なくありません。アメリカがバックに付いている側が正しい、アメリカに背いている側は反対派を不当に弾圧する権威主義であると、そうメディアも報じてきました。だから2014年にウクライナで発生した暴力革命も速やかに「国際社会」の承認を得て現在に至るわけですが、この辺の価値観は韓国でも、少なくとも与党支持層には浸透しているのでしょう。

 何らかの政治主張を展開するとき、その背後に外国勢力の介入があるとなれば疑義を呈されることが一般的です。ゆえに韓国与党であれば反対派の主張の背後には北朝鮮や中国がいるのだと、そう印象づけることで相手の信頼を毀損しようとするのが常套手段です。日本でもウクライナ政治の問題を指摘すれば親ロシア派、自国の外交の問題を指摘すれば親中派と呼ばれたりするものですが、ただ一つだけ例外があって「親欧米派」だけはネガティブに扱われない、むしろ正当性の担保として西側諸国では受け止められていると言えます。

 こうした価値観を共有する「同志国」の間では、アメリカの側に属していることこそが自身の正当性を示す最大の根拠になります。行為は同じでもアメリカに従属しない国が行うことは侵略であり弾圧である、しかしアメリカの傘下にある国が行えばそれは自衛でありテロ対策になるわけです。何をやっているかではなく、アメリカの側に属しているかどうかが正しさを決める──国際社会を自称する欧米諸国の価値観に従えば、韓国における大統領支持層が星条旗を掲げた理由も簡単に説明が付きます。戒厳令を出すことがで適切であったかどうかは重要でない、そんなことよりも我々はアメリカの世界戦略の一端を担っているのだとアピールした方が説得力があるのでしょう。ただ、これがいつまでも正しいかどうかは疑われてしかるべきです。

 日本は与党も野党も親米保守で固まった政治的争点のない国ですが、しかるにUSスチール買収問題などからも明らかなように、日米の関係は決して相互に一致したものではありません。日本にとってアメリカは(願望込みで)同盟国ですが、アメリカにとって日本は衛星国の一つに過ぎないわけです。日本外交はアメリカとの関係に基づいて諸外国を「同志国」と仮想敵国に分けていますけれど、これは我が国の国益に叶うのでしょうか? イーロン・マスクも欧州の中道(親米)政権ではなく自国第一主義の政党に声援を送っています。ならば日本も、親米一筋からの脱却を考える良い機会ではないかと思いますね。

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2025年の展望

2025-01-01 20:37:38 | 政治・国際

 ネオコンの化身として世界をアメリカの敵と味方に分断してきたバイデン政権もついに終焉を迎え、今年はトランプ政権が再始動します。アメリカに背くものは許すまじと衛星国の団結を訴えてきたのがこれまでの「国際社会」と言えますが、今後はトランプの敵と味方とで争う展開へと移るでしょうか。取り敢えずアメリカ人にとってはさておき世界にとっては良いことである、ほんの少しだけ紛争の種が減ってわずかなりとも平和に近づくであろうと期待されます。

 トランプの本質はビジネスマン、みたいに言われることもありますが、それ以上に「好き嫌い」が行動原理と評価されるべきでしょう(現職の総理である石破を差し置いて安倍昭恵前首相夫人と会談したあたりは典型かと)。この点では何事もトランプの気分次第で不確定要素が多い、ただ外交面ではあらゆる点で最悪だったバイデンに比べれば一貫性がない分だけトランプの方が好転要素を含むというのが私の評価です。一貫して悪いものに比べれば、ブレがある方がマシですから。

 このトランプの好き嫌いの傾向は前政権時代から概ね明らかになっているところで、残念ながら中東方面については最悪から最悪への横滑り、対中国方面は若干のブレが期待され、ヨーロッパ方面は幾つかポジティブに評価される、ぐらいでしょうか。ネオコンの理念を貫いてイスラエルを支援するのも単なる好き嫌いでイスラエルを支援するのも結果は同じですが、何かの拍子にネタニヤフがトランプの機嫌を損ねて、それでアメリカの方針が変わったりしないかなと思わないでもありません。

 このトランプに起用された政府閣僚陣も、大いに世の中をかき回してくれそうで色々と期待しています。アメリカが内政面で混乱するのは結構な話ですし、ネオコン路線に追従してきた衛星国が梯子を外されるのも世界にとっては良いことですから。そんなわけで私はロバート・F・ケネディ・ジュニアやイーロン・マスクの台頭を肯定的に受け止めています。彼らはアメリカにとっては良くない影響をもたらすかも知れませんが、アメリカ一極集中の終焉は世界にとっての利益に他なりませんので。

 そんなイーロン・マスクは先般、ドイツの極右政党とされる「ドイツのための選択肢(AfD)」が「ドイツを唯一救える」とツイッター(現X)に投稿して話題を呼びました。まぁ現行の中道路線(ネオコン&ネオリベ)は明確に破綻しており、それと袂を分かった勢力の方が相対的には当事国にとって良いものをもたらすでしょう。アメリカに従わない相手を片っ端から敵視するネオコン路線よりは孤立主義の方が、資本家の利益が第一のネオリベ路線よりは保護主義の方が、相対的にはマシだと思います。

 ただそれは、アメリカにとっては別の話です。トランプもマスクも既存のエスタブリッシュメントを斥けて権力の座に就いただけに、長らくヨーロッパを支配してきた中道勢力よりも、それを追い落とそうとする「極右」の方に共感を覚えているのかも知れません。しかしアメリカの世界戦略に協力的なのは中道=ネオコンという既存体制の方であって、極右=自国第一主義が政権を獲得すれば従来ほどアメリカのための支出には賛同が得られなくなる、それは単にアメリカの利益であって自国の利益にならないのではないか?という疑義が呈されるようになるわけです。

 アメリカからすれば、むしろヨーロッパは今まで通り中道=ネオコンの支配体制が継続していた方が好都合のはずですが、そこはマスクもまたトランプと同様に「好き嫌い」が優先されているように見えます。何事もアメリカを基準とした国際秩序に親和性が高い現体制よりも、アメリカよりも自国単独の利害を優先する「極右」の方がマスクからすれば共感できる、そこで後者に声援を送ってしまうところにイーロン・マスクという人間の性格が表れていると言えるでしょう。

 これまでアメリカは諸外国への積極的な介入によって世界各地に紛争と親米政権の種を蒔いてきました。失敗に終わった典型は泥沼の内戦が続くリビアで、シリアもこれに続く可能性があります。逆に一時でも成功したのはウクライナや台湾でしょうか。そして州じゃない方のジョージアやルーマニアでも介入の影は見えており、これから大統領選が行われるベラルーシなどは当然ながら標的になっていると考えられます。恐らく選挙にはルカシェンコが勝利する、しかしアメリカの支援を受けた反政府勢力が大規模な抗議活動に出るのが予見されるところですが──アメリカの政権交代によってどれほど介入の程度が変わるか、そこは試金石になるでしょう。

 今年はウクライナを舞台にしたロシアとNATOの勢力争いも一つの大きな局面を迎えることが予想されますが、これに関しては1回では書き切れませんので、具体的な動きに合わせて追っていく予定です。残念ながら我が国では戦時報道が続いており事実に反したプロパガンダばかりが流されたまま、敵国(=ロシア)を貶める内容になってさえいれば真偽は問わず、どんな荒唐無稽な内容でも構わないと言った状況が続いています。結局のところ日本は先の敗戦から何も学んでいないのだと思うところ、以下は昨年に書いた記事ですが、ロシアとウクライナが一つの国であった時代から2022年までの経緯の基礎的な部分をまとめたもので、現代を理解するための前提知識として改めてリンクを張っておきます。

序文:ロシアとウクライナを巡る基礎知識、現在に至るまでの経緯

第一章:キエフ・ルーシの時代からソヴィエト連邦の時代まで

第二章:ロシア帝国、及びソヴィエト連邦の支配者達

第三章:ロシア・ウクライナを取り巻く往年の連邦構成国

第四章:ウクライナ、崩壊への歩み

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イスラエルにとっては良い結果、シリア国民にとっては別の話

2024-12-15 21:33:43 | 政治・国際

 先般はシリアのアサド政権が瞬く間に崩壊してしまったわけですが、その後に待ち受けるものについて考えてみたいと思います。まず前提知識として、シリアには大別して5つの政権支配下に属さない勢力が割拠していました。ゴラン高原を不法占拠するイスラエル、クルド人問題を口実にシリア領内へ一方的に「緩衝地帯」を築いたトルコ、このトルコと対立するクルド人勢力、油田地帯に駐留するアメリカ軍とその傀儡勢力、そして以前はヌスラ戦線とも呼ばれていたシャーム解放機構(タハリール・アル=シャーム、HTS)です。ここでシャーム解放機構が驚くべき短期間で主要都市を制圧、アサド大統領はロシアへ亡命し新政権が樹立されようとしているのが今ですが、これから先はどうなるのでしょうか。

 シャーム解放機構が専らアサド政権の残党狩りに精を出している一方で、イスラエルはゴラン高原からさらに兵を進めて占領地を拡大しており、これに抵抗する勢力は見られません。トルコの傀儡勢力もまたクルド人勢力の支配地への攻勢を強めている他、アメリカ軍もISの残党云々を口実に要所への攻撃を行っており、シリアを取り巻く3つの外国勢力にとっては絶好機が訪れていると言えます。もしシャーム解放機構がシリア全土の支配を目論んでいるのならば外国勢力の侵略にも抵抗する必要があるはずですが、今のところその様子は垣間見えず分割統治を前提に裏で話が付いているのかと疑わしく思えるところすらあります。

 このシャーム解放機構はアルカイダに起源を持ち、国際テロ組織にも指定されています。イスラエルやアメリカ、トルコに好都合な現状を肯定的に見せかけようとする人々からは、既にアルカイダとは決別化した、現在は穏健化していると評されるところですが、実態はいかほどのものでしょうか。取り敢えず明らかになっているのは、アサド政権崩壊を好機と支配地域の拡大を目論むイスラエルやトルコの動きには何ら有効なアクションを見せていない、ということです。

 一方でアサド政権を支援してきた国々からするとどうでしょう。ロシアからすると、基地の租借に関する前政権との合意を新政権が引き継ぐか次第です。ロシアがアサド政権から得ていたのは単純に中東における軍の駐留拠点という「場所」であり、それさえ維持できれば大きな問題にはなりません。逆にシリア側からするとロシアからの食料や肥料は今後も必要になるだけに、損得で言えばロシアとの関係は維持したいはずです。しかし裏でアメリカ・イスラエル・トルコと取引が成立しているとすれば、食糧危機のリスクを無視してでも新政権がロシア軍排除に動く可能性は否定できません。

 そして苦境に追い込まれたのがイランであり、イランが支援してきたヒズボラ、パレスチナです。これまでイランはイラクとシリアを経由してヒズボラに物資を供給してきた、そのヒズボラがパレスチナを援護してきたわけですが、この供給ルートが遮断されることでヒズボラも孤立、ガザも孤立を避けられなくなりました。アサド政権の崩壊によって、中東におけるイスラエルとイラン・パレスチナの争いは前者が劇的に優位に立ったと言えるでしょう。

 

ドイツ代表どころか国も揺るがす“エジルとギュンドアン”の禍根(footballista)

 ところが、5月にエジルとギュンドアンが独裁的なトルコの大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンと面会した後、その融合が本当にうまくいっているのか、疑問視されるようになっている。国家主義的な考え方が広まり、右翼的な「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第一党となっている現在、最も関心の高いテーマである。

 問題となったのは、トルコ企業が用意したロンドンでのレセプションで、エジルと一緒にエルドアン大統領と記念写真に収まったギュンドアンが用意していたマンチェスターCのユニフォームに入っていた「私の大統領へ。敬具」というメッセージだった。

 「人権を無視し、ジャーナリストを監禁するような独裁的政治家へのシンパシーを表明しながら、ドイツの最も重要なチームのためにプレーするなんてとんでもない」という批判の声が上がれば、『ターゲスシュピーゲル』紙も「2人は、国を一つにまとめるということの価値を疑問視している」と指摘。さらに、アンケートに答えた70%の人たちが、彼らを代表チームに招集するべきでないと答えたのだ。

 

 これは2018年の記事ですが、ドイツ代表のサッカー選手でトルコにルーツを持つ二人がエルドアン大統領と記念写真を撮影したところ、ドイツ代表からの追放論が沸き起こりました。今では考えられないことですが、当時はエルドアンこそが欧米の認定する「悪」であり、そんな「独裁者」との関係は忌まわしいものと扱われていたことが分かります。しかし現在のエルドアン及びトルコの欧米からの扱いはどうでしょうか。今でもアサド政権崩壊を好機と隣国で支配地域を拡大しようとする国の大統領のはずが、非難らしい非難を受けることもなくなっているわけです。

 かつてエルドアンが非難されてきた理由の一つには、クルド人問題があります。エルドアン側の言い分としては、あくまでテロリストに限定して取り締まっているだけ、しかし欧米からはクルド人全般を見境なく弾圧しているものと、昔はそう扱われていたものです。とりわけ北欧のスウェーデンなどは、トルコからテロ組織として指定されたクルド人武装勢力(PKK)の関係者を数多く受け入れており、相互に非難し合う間柄でした。

 転機が訪れたのは2022年で、ここから欧米(及び日本)にとってロシアが最大の悪に変わったのは記憶に新しいところかと思います。さらにスウェーデンとフィンランドがNATOというロシア包囲網に加わるに当たり、既存加盟国の承認が必要になった=即ちトルコが首を縦に振る必要が出てきたわけです。その結果としてクルド人問題で欧米は折れた、エルドアン側の言い分が全面的に受け入れられ、スウェーデンは亡命してきたクルド人勢力の構成員をトルコに引き渡す結果となりました。ロシア包囲網を強化するため、クルド人は欧米から切り捨てられてしまったと言えます。

 この後、エルドアンを糾弾する声は欧米からは全く聞こえなくなりました。日本でも俄にクルド人バッシングが盛り上がり現在に至ります。かつては悪の独裁者であったエルドアンはNATOの価値観を共有する同志となり、国外のクルド人は迫害から逃れてきた民族から治安を乱す不法な移民へと変わりました。しかし変わったのはエルドアンでもクルド人でもないはずです。変わったのは欧米からの目線であり、二重どころでは済まないレベルで基準が動いた過ぎません。

 今、シリアではトルコの傀儡勢力がクルド人の支配地域攻略を目論んでいます。かつてはアメリカがクルド人勢力を支援しており、これが2022年よりも前であったら決して起こらなかったことでしょう。しかしトルコがスウェーデンのNATO加盟を承認するための取引として、クルド人は切り捨てられました。自称・国際社会こと欧米諸国の間では、今やエルドアン側の言い分が正しい、トルコが攻撃しているのはクルド人の中でもテロリストだけであり、決してクルド人全般を弾圧しているのではない、そういう風に決まってしまったわけです。

 アサド政権だってそんなものだろうな、と思います。アサドが強権的に取り締まってきた対象にはISILの構成員や外国の工作員もいる、ただイスラエルと対立しロシアやイランと協力関係にある、パレスチナを支援するヒズボラの補給ルートでもあったが故に、より大きな「悪」として描かれてきました。これが逆にアメリカやイスラエルの傀儡であったなら、評価は変わっていたように思います。もしアサド政権がアメリカに協力してヒズボラの供給ルートを断つ上で重要な役割を果たしていたのなら、彼が人道面で非難を受けることはなかったはずです。

 何はともあれアサド政権は打倒され、元・アルカイダのシャーム解放機構が首都を占拠しました。そしてイスラエルが南部から侵攻を続け、トルコがクルド人支配地域を自身の勢力圏に収めようとしている、油田地帯は引き続きアメリカ軍が駐留したままです。勝者(イスラエル、トルコ、アメリカ)と敗者(イラン、ヒズボラ、パレスチナ)は明確になりましたけれど、ではシリア国民は果たしてどちらに入るのでしょうね?

 イスラエルやアメリカにとって好都合な現状を肯定的に見せかけるべく、ここぞとばかりにアサド政権の非道を糾弾するメディアや論者は少なくありません。イスラエルやアメリカにとって良いことは、その国の住民にとっても良いことであると、そう信じている人もきっと多いのでしょう。ただまぁ独裁者が打倒されて欧米諸国から大いに賞賛されたはずのリビアなどでは、カダフィ時代よりもずっと酷い混乱状態が続いていたりします。アサド政権に問題がなかったとまでは思わないですが、その打倒がシリア国民にとって良いものであるかどうかは、少なくとも今の時点では保証できませんね。

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ネオコン勢力の反攻

2024-12-08 21:41:21 | 政治・国際

 日本の政治を巡っても話題は尽きない昨今ですが、ただ主立った野党も政策面では与党と大きな隔たりがない、結局のところ日本の政治は安定しているのだ、というのが私の評価になります。一方で諸外国に目を向けると危機的と呼んでもおかしくない事態が相次いでいるようです。変わらない日本の政治と、何かの拍子に激変してしまう国の政治、日本の企業文化では「変化」を称揚しがちですけれど、変わることそのものに価値を置いてしまうのはどうなんだろうな、と思わないでもありません。

 どこから触れていけば良いのか迷うところですが、まずはアメリカでしょうか。こちらはバイデンという古典的政治家からトランプという支離滅裂な御仁への大統領交代が迫っているわけです。今後に向けてアメリカ国内の混乱も予想されますが、より先に影響が見込まれるのは国際戦略面で、積極的な介入を好むネオコンの理念に忠実だったバイデンとは異なり、アメリカの覇権のためであろうとも国外への支出を厭うトランプへの代替わりによって、勢力図が変わってくる地域も出てくることでしょう。

 一つはロシア・ウクライナ方面で、アメリカの鉄砲玉として戦ってきたウクライナは梯子を外されようとしています。アメリカを皮切りにイギリス・フランスと衛星国が次々と長射程兵器の使用制限を緩和し始めたのは、トランプ政権発足を控えて事態を不可逆的にエスカレートさせる思惑あっての決断と言うほかありません。アメリカ陣営に敗北があってはならない、そのためにはどんな犠牲をも厭わない、それがネオコン=中道の理念ですから。

 そんな欧米を支配してきた中道勢力ですが、昨今は右派層との分離が顕著です。中道派が推し進めてきたアメリカの覇権と資本家の優遇、つまりネオコン・ネオリベの理念に欧米では右派が強い反発を見せ始め、アメリカ陣営の勝利ではなく自国単独の利害を、富裕層の利益ではなく移民を排した自国民の利害を重視する政治勢力が、時には中道派を凌ぐ票を獲得するようになっています。ヨーロッパで自国第一主義の右派勢力が権力を掌握するようになれば、NATOの覇権も終わる、パクス・アメリカーナの時代も終焉を迎えることでしょう。

 ただ中東に目を転じると、シリアではアルカイダ系の反政府勢力による大規模な攻勢を前に、アサド政権は抵抗らしい抵抗も出来ないまま終焉を迎えました。これは協力関係にあったロシアやヒズボラがシリア支援まで手が回らなくなったからとも言われるところですが、アメリカやトルコが支援している反政府勢力も呼応する動きを見せるなど、別の国が糸を引いているところもあるでしょう。シリアはウクライナよりもずっと昔から、代理戦争の舞台でした。ロシアがシリア政府の許可を得て行動している一方でアメリカはシリア政府の許可なく軍を駐留させてきた等々、しかしこうした状況が注目されるのは稀で、ウクライナとの「国際社会」の扱いの違いは際立っています。

 そしてお隣の韓国では大統領が突然の戒厳令を発するなど、軍政時代に時計の針を巻き戻そうとするかのごとき動きがありました。これは与党議員の支持も得られず大統領自身によるクーデターは1日と持たずに終わりましたけれど、現体制の存続は大いに危うくなったと言えます。今後、日本と歩調の合いやすい親米保守政権から革新系が権力を握るとなれば日本の立ち位置も再考が再興が必要になるところですが──それでも日本の政治は変わらない、隣国をあしざまに罵り続けながら、ひたすら米国に追従し続けるのかも知れません。

 ルーマニアでは先の大統領選でNATO懐疑派の候補が最多得票を集めるも、これに危機感を抱いた憲法裁判所が投票は無効との判断を下すなど、諸外国の介入が強く疑われる事態が起こっています。そして州じゃない方のジョージア(以下、グルジアと略)でも中立路線の与党が勝利を収めたわけですが、親NATO派の大統領や野党が結果に強く反発、欧米諸国の支援を受けて政府への抗議活動が活発化しています。この辺りは前々から予見していたことではあるものの(参考:ロシア・ウクライナを取り巻く往年の連邦構成国)、当たらない予想であって欲しかったですね。

 グルジアで起こっていることは、11年前のウクライナで起こったことと酷似しています。中立路線の政府の元でEU加盟交渉が停滞したのを契機に反政府勢力が活発化し、当初は平和的なデモと伝えられるも次第にアメリカの政府関係者や武装勢力が合流していったのがウクライナで11年前に起こったことで、これは今まさにグルジアで起こりつつあることです。ウクライナでは大統領が煮え切らない態度を続ける内に首都の占拠を許しクーデターに繋がってしまいましたが、その教訓を踏まえてグルジア政府はどう行動するでしょうか。この辺も、トランプ政権の発足を前にネオコン勢力が第二戦線を作るべく背後で糸を引いているようにも思えるところ、多極化の元での平和か、アメリカの敵と味方で争い合う時代の継続か、その分かれ道にあるとも言えます。

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摘発されるライン

2024-12-01 21:55:54 | 政治・国際

 日本における犯罪検挙率は、年度や地域によって上下しますが概ね5割を下回るそうです。流石に殺人などは100%に近い検挙率が維持されていますが、その一方で認知されるだけで終わっているものも少なからずあることが分かります。もちろん「認知されない」不法行為も多々あることは容易に想像され、罰せられることなく犯されている罪もまた少なくわけです。そこで私は思うのですが、果たして公職選挙法違反の検挙率はどれぐらいなのでしょうか? もしくは認知されることなく終わっている違反はどれだけあるのでしょうか?

 昨年末には、法務副大臣を務めた柿沢未途が公職選挙法違反で逮捕されています。政府与党の閣僚であっても、一応は公職選挙法の対象外ではないようですが──ここで問われるのは柿沢氏の認識の方でしょうか。果たして柿沢氏は公職選挙法を知っていたのか知らなかったのか、政治家の家に生まれて所属政党を転々としながら国会だけでも当選5回という選挙のプロであるはずの氏が公職選挙法を知らないとしたら、それも首を傾げる話と言えます。

 2022年の北京オリンピックでは、スキージャンプの高梨沙羅選手が規定違反で失格となり世間を騒がせました。これはスーツの寸法に関する違反とのことで、どこのチームも飛距離が出るように規定ギリギリのラインを攻めている中、高梨選手の場合は僅かに規定をオーバーしてしまったようです。柿沢未途の場合もこれと同じ、公職選挙法を知らなかったわけではない、むしろ知っていたからこそ「公職選挙法が適用されない」ギリギリのラインを攻めようとした結果なのかな、と思います。

 そして現在は、斎藤元彦兵庫県知事の公職選挙法違反容疑が問われています。これも若者人気に忖度してか有耶無耶にされそうな気配が漂っているところですが、どうしたものでしょう。斎藤元彦は恐らく、関係者が余計なことを言わなければ何ら問題視されないと踏んでいたものと思われます。そして立花孝志は、制度の不備に意図して乗っかっている、そこで何かの違反に問われても斎藤元彦には連座されない、自身の目的(選挙荒し)は達成できると判断しての行動と推測されます。ただ一人、折田楓だけは本当に公職選挙法を知らなかったのだろうな、という印象です。

 何はさておき、摘発される前から公職選挙法違反が取り沙汰されるのは非常に珍しいことではないでしょうか。通常は、違反として摘発され初めて世間に知られる、摘発されなければ世の中の注目を集めることなく終わるのが公職選挙法違反(これに限ったことではないかも知れませんが)というものです。警察が動かなければメディアも動かない、メディアが動かなければSNSにも火は付かない、実際には公職選挙法違反があっても知られることなく闇に葬られている、しかし闇に葬られていること自体が知られていない、そんな気もします。

 ところが今回、警察が動く前から公職選挙法違反を強く疑われる内容が広く知られてしまったわけです。折田楓という、恐らくは違反であることを理解していなかったであろう関係者によって、まさに当事者の証言として内実が明らかにされたのは異例中の異例と言えます。通常は警察が動いてからの結果発表としてメディアからSNSへと伝播するものですが、今回は違います。これで客観的評価の通りに公職選挙法違反として摘発されるのであれば秩序は保たれますが、そうでない場合はどうなるでしょうか? これが一つの判例として、「ここまでなら公職選挙法違反に問われない」というラインが明示されてしまう結果に繋がることは言うまでもありません。そうなれば当然、今後の選挙では同じことをやる候補が続出することでしょう。

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政治文化の大革命

2024-11-24 21:41:03 | 政治・国際

 先日は兵庫県知事選が行われたわけですが、斎藤元彦前知事が再選を果たしました。日本人はパワハラ気質の人が好き、第二・第三の斎藤元彦は必ずや登場するであろうと予想はしていましたけれど、まさか支持母体の維新からも明白に切り捨てられた前知事がこれほどの短期間で権力の座を取り戻すことは、流石に私も読めなかったです。かの権力闘争の天才・毛沢東ですら失墜から返り咲きまでは少なからぬ歳月を要したことを鑑みれば、この辺は率直に感嘆すべきところでしょうか。

 

10~20代は7割が斎藤氏を支持 兵庫知事選、投票者ネット調査(毎日新聞)

 前知事の失職に伴う兵庫県知事選を巡り、毎日新聞社と神戸新聞社は17日、投票を終えた有権者を対象にインターネット調査を実施した。再選を確実にした前知事の斎藤元彦氏(47)は幅広い層から支持を集めた。特に若い世代に浸透し、10~20代の投票先の7割近くは斎藤氏だった。

 

 世代によって支持傾向が大きく異なる政党・候補者は以前よりいるもので、先の都知事選の石丸伸二、衆院選の国民民主、そして兵庫県知事選では斎藤元彦と「若者に人気」の候補が世間の注目を集めています。選挙への関心が低く投票率が下落すると、それでも選挙に行く割合の高い中高年層の票が結果に反映されやすくなり当該世代の支持が厚い立憲民主などに有利となるわけですが、前回の衆院選、今回の兵庫県知事選はいずれも投票率が上昇、若者が投票所に足を運ぶようになったことで大きく結果が左右されたと言えるでしょう。

 無投票や白票は意味がないとムキになって否定する、必ず誰かに票を投じるべきなのだと主張する人もしばしば見かけます。投票率が低いままの選挙は番狂わせも起こりにくく無風に近いところがありましたけれど、若者が選挙に足を運ぶようになった、投票率が大きく上がったことで今までとは異なる勢力が伸びてきているのが現状です。まさに選挙に行けば世の中が変わるのだと言えますが──今の「結果」は無投票や白票を否定してきた人の望んだ状況なのでしょうか。

 いずれにせよ、若者の力で斎藤元彦は再び選挙で勝ちました。少し前までは斎藤批判を繰り広げていたメディアや政治家の一部は早くも自己批判を行い、復権した知事にすり寄る動きを見せています。維新の開祖である橋下は収まりが付かないのか今でも斎藤勝利に苦言を呈しているところですが、周囲の政治家は口を噤み始めている等々、今後の維新と斎藤の関係がどうなるかは大いに気になります。若き信奉者を後ろ盾に斎藤元彦が我が国の政治文化に大革命を起こしていくのかどうか、そこは目が離せません。

 斎藤元彦が若年層の強い支持を得た背景としては、動画配信やSNSの影響が挙げられています。いわゆる闇バイトに応募するような精神を持ってすれば、立花孝志を怪しいなどとは感じない、むしろYoutuberは信用できる、エスタブリッシュメントの書いていることこそが嘘で自分が見たことこそが真実と、そういう考え方になるのでしょう。流行は繰り返すとも言われますが、ネット右翼の全盛期にブログを書き始めた身からするとまさに「ネットde真実」の再来といった印象を受けます。

 もっとも既存メディアも誠実ではなかった、信頼を損ねる原因はあったはずです。そして政治家も然り、たとえば中国やロシアを非難する文脈で「法の支配」というフレーズが好んで使われますけれど、一方でアメリカやイスラエルの国際法違反に対して同じ基準が適用されることはありません。大手メディアの敵、アメリカ陣営の敵に対しては不当な非難を向け、「味方」に対しては罪を問わない、そんな姿勢は既存メディアも既存政党の政治家も、Youtuberもインフルエンサーも、どれも同じようなものであったことは確かです。

 こうした中では事実というものは意味を持たなくなります。刑死したキリストが復活したかどうか、その真偽を明らかにすることで考え方を変える人がいるでしょうか? 何を信じるかは事実関係に左右されるものではない、むしろ何を信じることに決めるか自己決定の問題でしかありません。「事実に沿って自分の行動を変える」という人は実は昔から決して多くない、むしろ「何を信じるか」はあらかじめ決まっており、その教えに沿って生きるのは過去の人間も現代の人間も大差ないのだ、と思います。

参考:兵庫県知事選挙における戦略的広報:「#さいとう元知事がんばれ」を「#さいとう元彦知事がんばれ」に
  ※魚拓 https://megalodon.jp/2024-1121-0124-57/https://note.com:443/kaede_merchu/n/n32f7194e67e0

 一方、選挙期間中に斎藤陣営の宣伝を請け負っていた業者が自らの活動内容を嬉々として披露するなど、公職選挙法違反の証拠が万人に公開されていたりもします。基本的に日本の政治文化はカネが絡むと厳しくなる、昨年末には法務副大臣であった柿沢未途までもが逮捕されるなど、この辺は従来であれば許されないところです。もし公職選挙法が全ての候補者に等しく適用されるのであれば斎藤知事もまた処罰を免れることは出来ませんが、どうなるのでしょうか。先述のように国際法の適用される基準をロシアや中国と、アメリカやイスラエルとでは別々に設けているのが我が国でもあります。人気者にはあやかりたい、という精神で公職選挙法違反も有耶無耶に……という可能性があり得ないとは言い切れません。

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